第171話 シスタークレアの大予言 ~男根の試練~

 アリシアと仲良く結合し続ける傍ら、色々と調整してくれた獣騎士団長イリーナさんの指示に従って各地にアーマーアントを送り込むこと早三日。


 狩猟採取による短期的な食糧事情解決の目処が立った僕たちは、〈牙王連邦〉復興のための次の段階に進もうとしていた。


 すなわち、農耕事情改善による長期的な食料供給の安定化だ。


 国家を強靱に発達させていくうえで、穀物の収量増加はほぼ必須。

 そのためには各種生産開拓スキルをもった農夫さんや、広大な畑をモンスターたちから守る戦闘職の確保が重要だった。

 

 そういう意味で、アーマーアントたちによる狩猟採取の収量増大はかなり大きい。

 畑作業に従事してくれる人たちへ精のつくお肉をたくさん支給できるし、解体の過程で出たモンスター素材は売り払って人件費に、余った部位も肥料などに転用できるからだ。


 ただ――肥料に関してはモンスターの体から作れるものなんてあくまで気休め。

 国家全体の穀物収穫量を一気に増大させられるような肥料といえばひとつしかない。



 とある超危険地帯でしか採れない特級希少素材――〈デメテルの吉凶石〉だ。



「〈デメテルの吉凶石〉って確か……凄く効果の高い肥料……でしたっけ?」

「うん。適切に加工すれば作物の収量は数倍にしたり、収穫までの時間を早められる。連作障害も防ぐ凄い素材だよ」


 小首を傾げる狼獣人ソフィアさんに、僕はその希少アイテムについて軽く説明する。


「それこそ保有量がそのまま国力の指標になるとすら言われてる資源でね。狩猟採取による食料確保で農夫さんや畑の守り手を確保しやすくなったいま、その肥料をたくさん入手できれば〈牙王連邦〉の食糧事情が一気に改善するはずなんだ」


 ただもちろん、話はそう甘いものじゃない。

〈デメテルの吉凶石〉が採れる場所は、巨大ダンジョンの深層をも凌ぐとされる危険地帯。


 世界にいくつか存在するその採取地はいずれも世界最高峰の資源の宝庫であるにもかかわらず、「誰にも実効支配できないから」という理由で領土争いすら起こらない魔境なのだ。


 当然、気軽に採取へ向かえるような場所じゃないわけで。

 僕たちは〈デメテルの吉凶石〉の採取へ行く許可を得るため、アイラ女王の執務室へと向かうのだった。




「おお、よく来たなお主ら! アーマーアントの件、イリーナから話は聞いたぞ! なんでも魔族と仲良くしたあげく無数の子を産ませて、一気に大量の肉を確保する目処を立てたそうじゃな! さすがはこの国を救った英雄。礼が遅れたが、本当に感謝してもしきれんのじゃ。……まあ最初に話を聞いたときはさすがの儂も少しドン引きしたが、まあ救国の英雄なら子だくさんのほうが自然じゃろう。もうここまできたら我が国の最強戦士イリーナとも子をもうけてはどうじゃ?」

「……」

「ちょっ、アイラ女王、冗談にしても言っていい冗談と悪い冗談が……っ」


 レジーナとの一件をまだ少し引きずっているのか、ヤキモチが少し再燃したらしいアリシアが後ろから軽く抱きついてくるのに顔を赤くしながら僕は慌てて口を開いた。


 見れば、アイラ女王は王様としてやることが山積みらしく、なんらかの書類に忙殺されているようだった。


 元々実家では王族の仕事について知る機会もあったけど、実際に目の当たりにするとその仕事量は尋常ではないらしい。テロ対策に追われていた頃よりはマシみたいだけど、イリーナさんとの子作りがどうのと軽くセクハラをしてしまうくらいには疲れているようだった。


 赤くなって固まっている護衛のイリーナ獣騎士団長を尻目に、僕は身体中についたアリシアのキスマークが見えないよう気をつけつつ本題に入る。


〈デメテルの吉凶石〉の採取についてだ。


「む……。〈デメテルの吉凶石〉か……。確かにアレの確保は急務じゃな。テロ対策に人手を割かれ、ここしばらくは採取量も落ちておったことじゃし」


 話を聞いたアイラ女王が顎に手を当て口を開く。

 けれどその口ぶりはどこかはっきりしないもので。

 どうしたんだろうと訊ねてみれば、

 

「いやそれがな……ここ最近、〈デメテルの吉凶石〉の採取地から妙な報告が届いておるんじゃよ」

「妙な報告……?」

「うむ。テロ対策でしばらく採取へ行く者が減り、モンスターの駆除が滞っておったせいか、採取地でモンスターが増えとるそうなんじゃ。さらに中層手前辺りではモンスターの凶暴性が増しておるそうで、以前よりも採取量が落ちておる。毎回お主らの手を煩わせるわけにはいかんと思い、強力な戦力も送っておいたのじゃがな。どうも焼け石に水らしい」


