36話 うちの幽霊はずっと負けず嫌いです。なんでデジタルの方が強いの?
「よっしゃあ!」
「むーー」
レイと始めた格闘ゲーム、現在3戦全勝。
ゲーム内のカエルのガッツポーズと同じポーズを俺は今している。
というかカエル同士で戦う格闘ゲームって何?
なんか戦ってる画がシュールだし、無駄に操作性難しいんですけど!?
それに勝った報酬がカエルスタンプって誰が喜ぶのさ?
それにしても今の三戦目は結構危なかった。
一戦目はコントローラーのボタン配置すらわからず、おぼつかない操作のレイだったが、二戦目では完璧に配置を覚えてきていた。
そして三戦目、スキルコンボを覚え始めた俺とジャンプして逃げるということを覚えたレイとの戦いは、攻撃こそこっちが押しているものの、気を抜いたらカウンターを食らうという何気に一進一退の攻防を繰り広げていた。
四戦目でレイが攻撃手段を覚えてきたらけっこうまずいかもしれない。
「もう一回」
「おう」
しかし俺に逃げるという選択肢はない。レイがまだ戦う気があるというのであれば、俺はそれを受けて立つまでだ。
そうしないと、俺家の中で凍え死ぬとかそんな変な死に方したくないし。
「次は赤色で行くかな」
ちなみにこのゲーム、操作キャラクターは色違いのカエルのみである。全7色のカエルの中から一匹選んで戦う感じだ。
今までやってみた感じ色ごとに特異な攻撃スキルが変わるらしい。
正直わかりづらいしそんな大きな変化があるようには見えないんだけど。
レイが選んだのは灰色のカエル。
確かカウンタースキルが優秀だった気がする。
やっぱり四戦目も逃げの一手を使うのか?
そうして始まった四戦目。
俺は見事にレイのカウンターにはまった。
「あ、くそ! これなら……うえ!?」
そして俺は初めてレイにゲームで負けた。
「勝った!」
レイのこの嬉しそうな顔。なんで俺負けたのにこんなほほえましい気持ちになってるの?
俺って負けず嫌いじゃなかったっけ?
「もう一回」
でも勝ち逃げさせるとは言っていない。たまたままぐれで一回勝っただけかもしれないだろ?
今度は俺もちゃんと考えて攻撃するさ。
俺は選手交代緑のカエル。遠距離攻撃にプラス補正があるらしい。
レイは変わらず灰色のカエル。どうやらお気に入りらしい。
五戦目、開始。
……全然遠距離攻撃当たんないんですけど。何そのガードのタイミング、うますぎない?
え、俺のこの遠距離の玉跳ね返せるの? なんで俺が攻撃したやつで俺がダメージ受けてるわけ? そんなのずるくない?
いやいやどういう操作したらそんな的確にカウンター使えるのさ、俺の体力めっちゃ減っていってるのに、レイまだ全然余裕なんですけど。
俺はつい気になってレイの手元の方に視線を向ける。
……なんか指が今まで見たことないようなスピードと滑らかさで動いていた。
正直何やってんのか全然わからなかった。
そしてレイがそんな俺の隙を逃すわけもなく、画面に意識を戻したときにはすでに俺が操る緑のカエルは地面に倒れていた。
「……負けた」
「勝った!」
さっき勝った時と同じように目をキラキラさせながら勝ち誇ったような顔で俺を見上げてくるレイ。
まあようなっていうか、実際勝ってるんですけどね。
ていうか何この順応の速さ。もうなんか勝てる気がしないんですけど。
いやいやいやここであきらめてどうする。まだわからないだろ。
「もう一回!」
「いいよ」
くっそー、レイのやつ余裕気にしやがって! 次こそ負かす!
……結局そのあと5戦やって俺はレイに全敗した。
結果、俺3勝3敗。レイ、5勝3敗。俺のま……
「まだだ! 次はこれで勝負だ!」
俺は格闘ゲームを素早く終わらせると別の目に入った無料レーシングゲームを開く。
格闘ゲームはあれだ。あのー……ちょっと調子が悪かったんだ!
ていうか適当に目に入ったやつ開いたけど、なにこれ、旅客機でレースするの?
