第2話 勇者召喚

 王宮の一室、召喚の間において勇者召喚が行われていた。召喚を行っていたのは、この国アステリヤ王国、第二王女のフローラ アステリヤ、茶髪のショートヘアーで地味な装いの大人しそうな感じの少女である。

 少女が魔法陣に魔力を込めると、魔法陣が輝き、その輝きが頂点に達した時、誰もいなかった魔法陣の中心に一人の青年が現れた。


「おお、成功したぞ」


 召喚の間にいた何人かの衛兵が声をあげた。

 少女も得意げな顔を見せる。だが、少女は内心焦っていた。

[仕舞った。付き人をどこかに飛ばしてしまった]


 そう、彼女は勇者とその付き人の二人を召喚したのだ。だが現れたのは勇者の一人のみ、召喚自体は成功しているので、この世界のどこかの時間のどこかの場所にはいるはずだ。

[まあいい、黙っていれば分からないだろう。しかし、何故失敗しただろう。キチンと二人分の魔力を込めたはずなのに]


 召喚された青年は辺りを見回すと恐る恐る尋ねた。

「ここはどこですか」

「ここは、アステリヤ王国王宮の一室です。」

「アステリヤ王国?もしかして異世界なのですか」

「お察しが良くて助かります。私はこの国の第二王女のフローラ アステリヤです。私が異世界から勇者様を召喚させていただきました」

「僕は勇者ではありませんよ。それより、フローラ様、僕の他にもう一人いませんでしたか」


 第二王女はここで、失敗して付き人を飛ばしてしまったと言う訳にはいかない。このまま押し通すことに決めた。

「勇者召喚されたのは勇者様一人でしたが」

「そんな筈はないと思うのですが。それとさっきも言いましたが僕は勇者じゃありません」


「どうしたのですか。トラブルですか」

 第二王女とは別の、黒髪ストレートロングヘアー、鋭い眼差しで派手な装いの美女が二人に割って入った。

「勇者様、突然召喚してしまって申し訳ございません。私は第一王女のアウロラ アステリヤです。何か問題でも」

「はい、もう一人一緒に召喚されたと思うのですが」

「そんな事はありませんよ。勇者召喚されたのは勇者様だけです」

「フローラ、あなた失敗したのではないでしょうね」

「そんな事はありません。この人どう見ても勇者でしょ」

「そうですね。確かに見た目は勇者に見えますが」


 青年は自分が勇者に見えるという二人の発言を疑問に思いつつも、二人に尋ねた。

「あの、僕が勇者だって証明する方法はありますか。見た目以外で」

「証明ですか。確実なのは聖剣を抜くことです。聖剣は勇者以外抜くことができません」

「それはどこにあります」

「迷宮の最下層に」

「そうですか。他に証明する方法はないですか」

「他に、ですか。ステータスを見ればある程度は分かる気もしますが。勇者ですから一般人に比べ、明らかにステータスが高いはずです」

「ステータスはどうすれば確認できます」

「鑑定魔法で確認できます。私もある程度なら使えますが」

「そうですか、それでは、僕のステータスを鑑定してください」

「よろしいのですか。普通は他人にステータスは秘密にするものですが」

「僕が本当に勇者か確認するためです。この際気にせず鑑定してみてください」

「分かりました。そこまで言われるなら」

『鑑定』

 第一王女は青年に鑑定魔法を掛けた。


「うお、何か心の中を覗き見られている感じですね」

「・・・」

「それでどうでしたアウロラ様」

「話しかけないでいただけますか」

 第一王女は青年を見下したように見つめ言い放った。


「フローラ、これはどういうこと、この男、魔力が蠅ほどもありませんわ」

「そんな筈はありません」

「確かに、筋力や瞬発力など身体能力に関するステータスは一般人を遥かに凌駕していますから、異世界では勇者だったかもしれません。ですが、肝心の魔力が殆んどありません。これでは何の役にも立たないではないですか。あれだけの魔力を使っておいて、この結果では責任問題ですよ」

「そんな魔力がないなんて」

「信じられないなら、自分で確かめてみる事ね」

 第一王女は怒って召喚の間を出て行ってしまった。


「だから僕は勇者じゃないと言ったんです」

「そんな、そんな筈ありません。確かに勇者であると、高い魔力があると確認したのです」

「一緒にいたもう一人と間違ったんじゃないんですか」

「あんな、ちびで冴えない付き人と間違える筈がないでしょう」

 確かに、ちびで冴えない月人であったが、面と向かって言われると流石に応える。


「ですが、現に僕には魔力がないですよ。役立たずなんだから元の世界に返して下さい」

「それは無理よ」

「どうしてです」

「方法を知らないわ」


 第二王女は焦っていた、この上、付き人を飛ばしてしまった事がばれれば、又、第一王女に嫌味を言われてしまう。最悪、王女を首になるかも。

 実は第二王女はその能力を買われ王女として養子になっただけで、元々は平民の生まれであった。


「兎に角、詳しいことはまた後で話しましょう。今日はもう休んだ方がいいわ。部屋に案内させるわね」

 第二王女は一方的に話を打ち切ると、衛兵に青年を客間に案内するよう言い付けた。

 青年は納得がいかなかったが、衛兵に連れられ客間に移った。

 客間は座り心地の良さそうなソファーとテーブルがあり、続きの部屋には大きな天蓋付きのベッドがあった。


 青年は寛ぐため上着を脱ぐと、そこで初めて着ていたのが自分の物ではないことに気が付いた。

[あれ、このジーンズと革ジャン僕のじゃない。確か真正君が着ていたもの]


 青年は鏡を探した。バスルームへと続く手洗い場にそれはあった。

 青年は鏡に映った自分の顔をまじまじと眺めた。


[真正君だ。僕じゃない。そういえば、フローラ様は「あんな、ちびで冴えない付き人」と言っていた。目の前の人に「あんな」は変である。冷静に考えれば、王女二人が見た目からして勇者だと言っていたが、この姿なら納得である]


 青年はベッドルームに移ると、ベッドに身を投げ出し、考えを巡らせる。

[僕はこれからどうしたらいいんだろう。真正君はどうなってしまったのだろう。せめてこの場に真正君がいてくれたら・・・]

 青年はいつの間にか眠りに落ちていた。


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