 とアイラ女王は大きく溜息を吐き、


「正直、異変が起きている危険地帯へ、原因もはっきりせぬままお主らを行かせるのは気が引けるのじゃが。狩猟採取の懸念も解決したとなっては引き留める道理もない。悪いが〈デメテルの吉凶石〉についても頼ってしまってもよいか?」

「もちろんです」


 どのみち、国力アップに繋がるほどの収量増加を目指すなら採取地へはいくら戦力を送り込んでもいいくらいなのだ。異変が起きているというのなら教会の介入も警戒しないといけないし、アイラ女王に頼まれるまでもなくやる気は満々だった。


「それじゃあ、明日にでも向かおうと思います。ついては採取地への渡航許可証だけ早めにお願いできれば」

「!? ちょ、待て待てお主、明日じゃと!?」


 と、僕の言葉を聞いたアイラ女王が目を剥いた。

 あ、あれ。どうしたんだろう。もしかして渡航許可証の発行を一日っていうのはさすがにはりきりすぎだったかな。アイラ女王はかなり忙しいみたいだし……と思っていたところ、


「いやいやお主、さすがにしばらく休んでからでいいんじゃぞ? お主が魔族と生み出した子の数は3000と聞く。さらにはその後三日もアリシアとこもりきりであったというし、いくらお主の力が膨大でも相応の魔力と体力をもっていかれておるはず。さすがにまだ回復しきっとらんであろう?」


 あ、そういう心配か。

 僕は本気で心配してくれているアイラ女王に感謝しつつ、


「それなんですけど。今回はアリシアが気を遣ってくれたので。魔力も体力も三日間のうちにほぼ全快までいきました」

「……は?」


 アイラ女王が信じられないというように声を漏らす。

 けどこれは別にアイラ女王に心配をかけないように言った強がりじゃない。


 ちょっと怖いくらいにLvのあがった絶倫スキルのおかげか。

 あるいはアリシアが甘々な仲良しをしてくれたおかげか。

 この三日で体力も精力もほぼ万全となり、各種男根スキルで問題なく戦える状態に戻っていたのだ(三日間ずっと起きていたわけはなく、寝ながら繋がってたりもしていたし)。

 

 むしろずっとベッドで食べては寝て(意味深)を繰り返していたから少し体がなまっている気もするし、早いところ仲良し以外で体を動かしたいくらいだったのだ。


 と、説明を聞いたアイラ女王はユニークスキルで僕の言葉に嘘がないと察するや呆れたように、


「そ、そうか。なにやら話を聞くたびに化物になっていくのお主は……。……。……やはりこれだけの豪傑、婚姻は難しいにせよ、アリシアに許可をもらって子種くらいは王家に引き入れておかんとダメじゃろこれ……いやしかしイリーナの発情具合を見るに、一度体を許したら最後な気が……じゃが嘘を見抜く儂のユニークスキルでもまるで裏表の感じられん実力者など間違いなく二度と現れんじゃろうし……」

「?」


 仕事で疲れているのか、なにやらブツブツと呟いているアイラ女王。 

 

 なんだかあまり追及するのはよくない気がして、用事を済ませた僕たちはそそくさと執務室をあとにするのだった。


 


 そして翌日。


「よし、それじゃあ行こうか。アリシア、ソフィアさん、準備は大丈夫?」

「……うん、ばっちり」

「武器の手入れも……ヤリ部屋内のアイテムの確認も完璧です」


 僕たちは諸々の準備を終え、〈デメテルの吉凶石〉の採取地へと向かおうとしていた。

 と、そのときだ。


「あ、いたいたいましたわ! 間に合ってよかったですわー!」


 出発しようとする僕たちを呼び止める可憐な声が響いた。

 護衛のシルビアさんを引き連れた破戒僧、シスタークレアだ。


 ここしばらくは〈牙王連邦〉の復興についてアイラ女王と色々相談しあったり、お酒に付き合ってストレス解消を手伝ったりと裏方で頑張っていたはずなんだけど、そんなに急いでどうしたんだろう……? と思っていたところ、


「いましがた、ちょっとよくない予感がピンときましたの! エリオ様たちが危険地帯に向かうと聞いて、急いで伝えなければと」

「え、よくない予感ですか……?」


 シスタークレアの言葉に緊張が走る。

 無茶苦茶な破戒僧に見えて、その実クレアさんは教会の指導者〈宣託の巫女〉。


 その予知は100%ではないにしろ高確率で未来を見通す神の力だ。

 ダンジョンの深層をも超える危険地帯攻略を前に「よくない予感」となればその重要性は計り知れない。

 一体どんなお告げがあったのかと話を促したところ、クレアさんは「こほん」と咳払いして、


「それではお伝えしますわね。――ここ数日の間に、エリオ様の下半身にある意味かつてない危機が訪れるでしょう。お持ち帰りはほどほどに、ですわ!」

「ついこの前あんなこと干からびかけるがあったばかりなのに!?」


 あまりにピンポイントかつ予想外のお告げに、僕は思わず声を荒げた。



 ―――――――――――――――――――――――――――――

 禍福はあざなえる縄の如し、ということでエリオ君の幸せな下半身には定期的に試練も受けてもらいます。


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