第30話 2047年―紅い灯火

 八塩が二十歳、萩が十八歳のとき、利矢は自分の子どもたちが他者の通過点に利用されていることを認知していた旨を伝えた。

「実はある任務を引き継がせるのに相応しい方を見極めるためでな、判断と任命のときが遂に来た」

 それまでは八塩だけでなく、萩も大人しかった。

「八塩、お前の後任者選びも含め、すべてを任せる」

 八塩は口を閉ざしたままだった。一方で萩はこめかみに血管が浮かび上がった。

「私の立場は? 父さん、娘である私も利用していたってこと?」

「やめろ、萩」

 そこで初めて、八塩の声が聞こえた。萩は利矢のプライドを受け継いでいた。

「適材適所といってな、今回は八塩の方が適任だと判断したまで。萩が自分自身のプライドを大切にするのは良いことだ。他者に利用されるのが許せないならば、お前が利用する立場になれ」

「だったら私、八塩より強くなる。その任務、私に任せたら良かったって後悔させてあげるから」

 そう言い、萩はヨーロッパの空の穴から離れることになる。利矢と八塩は無言で見送ることになる。陽子はすでに亡く、可愛さゆえに引き留める者がいなかった。

「あの気の強さ、一体誰に似たんだか」

 八塩は答えなかった。目前の答えが無自覚でも家族関係に支障がないと知っていたからだ。

 実際、後に八塩は任務の途中で萩に再会する。萩はハナサキ族のパートナーと出会うことで考えを改め、誰にも尖らなくなる。利矢とは再開しないものの、萩の強さを見つけた旨を伝えるよう八塩に頼むこととなる。

「僕の任務を早く言ってください」

 八塩にも灯火主張性が受け継がれていた。

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