こっそり守る苦労人 〜黒き死神の心〜

ルド

血に塗れた冬の悲劇。

第0話 悪夢。

「れいくん、どこいくの?」


 間違っているとは思わなかった。

 なぜなら確かな実績を積んで、間違ってなかったと証明してきたからだ。


「今日は……その、いっしょにいてほしい……の」

「悪いが、今日も用事がある」


 守りたい者の為に俺は何度も戦ってきた。

 何処かの物語に居そうなヒーローとは違う、守りたい者の為だけにチカラを使い続けた。

 一切の手段を問わず、残酷な選択であっても迷わず選んだ。周りからどれだけ否定されても、結果さえ良かったら問題ないとそれらの声を聞き流した。


「く、クリスマスイブだからできたら今日はみんなと一緒に……」

「俺抜きで楽しんでくれ」

「で、でも……」


 してきたことに対し後悔はなく、決して変わることはない。

 だから今回もまたいつもと同じであった。怯えながら告げる妹の願いを断るのは申し訳ないが、彼女から背を向けて家を出ることにした。

 聞き分けがないと怒鳴ったりなんてしない、俺なりの優しさのつもりだった。


「……なさい……ごめんなさい……」


 なのに何故、守っていた筈の彼女の瞳から涙が溢れている?

 それを見た俺は何故迷って揺らいでいる?

 間違っていない筈のなのに……どうして?


「馬鹿なことしたダチを覚まさせる為ならオレは殴るぜ? たとえそれが……おまえでもだっ! 零っ!」


 どうして。


「零、君は正しい、けど残酷だ! そんなことを続けたって誰も喜ばない! 誰も幸せになんてならないし、どちらも不幸なままだ! それは平和とは決して違う! ただの自己満足だ! 正しいだけじゃ辛いだけだ! なんで君はそれが分からない!?」


 どうして。


「れいくん……こわいよぉ。お願いだから……」


 どうしてだ。

 どうして、皆んな悲しそうにして俺を──。




「おいてかないで……おにぃちゃん……」




 俺はこんなに悲しいんだ。





「っ──!! ガハ……!」

『ム、意識ガ戻ッタカ』


 束の間の休息では絶対ないとだけ言える。

 悪夢を見ていた俺は全身から冷や汗と血を流しながら、眼前にいる敵を見つめる。


「うっ」


 俯いて倒れていたので顔を上げるが、それ以上の行動は怪我のせいで出来なかった。


「生き……てるのか? 俺は?」

『互イニナ、シブトイ限リダ』

「は、そうだな」


 冗談か本気かも分からない。この状況では困る反応のされ方だ。

 敵である相手とこうして話すとは、俺もヤキが回ったのかもしれない。

 寒々とした雪も降る真冬の夜、世間ではクリスマスイブで騒がしい夜。


「はぁ……最悪な日だ」


 俺は1人、目の前の怪物と対峙した末、真っ白な雪を真っ赤に染め上げていた。

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