いやお客さん乗せている飛行機同士で競っちゃだめでしょ。
ルールを見るとどうやらスピード・レース終了時のお客さんの生存者数で競い合うようだ。
なにこれ、こんな飛行機乗りたくないよ。
「まあいいや、やるぞ」
「うん」
始めて見ればゲーム性自体は特殊なものの、操作性自体は普通の車のレーシングゲームと変わらなかった。
いや飛行機と車の操作が同じってどうなのって思うけど、まあそこはゲームだしな。
レーシングゲームは格闘ゲームと違ってやったことがあるから、まあまあ自信がある。
これならレイに勝ち越せるはず!
「なん……だと……?」
「さっきのより簡単」
しかし俺の希望はいとも簡単に打ち砕かれる。
一戦目は俺の勝利。ただし二戦目、三戦目と俺はレイに負けた。
二戦目はスピードでは勝ったもののお客さんの残っている数で大差がつき負け、三戦目は普通にスピードでも残存数でも負けた。
「簡単……?」
いやいや飛行機のバランスを保ちつつ、カーブを攻めてなおかつお客さんが死なない程度にスピード出すのめちゃくちゃ難しいんですけど?
なんで俺の方は半数以上お客さんの数減ってるのに、レイの方は俺よりスピード出してたのにお客さんほとんど残ってるの?
「くっ……」
「終わり?」
俺の4勝5敗……。
「まだだ! 次はTPSで勝負だ!」
俺はレーシングゲームの画面を閉じると、レイが来るまでやっていたTPSのゲームの画面を開く。
こうなったら完全に俺の土俵で勝負だ! プライドなんてものはない!
勝利こそすべてだ!
……といってもこれはチーム戦だからな。どうしたものか。
「……より多く敵を倒した方が勝ちな」
「? わかった」
これは100人の銃撃サバイバル戦。最後の1チームになれば勝利。
今までなったことはないけど、敵を倒すことはできる。
ふっふっふっ。俺の神髄を見せてやるぜ……。
――reiがsabori-nuを倒しました――
「おー、ナイスヘッドショット」
……じゃなくて!! なんだ今のスナイパーショット!
俺敵の姿完全に見えなかったんだけど!? え、ズームとかもしてなかったよね?
まぐれ?そうだよね?そうだといって!
――reiがponpokoを倒しました――
「おーナイス」
……まぐれじゃありませんでした!! 一体どういう精密さでどんだけ先の距離の敵を撃ち抜いてるの?
何この子天才? ゴーストゲーマーとして大会に出場させた方がいい!?
「余裕?」
「お、おう! うえ!? なんか撃たれてるんだけど!?」
「そこ」
「どこどこ!? うえあ!? わからんって!」
「あ」
「あ……」
――saikyoがsatoriを倒しました――
なんか敵の姿を見つかる前にハチの巣になって死んだ。
――reiがsaikyoを倒しました――
そして俺を倒した相手をレイが冷静にハンドガンで対処して倒していた。
――ドンvictory!! おめでとう! 一位です!——
結果、その後もレイは淡々と敵を倒し続けて当たり前のように最後の一人になっていた。
「勝った。ほめられた。楽しかった。一番!」
レイは誇らしげにコントローラーから片手を離して、びしっと人差し指を伸ばして笑顔でそ俺にむかって突き付けてくる。
すっごいうれしそうな顔してるし、なんかすごい健気だし、プライドまで捨てて勝負にこだわった俺バカみたいじゃん……。
なんかもう……
「完敗です」
俺はコントローラーをその場において、両手を地面につきレイへと頭を下げる。
「? でも今のは一緒に勝ったんでしょ?」
頭上からそんなレイのきょとんとした声が降りかかってくる。
「レイ!!」
何この子すごいいい子じゃん! そうだよな! 最後のこれはチーム戦だもんな!
二人で勝ち取ったものだよな! 俺0キルだけど、誰が何と言おうが二人の勝利だよな!
俺は嬉しさのあまりレイに抱き着こうとしたが、当然その腕はレイの体を通り抜け勢い余ってあれは床に突っ伏する。
俺の突然の行動にびっくりしたレイはばっと立ち上がると、すさまじい寒気を俺に与えながら、その場から走り去っていった。
「勝った!」
そんな捨て台詞……いや、勝利宣言を残しながら。
あーめっちゃ笑いながら言ったんだろうなあ。目の前床色一色だったから見えなかったけど。
なんだこれ。負けたのにめちゃくちゃすがすがしいな。
……とりあえずカエルも旅客機も銃撃戦も特訓するか。
俺もレイも負けず嫌いである。
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