第27話 2020年12月―灼熱の裏側⑥

 それから男性とロナルドは拳の空振り大会を始めた。彼らの意識では相手を痛めつけていた。

「お前ごときが、このグリーン・ムーンストーンば手込めにできるはずがなかやろう」

 ロナルドには聞こえていなかった。

「さて、こいからお咎めばせんばね。あんたらはどがんすると? 今回ばかりは便乗してもよかけど、その後は?」

「私はもう、あの杜には居たくありません」

「俺もです」

「いや、だからそいけんどうするのどがんするとって言いよるやろ。ちなみに敬語ば使わんでよかけん。ウチもこのとおり方言のいっちょん抜けとらんし」

 本来の姿二体にも鼻で小突かれて、人型の姿二体は肩を落としていた。

「女王サマでさえ、ロナルドにあのような態度でした。あの杜で一番力があるとはいえ、トビヒ族全体で見れば彼は女王サマの臣下なのに……。私たちのような一つの杜での裏切り者は、どの他の杜に移っても歓迎されないでしょう。それならば、手下として働かせてください」

「俺も、女王サマがお望みとあらば、どこへでも。脚力だけは自信があります。どのトビヒ族よりも早く参上します」

 二体は敬語が抜けず、膝をついてまで畏まった。本来の姿二体に見定められても、身動き一つしなかった。彼ら二体は瑚子がグリーン・ムーンストーンになる以前から自ら動いてきた。種族の定めとして。人型の姿二体は瑚子の咎めを自分の定めに求めている。

「そうね、ウチばダシにしてロナルドば責めたったい。あれほどの惨事ばもたらすモンだと想定しとったとかは知らんばってか……せっかく申し出たんならその狡猾さ、ウチの手足として使わんばね。けど辞めとぅなったら、いつでも辞めてよかばい。あとはそこん二体に任せる」

 瑚子は顔面全体が痣で変色した男性とロナルドを見た。トビヒ族は植物成分がもたらす変化には耐久性がある。しかし成分を不自然に弄ったドラッグには体がもたない。

 彼らが果てる前に、瑚子はハナサキ族を呼んだ。

「こいだけは言い忘れたらでけんね。ハナサキ族にだって自分の考えばちゃあんと持っとる。その上で利害の一致したら、争うの止めてもよかやろ。今の時代、同盟なんてなかと同じやし。あの杜に同盟の『ど』もなかったやろ?」

 二体が頷くのを、瑚子は背で見届けた。


 ハナサキ族に跨った瑚子を見送り、人型の姿二体は本来の姿一体ずつについて行った。

 出発の前、二体は願いを交えた。

「私たちが先に、女王サマの住処を見つけたいね」

「今度は俺たちの名前を聞かれたいな。いざというときに呼んでもらえるように」

 女性の一体はルア。

 男性の一体はリュンヌ。

 後に、世界中の杜に散るトビヒ族の連携システムを強化する。


 二体にとっての太陽、瑚子の月として。

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