17話 はいそこ、親ばかって言わない。
「レイ! 読めるぞ! 俺には読める!!」
俺とレイの周りには机の上に乗りきらないほどの紙切れが散らばっていた。
そんな中俺は一枚の紙切れを天高く掲げて大声で叫んでいた。
あれから3時間、俺とレイは必死にメモ帳に文字を書きなぐってきた。
途中からはなんかレイとかわたしはとかですとかの文字がゲシュタルト崩壊を起こしかねてたよね!
そしてそんな紆余曲折を経てついに、レイが読める文字を書いたのだ!
もとからなんて書いてあるかわかっていれば読める程度の、内容を何も知らない人が見たら全くなんて書いてあるかわからないレベルのミミズ文字だ。
だが俺にはしっかりと『私のなまえはレイです』と書かれているのがわかる!!
しかもごらんのとおり、漢字とカタカナをちゃんと使えてるんだよ! この子天才なんじゃない!?
「レイ、お前すごいな!」
俺は興奮のあまりレイの頭に手をやってよしよししてしまっていた。
いやレイの頭をなでているつもりだったんだけど、実際には勢い余って俺の手がレイの顔にめり込んで、俺が手刀で彼女の顔を切り刻んでいるような光景になっていた。
レイも達成感があるのか、そんな俺の行動にも抵抗を見せてこない。
それにしても自分がやったことじゃないのに、自分のことのようにうれしいんだが!
こんなこと初めてだし、もしかして子供を育ってるってこんな感じ?
子どもどころか結婚もしていない、彼女すらいないのに俺もしかして父性に目覚めちゃったの!?
でもここまで俺も超がんばったしな。時々なんでかわからんけど、レイのボールペンが俺の手の甲に当たったりして、俺の方が血文字書けそうなくらいなんだけど。
だからこれくらい喜んでも別に文句ないだろ?
そんなことを考えていると、レイの方に伸ばしている腕が何やら押し返されるような感覚があった。
そちらに目を向けると、何やら必死にレイがボールペンで俺の腕を押し返そうとしている。
ついずっとやり続けちゃったからな。さすがに嫌になったのかな。
みょんみょんみょんみょんみょん……。
いや、これは別にレイからこういう音が出てるんじゃなくて俺が勝手に想像しているだけなんだけど。
だってレイ、俺が手を離したとたんに自分の両手をこめかみ部分にあてて、顔をしかめながらメモ帳に向かって指向けてるんだもん。
なんか呪文でも唱えそうな勢いじゃん。
この場合呪文じゃなくて怨念か?
そんなバカなことを考えている間に、レイは机の上に置いていたメモ帳を手にとって一ページを破り捨てて、俺に見せつけてくる。
なになに?
『こっちの方が簡単』
レイがふくれっ面で持っている紙切れには、血文字でそう書かれていた。
……えー、血文字ってそういう感じで書いてるの?
なんかイメージと違うんだけど。
もっとこうなんか、指を食いちぎってそこからあふれ出した血で書いてるとかじゃないの?
何その無駄にすごいハイテク技術。
まあレイが突然指食いちぎりだすのも嫌だけどね。
確かにこういうやり方なら、文字書けなくても血文字をかけるよな。
レイは手が痛くなったのか、単純に飽きたのかそのまま机から降りると、元いた部屋の隅へと戻っていった。
今はどこから取り出したのか何本ものアイスの棒をジェンガ風に組み立てて遊んでいる。
結局ボールペンを使って文字を書くことはしないようだ。
俺の3時間の苦労はいったい……。
まあ別に本物の血を使って書いてるわけじゃないし、レイも困ってるわけじゃないから別にいいのか?
あれそういえば俺って何しにわざわざレイのところに来たんだっけ?
まあ細かいことはいいか。
結局その晩、レイがやっているアイス棒ジェンガを一緒にやって、気づけば深夜になっていた。
……なんか俺最近寝不足なこと多くない?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます