6. 後悔

あぁ、最悪だ。なんてことをしてしまったんだ。



なぜ気に留めなかった、。明らかに転移者ではなく現地住民、普通であれば力など使えないはずだ。


でも使える、それは何故か




それは、『契約』で少女に力を分け与えたから。



そもそも、『契約』の転移者自体が異端な存在だ。力の複数所持が限りなく不可能に近いこの世界で、当たり前のように力を幾つも備えている。あの女ももちろんそうだったし、少年を殺した時もそう感じた。


つまり、『契約』の転移者は力の受け渡しが可能であるということ。分け与えるのと同様に、他の転移者から力を譲り受けることも可能だということだ。



「...クソ、間に合ってくれ」



俺はただひたすらに走る。

向かうのは当然。前殺した少年を含め、この国で死んだ様々な亡骸たちが集まっている場所。



『リュカの報告で気になったことがあったから調べた。おもにについてね』


『私の知識は便利でね、名前を見ただけでどの力を持ってるのか分かるの』



『刃』や『視線』、特に重要視することのない転移者たち。


でも、見過ごせない人間が二人いた。



まず一人目は...


『この国を、この世界を騒がせた『契約』の魔女。あなたやを殺そうとしたあの存在がこの町にいることがわかったの。末恐ろしいって感じね』



そして二人目、



『かつていたとされる存在、でも今に至るまで確信できるような情報はなかった。その転移者がいたとリークした村や町は。誰一人いない、だから情報が一つもない、でも知識を司る私だからわかる存在』


『私は過去に起こった全てを知ってる。だからその転移者が実在することも知ってたし、カレの名前も知ってるの』




カレの司る力は『不死』

仮初の死を否定することの出来る、唯一の存在。




勢いよく扉を開ける。

部屋の両端には所狭しと木製の棺桶が並んでおり、そして真ん中には木の長机があった。その上には誰かの死体がのせられている。布で隠されていて判別は出来ないが、体格から見てまだ子供のように見える。少年の検死が行われる予定だとさっき聞いたので、概ね予想通りだ。



慎重に、一歩一歩それに近づく。

先程読んだ内容が脳裏をよぎり、どうしても向かう足取りが重く感じてしまう。もし仮に『不死』の力を手に入れていたとして、果たして目の前にある死体は少年のものなのだろうか。実はもう生き返っていて、今もこちらを殺す機会を窺っているんじゃないか。


あるいは...。



そう考えていると、いつの間にか死体のそばまで来る。


そして上に被さる布を





取る前に、背後から迫ってきていたナイフを躱した。足音は殺せていたかもしれないが、服が擦れる音までは殺せなかったらしい。お粗末な技術の持ち主、俺を殺そうとしたソイツの顔を拝むために俺は前を向いた。



そして言葉を失う。




「...なんでお前がここにいる!?」



両手でナイフを掴みこちらを睨む少女、それはあの路地裏で見た少女だった。


ありえない、理解できない。しかし事態は進んでいく、考える暇など与えないように。


あぁ、そうか。使。便利な力だ、魔女と戦ってた時を思い出す。あの女の残した呪いは、確実に効力を増して俺を呑み込もうとしているらしい。



体が動かない。

そうだ、少女は『視線』を持ってたんだった。そう考えた時点で俺は負けていた。



『異形』たちも呼べない、逃げることも出来ない。そして後ろからは何かが動く音がする。しかし振り向けない、出来るのは死を待つことのみだ。



「...コロス、お前は絶対に殺す。貴重な力をこんなところで...失うなんて...。サイアクだ、最悪すぎる。考えがまとまらない、あいつを殺すための計画がまとまらない。ほんとは殺したくないのに...とまらない」



何回も、何回も刺される。



今更だが一つ思い出した、あいつにまだ借りを返していなかったんだ。



至る所から血が流れる。



「お前の命と引き換えに、お前の持つ力を寄こせ」



皆誰もがあいつを羨んだ、でも俺は逆に可哀想に感じた。

決められた道にしか行けないみたいで、どこまでもレールの上にのっているような気がして、とても哀れんだ。もしも普通の人だったら、メアリー・スーという存在じゃなかったら、きっとこの世界も楽しかったろうに。



次第に意識が朦朧としてくる。



「悪魔、僕の..............」



もう顔を合わせることもないが、借りを返せなかったことがどうしても引っかかる。


あっちの世界で妻が死んだときよりも、この世界で何人も罪なき人々を殺してきたことよりも、最期に思い出すのはそのことだった。


すまない、ただそう思った。





「...は...い」






そして意識が完全に消える前、俺は最後に言葉を発してから死んだ。


最期に見た景色は、どこまでも広がる暗闇だった。



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