退屈な授業

 それから。

 何はともあれ、俺の学園生活は始まった。


 最初こそ慣れない学園生活というものに戸惑うことはあったが、要点を抑えればライフサイクルの形成は容易だった。


 朝昼は授業を受け、放課後は図書室に籠って読書。

 寮に戻ってシャワーを浴びて、また読書をし、眠りにつく。


 たまに時間を見つけては、人目を忍んでリリスと2人で雑談をしたりもした。


 充実はしている。

 だが、まあ、強いて問題を上げるとすれば――。



「即ち、魔術構文の解析数値の変動式を表す為には、構築式、反応式、そして魔術適性外抵抗を計算することによって導き出すことが……」



 この授業である。

 随分と抑揚のない、眠くなる声で団子鼻の教師は授業を進めている。


 そして、黒板に書いたところを直ぐに消し、次の公式を書きはじめる。


 クラスメイトはその速度に追いつこうと必死で、私語の1つもなく大慌てでノートを取っている。



 この時代の教師は、授業の教え方まで下手くそになったか?


 

 たぶん、この教え方はあれだな。

 わざと早口で捲し立てて出来ない奴を振り落とそう、とでも考えているのだろう。


 当然、授業内容そのものもレベルが低い。

 


 いかにも御大層な文言が並んでいるが、この魔術構文は既存の短縮式を使えば何十工程も簡略化できる内容である。

  

 はあ。こんな授業を後5年も受け続けなければならないのか。 


 これに関しては、今から憂鬱な気分である。



「さ、流石は天下のアースリア魔術学園。授業のレベルが半端なく高いッスね」



 テッドのやつはこう言っているが、俺にとって学園の授業の時間は限りなく無駄なものだった。


 あまりに退屈なので、最近だと授業の最中に魔術の研究を進めている。


 紙とペンがあれば魔術の研究はできるのだ。



「では、この問題をアベルくん。黒板の前に出て解いてみなさい」



 唐突に教師から指示をされる。

 はて。今までこんなやり方の授業じゃなかったが。


 おそらくこの教師は俺がロクに授業を聞いていなかったことを知り、あえて指名してきたのだろう。


 見せしめのつもりか。実にくだらない。


 教師の考えも、この問題のレベルも。



「これでいいですか?」


「うっ。うぐっ。よ、よろしい。下がりなさい」



 提示した問題がアッサリ解かれることになった中年の教師は、悔しそうに歯ぎしりをしていた。


 やれやれ。

 多少レベルを上げたところで、俺からしたら、こんな問題は赤子の手を捻るよりも簡単なものである。


 自席に戻った俺は、続けて魔術の研究に取り掛かる。



「ねえねえ。アベルくんってさ。もしかしたら隠れ優良物件だったりするんじゃないの?」


「うん。最初は眼の色にビックリしたけど、クールで格好良いよね」



 んん? 

 また妙に視線を感じるな。


 勘弁してくれ。今、この研究の一番面白いところなのだ。



「チッ……。いけすかねぇな。あの外部生、それも劣等眼の分際で」


「全くだ。ちょっとお勉強が出来るからって。良い気になりやがってよ」



 これは一体どういうことだろう。


 俺が問題を解いてからというもの一部の内部生たちは、益々と俺に対して憎悪の視線を向けるようになるのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る