第30話 夢だけどー! 夢じゃなかったー!
分裂した僕のアソコでソーニャが自分を慰める夢を見た。
そしたらレベルがあがっていた。
自分でもなにを言っているのかわからないけど、表示されたステータスプレートはそれが間違いなく現実だと伝えてくる。
いやでもまさか、本当に……? と、僕が立ち尽くしていたときだ。
「……エリオ、どうしてレベルが上がってるの?」
「ふぁ!?」
よほど心ここにあらずだったのだろう。
いつの間にか起きて後ろに立っていたアリシアに、僕は悲鳴をあげて後ずさった。
「……もしかして、昨日私を気絶させたあと……他の子と……?」
アリシアは別に怒っているわけでも悲しんでいるわけでもない。
ただ「他の子と仲良くしたなら、私とももっとしてくれるよね……?」と期待に鼻息を荒くしていて、いまにも僕を押し倒そうとしていた。
「ち、ちがっ、そういうわけじゃなくて……!?」
大混乱のまま言い訳のような言葉を口にする。
けど〈淫魔〉である僕が一晩でこんなにレベルアップする方法なんてひとつしか考えられなくて……もしそうなら、これは僕の下半身の責任問題である。
アリシアを落ち着かせたあと、僕は急いで「心当たり」のある場所へ急行するのだった。
「申し訳ありません、お嬢様は珍しく寝過ごされてしまっていて……もしよろしければ応接間のほうでお待ちください」
ソーニャの自宅を訪ねると、玄関先でメイドさんが丁寧に応対してくれた。
応接間に案内してくれるメイドさんに従い、僕とアリシアはお屋敷の広いホールを歩く。
と、そのときだった。
「エ、エリオール!?」
ちょうどいま起きて朝の支度をするところだったのだろう。
吹き抜けになっているホールの二階部分。
そこへ通じる階段の上に寝間着姿のソーニャが立っていた。
けど明らかに様子がおかしい。
「な、なんでこんな朝から……も、もしかして私のヤったことがバレて……!? あ、謝らなきゃって思ってたけど、こんな急になんて、無理……!」
僕と目があった瞬間、顔を真っ赤にしてぎょっとのけぞる。
さらにソーニャは顔を両手で覆っていきなり逃げだそうとして――足をもつれさせた。
「え――っ!?」
どれだけ慌てていたのか、盛大にバランスを崩したソーニャは階段を踏み外し、頭から真っ逆さまだ。
「っ!? 危ない!」
ソーニャ本人やメイドさんが悲鳴をあげるより先に、僕の身体は勝手に動いていた。
どう考えても昨日よりパワーアップした身体能力で階段を飛ぶように駆け上がり、どうにかソーニャをキャッチする。
「ソーニャ、大丈夫!?」
「はわっ、あわわわわわわっ!? エリオールに抱きしめられたら、昨日の記憶が……!」
呼びかけてみるが、どうやら大丈夫じゃなさそうだった。
耳の先まで真っ赤になったソーニャは完全にテンパっていて、発言も要領を得ない。いましがた命の危機に瀕したということを差し引いても、明らかに普通の状態じゃなかった。
(……僕と目があっただけで二階から落っこちたり、抱き留められただけで異常にテンパったり……そのうえ気のせいでもステータスプレートの誤作動でもなく、明らかに強くなってる僕のこの身体能力……)
最早、答えは明らかで。
僕は単刀直入に切り出すことにした。
「……ねえソーニャ。昨日、僕たちの泊ってる宿でなにか拾って……変なことしなかった?」
「……っ!? ご、ごめんなさいぃ」
慌ててこちらに駆け寄ってきたメイドさんに聞かれないよう、ソーニャの耳元で囁くように尋ねる。
するとソーニャはなぜか太ももをすりあわせて身体を小さく痙攣させながら、観念したように頷くのだった。
それからしばらくして。
「改めて、本当にごめんなさい!」
応接間にて。
まともに話せるまでに落ち着いたソーニャが全力で僕たちに頭を下げていた。
「宿にあったモノを勝手に持ち帰ったあげく、その、思い切り使っちゃって……はしたない女で本当にごめんなさい……」
「そ、そこまで謝らなくて大丈夫だよ! 話を聞く限り、そもそも僕らが寝過ごしたのが原因みたいなとこあるし!」
顔を真っ赤にしてぷるぷると震えながら頭を下げるソーニャに、僕もあたふたしながら頭を下げた。
「それにその、さっきも説明したけどアレは僕のへんてこスキルで増えたものだからほぼ本物みたいなもので……嫁入り前のソーニャが自覚なしに経験済みになっちゃってるかもしれなくて……こっちこそごめん!」
ソーニャが落ち着いたタイミングを見計らい、僕はけじめとして自分のスキルについて説明していた。
〈ギフト〉についてまではさすがに明かせないけど、謝罪のためにはこのくらい話しておかないと、と思ったのだ。
が、それでもソーニャは自分のほうが悪いと譲らず、
「いやいや! エリオールが謝る必要なんてないよ! なんていうかその、私が勝手にエリオールのアレを誘拐して手籠めにしたようなものっていうか、本当にありがとうっていうか……!」
「いやいや! それでもやっぱり僕の管理が甘かったっていうか、見境なく戦闘態勢になるアソコが本当に申し訳なくて……!」
なんだかもうお互いにテンパって謝罪の連鎖が止まらなくなる。
けどその無限ループは「……キリがないから、お互い様ってことで水に流したほうがいい」というアリシアの冷静な仲裁でようやく落ち着いた。
「……う、うん、まあ、あんまり互いに掘り返しても気まずいだけだし」
「不幸な事故ってことで、なかったことにしたほうが、いいのかな……?」
ということで一応の決着を見るのだった。
そうして僕は席を立ちながら、顔を赤くしてソーニャに向き直る。
「そ、それじゃあ、僕のアレを返してもらって、おいとましようかな」
「え?」
「え?」
僕の言葉に、ソーニャがおかしな反応を返してきた。
え? なんでそこでソーニャが戸惑うの?
