第19話

お上は、三人の書に目を通し終えられて、初めてお言葉をお発しになった。


「どれも、素晴らしい。それぞれの個性が引き立っている。」


そうお語りになりつつ、お気づきになったことには、結局のところ、皆が筆もよくするという事実であった。


無論、文章生(もんじょうせい)が日夜、自分の人生を賭けて刻苦精励したところの、工芸品のような彫琢ぶりやそつのなさには比肩し得ぬものの、“読めない”ということはまずないし、何よりも、“達意である”ということが、三人にそろって垣間見ることができる、彼女らの長所なのであった。


なかんずく、一番年若な者まで筆が如意であって、その者に潜む一種の豪気が、更衣の優しさに基づいた高踏的趣味を、今後よく援護し得るであろうというお考えゆえに、お上は、その者の存在をありがたく思われるのでもあった。


そして、後ろ見の女房の落ち着いた、そして、見識に満ちた書きぶり、そこに漂う冷厳な精神性の恐ろしいほどのとり澄ました様相は、若い二人の書き手としての筋をよく調整しようとも、お上はお考えになったのである。





一連の事実は、お上の“当初の願い”によく合致し得た。





けれども、この経過の中で、お上は、更衣に性急に、そのお望みになるところを求めんとする己が身勝手をご痛感されたゆえ、これを進展させることにつき、ご逡巡遊ばされた。





しかし、お上の願いは今手を着けられることが最善であり、この時を措いて、それはなされ難くなろうと、お上はおはかりになり、この件に関して、前進するご決意を固められたのである。





その際、更衣が、二人の得難い取り巻きを持っていることに、お上は大変嬉しく思われたのである。

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