6. 最強

『異界』の力が「触れたモノを別の世界に飛ばす」力だというのは、今までの戦闘で分かっていた事だ。


だけど、その効力を発揮するかについては分かってなかった。


あの少女は「どうやって」の部分を工夫した。異界へと繋がるを具現化し、触れた部分だけ異界に飛ばすようにしたのだ。その工夫によって取るに足らない力が強大な力へと変貌し、より未知数な力となった。



私は今の状況をもう一度考える。


『異界』の力は出力の切り替えが可能だ。

例えば異界の種を発芽させた場面。地面に落ちた雫はそのままの勢いで地面を抉るはずだった、だけど結果はああだ。つまりは都合のいい瞬間に出力を切り、として埋め込むことを可能にした。



今はどうだろう。

彼女は『異界』の幕を身体に纏っている。


つまりは身体に触れるような攻撃は届かず、むしろ攻撃の起点となってしまうということだ。



間違いなく、攻守ともに最強の力だ。

認めよう、そうとしか言いようがない。



――――――――――――――――――――――――――――――――――――――



「逃げてください! これは映画なんかじゃありません!」


市民を避難させる憲兵らしき男たち。その中の一人がおもむろに少女へと照準を定め、指を動かす。小さな爆発音のような乾いた音が辺り一面に響き、ありえない速度で何かが飛んで行った。


少女目掛けて飛んで行った何かは、そのまま『異界』の幕へと吸い込まれていく。予想通りだ、アレは正真正銘最強の鎧だった。


PB交番から警視庁へ! やむを得ず発砲したが効き目がない!」


――警視庁からPBへ、発砲を止め人命救助を最優先せよ。あと5分で応援が到着する、それまで持ちこたえてくれ。どうぞ。


? お偉いさんが何言ってるのかサッパリ分からんな」


「現場も知らずに人命救助とは...無理言ってくれる。むしろアイツらに突っ込んで死んでく方が簡単で手っ取り早い」


近くで見た事がないような戦いが起こってるというのに、憲兵の一人は別の場所を見つめている。その顔はどこか諦観しているように見えて、私はその視線の先にあるものを目で追ってしまった。


「...うそ」



「無理だろ、コレは」


そこに居たのは未だ逃げずにこの場所に留まる数多くの市民。身の危険を感じ逃げた人も数多く居た、けど結果としてこの数の人たちが残った。その全てがこの戦いを面白そうに眺めている、自分が死ぬかもしれないのに。



あぁ、分かった。

この人たちはに飢えてるんだ。


変わりない毎日を過ごしすぎて、いつしかそのありがたみを忘れてしまった。目の前で起こるを語り聞かせて目立ちたいという自己顕示欲、いびつに歪んだ野次馬精神がこの状態を引き起こしてる。


平和ボケ?


これはもう...その域で語れるものじゃない...。




建築物の側面に慣性を無視して立っている***。少女と彼の戦いは、中距離での偉業の撃ち合いに変わっていた。


彼は建造物へと触れ、その一部を槍へと『変形』させる。そして『投擲』の力でその槍を放つ。尋常じゃない速度で槍は少女へと向かい、そして『異界』に呑み込まれていった。


対する少女は漆黒の弓矢を具現させ、矢を番える。そしてそれが放たれると、一本だった矢は突如として倍増した。数え切れないまでに増えた矢は、彼に悠々と躱され外壁に突き刺さる。


次第に消えていく矢の数々に対し、彼は懐に隠していた刃物をそれに投げつける。『追尾』の力で確実に当たるよう仕向けられた刃物は、そのままの勢いで消えかけていた矢を両断した。


「壊せる...ってことは...」


今の光景を見ていたノラが考え始める。

私も今ので理解した、『異界』の力は出力を切ってしまえば壊せるのだと。


「まだ勝機がある」


私たちはお互いにそう言い合う。



勝てると思った。

そう、愚かにも




またも乾いた音がどこかから響く。今度は遠くの方から、音が反響してどこから出た音なのかは分からない。


ただ分かるのは、その音のすぐ後に***が死んだということ。


「は?」


その直後、脳内に彼の声が届く。恐らく『疎通』の力で私たちに語り掛けてるんだ、そして彼はこう言った。


『マズイな、話に聞いてたヤツらだ』


『この国、日本で最も強い存在』



その名前は


不意に憲兵の身に付けている道具から声が聞こえてくる。先程までも頻繁に聞こえていた理解できない言語、だけどその時だけはやけに意識して聞いていた。


――警視庁からPBへ、応援が到着した。以降の指示は彼らに従ってくれ。どうぞ。


無駄のない動きで展開する隊員たち、私はその名前を分からないながらもハッキリと聞いていた。



警視庁警備部警備第一課SAT、現着しました!」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る