あんなモノ、嫁入り前のソーニャが持ってても百害あって一利なしだと思うんだけど……。
「……あ、い、いや、そうよね! そもそもエリオールたちのモノだし、私が勝手に持って帰ったのが悪いんだから、返すのが当たり前よね! な、なに考えてるんだろう私!」
言ってソーニャは応接間を飛び出し、布に包まれた僕のムスコを抱いてやってくる。
そうして僕に手渡してくれたのだけど……。
ぐぐぐ。
ソーニャはなぜか分離した僕のアソコを掴んだまま離そうとしない。
「……ソ、ソーニャ? 離してくれないと受け取れないんだけど……?」
「はっ! あ、いやごめんなさい! なんか今日はおかしいなぁ私!」
そう言って慌てたように僕のアソコから手を離すソーニャに見送られ、僕とアリシアは彼女の豪邸を後にするのだった。
……なんだかソーニャの様子が最後までおかしかったけど、本当に大丈夫なのかな。
少し心配だ。
けれど僕のそんな思考はジェラシーで性欲の増したアリシアに襲われ、それ以上深く考えることができないのだった。
*
エリオたちがアレを回収した翌日。
「……う~」
ソーニャは呻きながら街をさまよっていた。
その胸中を満たしているのは一昨日の晩、これでもかと快楽を叩き込んでくれたエリオールのエリオールについてである。
「ダメだ……気晴らしに街を歩いてみたけど……あの気持ちよさが忘れられない……」
ソーニャは昨日エリオールたちにアレを返してから、ずっと悶々としていた。
昨日から色々と代替を考えてみたが、心も身体もまったく満足してくれないのだった。
「うぅ……あんなの知っちゃったら、もう他のモノでなんて満足できない……」
もちろん、我慢できないほどの欲求不満ではない。
だが今後二度とあの感覚を味わえないと思うと、なんだか余計に欲しくなってしまうのだった。
「こうなったらエリオールに頼んで……いやでもそんなはしたないこと……うぅ、どうにかこっそり合法的に、またエリオールのエリオールが手に入らないかな……」
と、ソーニャが身体を持て余しながらさまよい歩いていたときだ。
「お? マクシエルんとこのお転婆じゃねーか。なに景気の悪いツラしてんだ?」
細い路地に入ったところで知り合いと出くわした。
この街一番……いや、この地域で間違いなく一番の腕を持つ鍛冶師ウェイプスだ。
ウェイプスはいつもの豪快な調子でソーニャに雑談を持ちかける。
と、そうしていくつかの言葉を交わしていたところ、ウェイプスが「あ、そういやぁ」と思い出したように顎を撫でた。
「お前、あの商業ギルド№2の母親になにか儲け話でもないかって聞いといてくれよ」
「え? なんですか急に。ウェイプスさんがお金の話なんて珍しいですね?」
「いやあたしじゃなくてな? あの二人、エリオールとアリィだよ。あいつらそのうち、武器の新調で大金が必要になりそうなんだ。だからまあ、お前のツテでなんか割の良い仕事を紹介してやれねーのかと思ってな」
「なるほど……そういうことなら是が非でも協力したいところですけど、ウェイプスさんがそんなこと言うだけの儲け話なんて早々――」
と、そのときだった。
商業ギルド№2を母に持つソーニャのピンク色の脳細胞が、天啓を受けて急激に回転し始めたのは。
(これはかなりの博打……すべてはエリオールの気持ち次第……! けどその中で本来なら一番の障害になるだろうアリィは昨日の反応を見る限り、むしろ私のこの考えに協力してくれそうな雰囲気があった……!)
長年たくさんの冒険者や商人と関わってきた経験からソーニャはそう確信する。
次の瞬間、ソーニャは一直線に走り出していた。
「あ!? おいソーニャ!? どうしたんだよ急に!」
「ありがとうウェイプスさん! このお礼はまた今度するから!」
「ああ!?」
戸惑うウェイプスを背に、ソーニャは身体の熱に従うまま、知り合いにアポをとるため商業ギルドに駆け込んでいた。
*
「え? どうしたのソーニャ、こんな時間に」
ソーニャからアレを回収した翌日の夕方。
肩で息をして宿を訪ねてきたソーニャに僕は目を丸くした。
一体何事かと思っていると、
「ねえエリオール、アリィ。あなたたち、将来的に武器調達資金が必要なんでしょう?」
ソーニャは少し気まずそうにもじもじしながら、謎の熱を帯びた瞳で告げる。
「その……もちろんエリオールたちがあのスキルについて他の人に話しても良ければっていうのが大前提なんだけど……良い話があるの。一口乗ってみない?」
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※2021/10/14 一部表現を修正しました。
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