クレーンゲーム
「石化の息吹が厄介だったが、風の魔術を活用してなんとか討伐したんだよな。しかし、その後、村の人を助ける為に『解石魔術』を開発することになってな。あれには苦労したものだ」
エリザと目が合う。
ふむ。俺としてことが迂闊だった。
過去に戦った『強敵』について話をする時についつい饒舌になってしまうのは、昔からある俺の悪癖の1つだ。
なんと言っても前世の俺にとって『戦い』とは、最大の娯楽と言っても過言でないものだったからな。
人間というものは楽しかった記憶を語る時、普段よりも多く舌が回るものなのだろう。
不意にエリザがクスリと笑う。
「アベルもそういう冗談言うのね。なんだか意外」
「……ああ。まあ、な」
冗談ではなく事実なのだが、この場は冗談として流してもらうとしおう。
エリザがケースの向こうのジャミスを見ながら溜息を吐いた。
「アタシ、変なのかな? もっと可愛らしいモンスターは他にもたくさんいるのだけどね」
ふう。エリザも年頃の娘のようなことを言うのだな。
実際『周囲と違うことに悩む』のは、エリザのような年代の人間に多く共通することだろう。
「別に普通だと思うぞ。外見よりも大切なのは各々が内に宿している『本質』だからな」
「そっか。そうだよね」
俺の言葉が気に入ったのかエリザは、何度もコクコクと首を縦に振って頷いていた。
まあ、実際のジャミスはこんな可愛いものじゃなかったけどな。
このケースの中にいるジャミス人形は適度にデフォルメ化していて、親しみやすいデザインとなっている。
「はあ……。何故か、このカラフルなクチバシがアタシの心を掴んで離さないのよねえ」
その後もエリザは恥ずかし気もなく尻を突き出して、ジャミスの人形を食い入るように見つめていた。
やれやれ。
お前はもう少し人目を惹く自分の外見に自覚を持った方が良いと思うぞ?
エリザの無防備な姿に惹かれてか、周りの男たちの視線がこちらに集まってくるのを感じた。
「欲しいのか? この人形」
「えっ」
図星を突かれたエリザは、あからさまに動揺しているようだった。
仕方ない。
サクッと取ってこの場から出るか。
俺は制服のポケットの中から革財布を取り出した。
「ほ、欲しいけど……。不可能よ! こんな小さなアームで大きな人形を掴めるはずがないわ!」
エリザの言葉には一理ある。
というのも、この『ミニマムモンスター』の入っている筐体は少し人気があるらしく、誰かが何回かやった形跡があった。
中の人形が何体も倒れている。
しかし、誰も取れていないようだ。
もしや。と思い、解析眼を発動して、この遊具の構造を分析する。
やはりな。
この筐体は、そもそも人形を取らせる気がないようだ。
アームの力は最低値に設定されており、いくらお金を注ぎ込んでも取ることは難しくなっているようだ。
それにアームを動かす操作性もわざと悪く設定されている。
悪徳商法もいい所だな。
安心した。これならば俺も心置きなくやることができる。
「分かってないやつだな。その不可能を可能にするのが俺たち魔術師の役割だろう」
何も人形を盗む訳じゃない。
俺はしっかりと筐体の中に規定金額のコインを入れる。
付与魔術発動――《握力強化》。
後はレバーを操作して、アームの位置をジャミスの上に移動するだけでいい。
ガランッ。
コロコロコロ。
いとも容易く人形を入手する。
200年の時を超えて行われたジャミスとの再戦は存外、呆気ない形で幕を下ろすことになった。
「ほら。お前が欲しかったのはコイツだろ」
「えっ……?」
人形を受け取ったエリザは暫くの間、『何がなんだか分からない』と言った様子で困惑していたようだが、やがて手にした人形で顔の下半分を隠して、ようやく重い口を開けた。
「……い、一応、受け取っておくわ。大切にする」
無事に人形を入手した俺たちは遊技場を後にした。
何故だろう。
それ以降、エリザは一向に俺と目を合わせようとしないで、妙に余所余所しい雰囲気になるのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます