65話 疲れたときのアイスって本当に絶品ですよね。まあ俺は食べれないんですけど。
ひどい目に合いました。
……いや本当に。
俺ただ休日にショッピングに来ただけじゃん?
それなのになんで一人でエア目隠しするわ服屋で大脱走スマッシュゴーストを始めないといけないわ、挙句の果てに女装して万引き疑い?
別にそんなハチャメチャな休日を送りたかったわけじゃないんですよ。
俺は静かに優雅にショッピングを楽しんで、それなりの満足感を得て帰宅できればよかった。
それなのに何この全力疾走した後かのような疲労感。
今日一日でここ一週間以上の体力を使い果たしたような気がする。
フードコートの安そうなプラスチック製の椅子にもたれながら、スプーンでアイスをすくい取る。
それを口に運ぼうとするが、その前にスプーンの上に乗っていたアイスは忽然と姿を消す。
「んーーーー」
「幸せそうで何よりですけど、俺にもくれるっていう配慮はないんですかね……」
俺の膝の上には足をバタバタとさせながらほっぺに手を当てて顔をとろけさせているレイの姿があった。
もう何が何でも椅子の上には座らないという意思のもと、俺の膝の上という選択肢を選んでくれたことには何の文句もないんだが、その位置だと俺が食べようとしたものはすべてレイの口の中へと消えていく。
そもそもなんでフードコートに来てしまっているのか。ここに来た当初は何が何でもこのエリアは避けなければとあれほど苦労したというのに。
いや、言い訳をさせてほしい。
可愛い顔とは裏腹に結構な罵声を浴びせてきた店員さんの攻撃によって俺のHPは著しく低下していたわけですよ。
そしてやっと解放されたと思ったら近くから美味しそうな焼きそばの匂いやら、鉄板焼きの匂いが漂ってくるわけです。
これは俺に大打撃の精神攻撃。気づいたら俺はアツアツのお好み焼きを持って、ここに座っていた。
……うん、わけわかんねえな。
そのお好み焼きがどうなったかというと、誰もが想像できる通り俺の膝の上に座っている小さな悪魔が全て食べつくしてしまいました。
いや、俺もこれ以上レイを甘やかすわけにはいかないと思って一度は席を立ったんだよ。
でもアイスのメニューにあるサンプル画像がめちゃくちゃおいしそうだったんだよなあ。
確かに俺はお好み焼きを一口も食べることができていないから、結構腹が減っている。新しく買い直すことも考えたけど、レイが食べている姿と匂いを嗅いで変にお腹いっぱいになった気分になっていた。
そして食後のデザート気分で……気づけば俺はアイスを手に持って席に戻ってきていたわけです。
そしてアイスという好物をレイが見逃すはずもなく……。
そうして俺の行きの攻防も努力もすべて水の泡となり、レイの策略にまんまとはまったのでした……て、完全に自業自得だな、うん。
「あーん」
ボーっとしながらここまでの経緯を思い返していると、突然スプーンを持っている右手が誰かに掴まれているような違和感を覚える。
そしてこの声はレイの声……まさかこれは!?
夢にも見たカップルなら絶対にやるであろう『あーん展開』なのか!?
勢いよくレイの方に目を向けると、レイは俺の方には目もくれず両手で俺の右手を掴み、無理やりアイスの方へとスプーンを動かそうとしていた。
そしてその口は大きく開いていて、いつでも準備OKな状態だ。
「そこはさあ……。ほら、涎垂れてるぞ。台無しだぞ、いろいろと」
レイのよだれで俺の服が汚れるということはないが、見てくれがものすごいことになっていたから、その口をふさぐためにアイスを取って、スプーンをレイの口の中に放り込む。
レイにお決まり展開を期待した俺も悪かったが、これは期待させるようなことを言ってきたレイもちょっとは悪いんじゃないかな。
そんな意味を込めてレイをじっと見つめるが、彼女は最早俺のことなど眼中になくアイスとスプーンにしゃぶりついている。
ほんと、今日は色々と予想外すぎるよなあ。
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