第44話 ハンター試験{前編}

 ゆっくりと、馬車と同じくらいの速度で大通りを通過する。ギルドの目の前まで来ると車を停車させ、車を降りる。

 ギルドの発祥は西欧とされる、有名どころは、ドイツやフランスと言った所だろうか。

 西欧の中世都市においては、市参事会を通じた市政運営を都市の成立・発展に大きく貢献した大商人もとい遠隔地商人によって組織された商人ギルドが独占していた。しかし、商人ギルドによる市政独占に反発した手工業者たちは職業別の手工業ギルドを結成し、商人ギルドに対抗して市政参加を要求した。

 そのほかにもギルドには徒弟制度と称される厳格な身分制度が存在し、その最も上に立つ親方は職人・徒弟を指導して労働に従事させた。


 俺もギルドには詳しくは無い、別段関わる利をもなかったからだ、紳士服の仕立てには重宝したが。

 それとはまた別の存在へとなっているハンターギルド、特権を持つだけだったギルドが遂には国に所属してしまった成れの果て。

 王による情報だと政策自体は良い方だそう、政策と言っても、小難しい、大人の事情が絡まない策に過ぎないが。

 仕事は、この世界特有の生き物の討伐・捕獲を主に置いている。時には著しく人間の脅威になる、人間以外の勢力の撲滅をしている。もしかすると、俺たちもその対象かもしれない。ま、中世の人間に遅れは取らんが。


 上層部は竜人が大半を占めていると前記で言ったが、その竜人というのは、竜の血を受けたというよりも、竜の魔力に侵されたヒトの子孫だそうで、竜特有の循環式魔力生成が行え、生命としての寿命を延命させている。しかし、戦闘技術や戦闘本能を竜の恐ろしさを知ってしまったが故に放棄した種族であり、温厚で冷静な判断が出来るからと、先も述べたように、特性である長寿である長年の感と言うやつで上級職に抜擢される。

 ハンターギルドの主要な情報はこんな所。

 周囲の目を無視してギルドの中へ進んでいく。

 周りからの目は興味の目だった。

 見たことも無い乗り物に乗り、至高の装備、誰でも見入ってしまう美形の顔、目立たない筈がなかった。


「受験会場は何方ですか?」


 フロントの従業員に聞き。

 説明を受けた所へ向かう。

 今回ハンターギルドに加盟するのは俺を含めた三人。

 氷界からはヴィルジナル、親衛隊隊長の禍殲樋、作戦立案の俺、有栖川ヒロト。計三人で推敲が決まっている。

 無駄に入り組んだ廊下を進んだ先には大部屋があった。

 きちんと並べられた机と椅子。少し汚れただけの木の椅子だ。

 ここに集まるのは、推薦を受け筆記試験が免除されている者だ。受ける試験は実技試験に面接の二種類、面接に関して言えば、物の数分で終わるが、実技試験はそうはいかない。サバイバル術と対人戦闘の二つに分かれている。

 対人戦闘とはすなわち、人型の敵に対する戦闘様式を確認するものだろう。他はその言葉通りのことだろう。

 まず集められてから、試験を開始するのだろう。

 時計を確認すると午前十一時四十五分。試験開始が十二時開始と言っていたので案外ギリギリでの入室である。

 この世界には時計が存在する。時計とは言っても、大きく時計塔にある天文時計である。

 十六世紀には振り子時計やドイツには鉄製懐中時計が発明されていたので。この世界の文明レベル的には妥当かもしれない。塀の上にいる兵はマスケット銃らしきものを持っていたし大砲もあった、車での移動中には店先で、タバコも見た、王にも聞いたが、エンジンなどは出来ていないらしい。


 最後に入室したのが当然俺達なので少し目立った、試験生の顔は緊張半分、余裕半分と言った構成比率。

 俺たちが席についたのを確認すると試験管の人が説明を開始した。

 聞くには、初めに実技を四日かけて行い、翌日面接をする。

 実技はサバイバル形式バトルロワイヤル・対人・集団の順で行う。

 最初の三日間のサバイバル技術を採点してもらい、その後、対人・集団を終わらせ面接の後試験は終了。

 説明が終わると、移動するようで席の端から順に移動していく。


 数分歩いて着いたのは港。

 そこには木造りの御世辞にも立派とは言えない船舶が一隻あるのみ、どうやらこれで目的地へ移動するようだ。だが先程聞いた目的地がある方角には、厚く黒い雲が立ち込めている時折雷が光っているのが良くわかる。


「これで行くのかよ」


 誰かが弱音を漏らす。

 あの嵐に突っ込むにしては、貧弱と思うほかないと死んでもおかしくない。


「この船に乗れないのであれば、今すぐ棄権して頂けます」


 女の試験官が受験者に告げる。

 もう既に試験は始まっているのだ。

 結局目的地に着く前にもうここで三人の棄権者が出た、命あっての人生だ、あの選択が間違っていたとは思わない。命を失えば誰も養えやしないのだ。

 いよいよ出航だ。予定15時間の船旅、船はまっすぐ嵐へと向かっていく。

 沖合に出て間も無くして雨が降り始め、風が強くなり、波が大きく立ち出した。


 その数分後には、船は大きく揺らされあわや転覆するのではと思うほどに傾く。

 それほど大きな船ではないので数人ほどしか船内に入ることができない。甲板にいるものは、受験者、船内にいるのは、スタッフだけである。


 甲板に居る者の大半は手すりに捕まり、数人は嘔吐している。

 辺りを見ると数人この揺れをものともしていない、猛者がいたが、少しがっかりと言ったところ。神代に近い時代ということであり、多少は期待したが、出来は良くない。

 まだ神は降臨されていないようだ。


 不意に訪れた不幸。急な突風と今までで一番の高波が、重なる。

 その瞬間、一人の男性の体の体が波の衝撃で浮き上がる。

 多少小太りの男だった。最初の部屋で一番後ろの行に座っていた。


 男は絶望の表情を創りながら。海に飛んでいく。しかしその進行は止められた。

 助け出したのは、十歳の少年だった。

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