第三章 幽霊との日常
26話 ゴミになるはずだったもので遊べているので、消費が激しくても実質コスパ最強なのでは?
「おかえり」
「お、おう」
毎度毎度のごとく壁からひょこっと顔を出し、こちらを覗きながら帰ってきたら声をかけてくれるレイ。
そしてそれに毎回きょどりながら返事を返す俺。
今日も今日とてこの時ばかりはレイさんは機嫌が悪そうである。
いや、なんか慣れないんだよね。もうかれこれ5年くらい一人暮らし生活をやっていて、いきなり家に帰ったらねぎらいの言葉をかけてくれる人が待ってるってなに、どこの幸せ者? ああ、俺でしたね。
そんなことがあればいいなあとは思ってたけど実際なってみると、返事に困る。
いや普通におかえりって言われたらただいまっていえばいいんだろうけど、実際ひとり言の時はそうやって会話をしてたけども、いざ面と向かって言われると恥ずかしくてなかなかただいまが言えない。
なんだろう。反抗期の時に実家に帰ってきて母親におかえりって言われてうまく返せないみたいなそんな感じ?
それもちょっと違うか。
ともかくレイは最近毎日俺が帰ってくるとこうやって出迎えてくれる。
かといっておかえりしか言わない出迎えロボットになったのかというとそうでもない。
ていうか出迎えロボットって何? 一人暮らし生活の人のところに現れて、毎日「おかえりなさい、ご飯にする? お風呂にする? それとも……」とか言ってくれるタイプのロボット? 何それほしい、どこに売っているのか教えてください。
レイは少しずつ紙に書くよりも口で言う数の方が感覚的に増えてるような気がする。
もちろん俺はレイに変な単語を覚えさせしまいと日々の言動には気を付けている。
そんなレイだが、最近彼女に部屋にお呼ばれされることが多くなっている。
ほら、今だってリビングの扉から半分だけ身体を出してくいくいっと手招きしている。
手招きされた俺に抵抗の余地は残されていない。
まあちょうど飯も食い終わったところだし、時間も空いてるし断る理由がないから誘いに乗ってるだけなんだけど。
怪談話でよくある「こっちにおいで」って引き寄せられる話ってこんなにかわいらしい話だったのね。俺知らなかったよ。誰かもっと早く教えてくれれば、ホラーも苦手じゃなくなったかもしれないのに。
ホラーで萌えだしてもそれはそれでやばい奴か?
そんなこんなでレイの部屋に入ると心地よい冷気が中には漂っていた。
おかしいな、この部屋は冷房なんて入れてないのに夏真っ盛りで暑いはずなのに、いつ入っても涼しいんだよな。
そして机の方に目を向けるともはやおなじみのジェンガ風に積まれたアイス棒たち。
週末休みの前日になると最近よくレイにこのアイス棒ジェンガに誘われるのだ。
「やる」
「そうか」
やる?と聞かれているわけではなく、断定なので俺と一緒にやることは確定になっているようである。
俺と向き合う形で対面に正座するレイ。気合は十分といったところか。
もちろん俺もやるからには本気である。いくら世間知らずの幽霊が相手だとしても俺はゲームにおいて一切の手加減はしない。
そして何気にこのアイス棒ジェンガ面白いのだ。ジェンガよりもバランスを保つのが難しいし、少しでもミスればすべて崩れ去る。
まるで人生みたいだね。……はっ!そうか、ジェンガとは人の人生を体現していたのか!!
俺の人生はいったいどこから崩れ去ってしまったのだろう。
なんだか目の前でうんうんとうなっているレイを見ながらそんなことを考えていたら、悲しくなってきた。
集中しよう。
俺は1本目を早々に抜く。まだ1、2本目は余裕だな。
余裕だよな? レイさんよ。いや、そこはまずいんじゃない。ほらぐらついてるよ。お手付きしたから負けとか言わないからやり直してもいいんだよ。
言っているそばから目の前で崩れ落ちるアイス棒タワー。
そう、このゲーム面白いには面白いのだが、一つ問題があるとするのならばとてつもなくレイが弱いのだ。
一人遊びで俺よりも何十、下手したら何百とこのアイス棒ジェンガの歴戦を重ねてきたレイである。
はじめてやった時はそれなりに覚悟して、負けるつもりで勝負に挑んだのだが、結果は御覧の通り、これまで俺は全勝中である。
「そんなとこ抜かない」
レイのいいわけである。
まあ一人でやってるときはなるべく続けようとして、バランスが保てそうなところから抜くからなあ。
その気持ちはよくわかる。
俺も中学時代とか一人で対戦型カードゲームをやってたときとか、もうダメージをゼロにできたのに「ふはははまだ終わらんぞ!」とかいって、やけに引き延ばしてたもんなあ。
やめよう、この記憶は掘り起こしちゃだめだ。そんな気がする。
まあ一人でやってる時と相手がいるときじゃ感覚が全く変わるからな。
何分俺は意地が悪いからな! レイが抜きやすいところの棒を抜いたりはしない。
それでも4本くらいは持つと思うんだけどなあ。
『もう一回』
血文字を見せつけてくると同時に机の上で組みあがる棒タワー。
崩れ去るのも一瞬であれば、組み立てるのもこれまた一瞬である。
もしこのゲームがどっちが長く崩せずにいられるかではなく、どっちが早くタワーを立てられるかだった場合、俺は瞬殺される。
絶対に勝てない。
だから俺からは絶対そんなゲーム提案しないけどね!
俺だって負けたくないし、勝ちたいし。
そんな俺の腹黒心理など知る由もなく、白熱?した二回戦が始まった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます