世界の始まり、ハナシの終わり

17. 偽神

二人が倒れるのを、僕はじっと見つめていた。


息絶えた二人に寄り添い、ベンは口元から垂れた血を拭う。よく見るとその背中は小刻みに震えていて、それだけでこの二人がどういう人間だったのかが分かった気がした。



なぁ、***。


「なに?」


「カミサマを必ず殺すって...約束してくれるか?」



「あぁ、誓うよ。たとえ僕らのしていることが間違いだったとしても、必ず殺す」




そうして僕たちは奥にある階段を上っていく。明らかに他の階層と違う雰囲気を感じ、身が引き締まる。


そして僕たちが出たのは、紙の書類などが散乱した部屋だった。奥には何か得体の知れないモノが置かれており、未知に対する恐怖が湧いてでる。灯りが心もとなく薄暗い、そんな光景も不気味さを際立たせていた。



そして、その薄明るい部屋の真ん中には、資料を読み耽っている男がいた。


銀色のみだれ髪に気だるげな顔、ある意味想像通りな容姿をしていた。


「あなたが神様?」



「あ〜、そうだよ。俺がだ」


神様代理?

男は僕らの方を向こうともせず、ただただ資料に目を通している。僕らに微塵も興味が無い素振りをしていた。


「ちょっと待ってくれ〜? 今忙しいからな」



「...ねぇ神様? 僕の持つあなたの部下たちの目玉をあげるから、知ってる事を全部話してくれ...」


「無理だ」


ない?

僕が言葉を言い終わる前に、間髪入れずにそう断られてしまった。知ってるんだ、コイツも。『契約』の数少ない欠点、抜け道を...。


「そんな縛りを課さなくても、俺は普通に喋るさ。これを聞いたところで、お前らが何か出来るとも思えないしな」



「さ、何が聞きたい? 神様の個人情報? 俺が何をしているか?」


俺が本当に件の神なのか


「...とか?」




男は書類を分けつつ、僕たちの質問に答えていく。


「今は何をしてるの?」


「人員を決めてる。新しく入ってくる奴の特徴、その他記録を見て、を吟味してるんだ」


どの力を与えるか?

『創造』にそんな力があるとは思えない、だとすれば...。


「なんの為に?」



「他国に戦争を仕掛ける。利益拡大のため、そしてこの国を発展させるため」


やっと全容が見えてきた。

この国が抱えていたモノ、その全てがまさしく戦争のための布石だったという訳だ。


「じゃあもう一つ」


「あなたの他にも神様がいるってこと?」


話を聞いていると、どうにも『創造』の力とは思えない点がいくつか出てくる。



「あぁ、むしろそっちがホンモノの神だよ。ソイツが影武者やれってうるさいからよぉ〜、仕方なく演じてやってんだ」


やっぱり。

でも理解できない部分もある。国全体に声を響かせたあの偉業は、神にしかできないものだと感じた。


「国全体に声を響かせたアレは? どうやってやったの?」


「拡声器って言ってな、今話してる声を何倍も大きくして伝えられる機械があるんだ。親交の証として神から貰った」


なるほど、あっちの世界の技術か。

これで大体の疑問は消えた、あとは...。


「ホンモノの神様はどこに?」


「知らねぇな〜、今頃信者に教えでも説いてるんじゃねぇか?」


淡々と質問に答えていた男だったが、作業を一通り終えたのか伸びをしている。


「あ〜、終わった。これで俺が死んでも大丈夫だ」


疑問は全て解消された。


「ファウスト、腕」


巨大な腕が突如として現れ、部屋の壁を壊す。どれぐらいの高さなのか分からないくらい、外の景色は雲に覆われていた。


「掴め」


そして巨大な腕は男を掴むと、塔の外へと移動させる。腕から離れてしまえば最後、どこまでも続く落下の後に即死するだろう。


「つまんねぇツラしてんな、お前」


「もう分かってんだろ? 自分の役割が」


その質問には答えず、僕は男に問う。



「あなたは...空を飛べたりする?」


「飛べないな、今のところは」


「そっか」



そうして腕は男を掴む手を離す。

男は特に喚くことも無く、気だるそうな表情で落ちていった。最後にした仕草が欠伸というのも滑稽なものだ。


「あれ、死んだと思う?」


リズが問い掛けるようにそう言う。


「あの高さじゃ流石に生きてないと思う。それに、生きてたとしても必ず殺す。そこに理由はいらない、ただ殺す」



それよりも...まさかだった、完全に失念していた。



「本物の神は、裁定の村の神父だ」



『創造』の転移者は、一番身近な場所にいた。

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