101話 兄よりも妹の方が偉い。これは兄に課せられた宿命である。異論は認める。
「今日俺仕事なんだけど」
「ふーん、そうなんだ。いってら」
朝リビングに向かうと当然のように妹がまだ居座っていた。
そういえばいつ帰るとか全然聞いてなかったけど、今日もこのままここにいるつもり?
めちゃくちゃ興味なさそうに返事してるけど、絶対帰る気ないよね。
まあ、別にいいんだけどこんな田舎にいたってすることはないだろうし、とっとと帰った方がいいと思うんだけど。
「今日レイちゃんとショッピングに行くから」
ショッピング……? なんだそのおしゃれな行為。
こんな田舎でそんなおしゃれなことができると思ってるのか。
普通に買い物しに行くって言えよ。
というか勝手に言ってるけどレイは本当に妹についていくんだろうか?
今リビングに姿は見えないし、きっとまだ部屋で寝てるんだろう。
ああ見えてレイの朝は遅い。
……ああ見えて? レイの行動を思い返せば割と想像通りではあるか。
「昨日レイちゃんがファッションショーみたいなことし始めてみてたんだけどさ。あれ、さと兄の性癖全開の服でしょ? ほんとセンスないよね~。レイちゃんは着せ替え人形じゃないんだから」
性癖とか言うな! お前がなんで俺の性癖知ってるんだよ!
それにもし俺が買った服にセンスがないんだとしたら、それは俺のセンスがないんじゃなくて服選びの時に見てた画像のセンスがないから、その画像を作った人に言ってください。
会話の流れ的に今日は服を買いに行くということだろうか。
「ん」
こっちを見ずに片手をこちらに差し出してくる妹。
なんだ? 何も言わずに手を出されてもなんのこっちゃ俺にはわからんぞ。
とりあえずその手の上に自分の手を重ねてみる。
「……俺の方が手がでかいな」
「何言ってんの当たり前でしょ。というか何してんの、気持ち悪い」
気持ち悪いって言われたって、手だしてるんだから俺も同じ事すればいいのかなって普通思うだろ!
人として当たり前の行為だよ!
「普通手出したらお金置くでしょ!」
おかねえよ! どんな人生送ってきたら手出しただけで、お金がもらえると思うんだよ!
甘えん坊か。もしかしていままで手だしてたら親が金出してくれてたのか。
俺、そんなことされたことないけど!?
まあ昔から妹には甘かったしなあ。
きっとこれは全国のお兄ちゃんの宿命なんだと思うけど、基本的に親というのは下の子に甘い。
俺は悪くないのに俺のそばにいるときに妹が泣けば、問答無用で俺のせいになるし、妹がねだったものは大抵のものは用意される。
まあ別に不公平だとかなんだとかは思ったことないけど……そうか~、お金も自由自在だったのかあ。
……というかなんでお金?
「今日、ショッピングに行くから」
わざとらしい大きな声でさっきと同じことを言っている。
……ああそういうこと。
買い物に行くから金を出せと。
それならそういえばいいのに。俺がケチるとでも思っているんだろうか。
買い物の目的もレイのためっぽいし、別に何も言わないけどな。
俺は財布から1万円札を取り出し、妹の手の上に置く。
「あんがと」
妹は一万円札が乗ったまま手を引っ込めると、それを無造作にポケットの中に突っ込んだ。
「鍵ここに置いとくから」
予備の鍵、いわゆる合いかぎを妹の目の前に置く。
まさか合いかぎを使う時が来るなんてなあ。
感動しそうになるけど、相手が妹だから感動したところでって感じなんだよなあ。
「会話しようとしないのは、もはや意地なの? まったく誰に育てられたんだか。親の顔が見てみたいね」
会話してるでしょうが。別に全く話してないわけじゃないんだから、ちゃんと会話は成立している。と俺は思っている。
思い込みって大事なんだよ?
あと親の顔は俺と同じくらい見てるだろ。
むしろ俺の方が早く一人暮らしを始めたから、俺よりも多く見ているのに、いったい何を言ってるんだか。
もしかしていってみたかっただけなのか、その定番セリフを。
兄を言ってみたい言葉のはけ口にするんじゃないよ、まったく。
そんな風に育てた親の顔が見てみたいね。
結局家を出るときまでレイが顔を見せることはなく、まあ朝はいつものことなんだけど、そのまま妹をおいて会社へと向かった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます