第17話 夜明けの光

 俺たちは豪腕三人衆との戦いに備え、作戦会議を始めることにした。俺達は皆ほとんど戦闘経験が無く、更に戦闘能力も高くないのでコトに作戦会議を主導してもらうことにした。


「まず相手の豪腕三人衆の情報だけど連中は皆オーク族で、リーダーで一番大柄な男の『オレバ』とその取り巻きの女で元気な『ベラ』と大人しい『クラヤ』の三人だ。連中の名前の通り三人とも凄い力の持ち主で、武器も使わず拳だけで戦うタイプだ。実力に関してはあたしらと互角かそれ以上ってところだね。だからこそ、今回の戦いでは連携が必要だよ」


「連携?」


「まさにさっきあんたらがやってたことさ。あたしらの攻撃を食い止めて、その後かき乱し拘束して、最後に致命傷を与えただろ? それが大事なことなんだ。確かにあんたらはまだまだ経験と実力が足りない、でも連携さえ意識できれば実力以上の相手に勝つことだってできるのさ!」


「あの時は皆が皆無我夢中だったけど、上手く連携できていたんだね。じゃあさっきと同じような作戦はどうかな?」


「それも悪くないと思うんだが、難しいね。あたしらも加われば連中を拘束するところまでは出来るかも知れない。ただ、致命傷を与える最後の一撃が問題なんだ。あたしらはコボルトだから臭いに敏感でファイスの腐臭には耐えられなかったけど、オークは特に優れた嗅覚を持っているわけじゃないから、せいぜい嫌がらせくらいにしかならないはずだ。だから魔使いのペンダントをかけるのは難しいだろう」


 途中までは決まったものの、最後の一撃に関してはなかなか良い案が浮かばなかった。


「まだ夜のうちにアジトへ行って寝てる間にペンダントをかけたらどうかな?」


「それも良い考えだが、かなり近くに行かないと出来ないし、どんなに頑張っても物音が出てしまうだろ? そうなると連中耳は良いからすぐに気づかれちまうと思うんだ」


「真正面から戦うしかないのね……。ゲームのように戦闘が始まる前に魔法とか道具を使って自分たちを強くできれば良いんだけど、そうすれば準備してた分多少は有利になりそうだけど」


「戦闘が始まる前に……。そうかこれなら! アオイ! あんた良いこと言うね!」


「えっ!? でも魔法は私も含めて皆使えないはずじゃ」


「その通りだ、誰も魔法は使えない。だから道具を使って予め落とし穴を掘っておくんだよ。おびき寄せるのは皆で連携して誘導すればいいし、そこで穴に連中が落ちてくれればもう完全に身動きを取ることができなくなるから、ペンダントをかけることも出来るはずさ」


 コトから予想外の案が出てきて俺達は皆驚いた。


「でもその落とし穴はどうやって?」


「人手が多ければ多いほど早く落とし穴を掘ることは出来るが、大勢で行くと流石に気づかれちまうからね。あたしら三人は行くとして、あとラルフ達の中から一人は欲しいところだけど……」


「俺達の中で適任なのは穴掘りが得意なアレン兄さんじゃないかな?」


「それだ! しかもアレンはダーティラットじゃないか! ダーティラットはラット族の中でも能力は低いが、その名の通りどんなに汚れているところでも活動できるし、汚いところであればあるほど能力が上がる。それにラット族は総じて穴掘りが得意な種族だから手伝ってくれるならとても助かるよ!」


「チュウウ!」


「アレン兄さんも俺に任せろって言ってるみたい!」


「そうかい。じゃあ決まりだね!」


「明日の夜明け前までにあたしらがアジトの近くに行って大きな落とし穴を用意しておくから、戦う時そこに誘導してくれればいいさ。普段のやつらなら気づくだろうが、今は我を見失い正気を失っているから正常な判断は出来ないはずだ。それに一番強いオレバは朝に弱かったからね、暗いうちに攻めるのはより効果的なはずさ」


「わかった」


「あたしらが無事落とし穴を掘ることが出来たら一旦ここに帰ってくる。それまでは仮眠でも取って休んでいてくれ。あたしらが帰ってきたら皆で一気に攻め入るよ! アジトに着いたら落とし穴の場所を教えるから、皆で挑発したりして連中をその場所まで誘導するよ!」


 俺達は作戦会議を終えコト達とアレン兄さんを見送り、準備を整えながら仮眠を取ることにした。この日の夜は久々に物語の夢を見たけど、隣にいる女性はいつもより悲しそうな表情をしていた。


「皆落とし穴はちゃんと掘ってきたよ! さぁ今から連中のアジトに攻め込むよ!」


 コトの元気な声で目が覚め、俺達はコトの案内で豪腕三人衆のアジトに向かった。道中コトからアレン兄さんの穴掘りが凄かったことを聞かされ、ダーティラットだからこその穴掘りの素早さだけではなく、人間だった頃の力強さもある気がしてさすがアレン兄さんだなと思った。


「ここが連中のアジトだよ。今はまだ眠っているだろうから、まずはそっと近よってペンダントをかけることが出来ないか試してみよう。ここは身軽なあたしらが行ってみるよ。ただ言ったように失敗する可能性が高いから、そしたらすぐに落とし穴作戦に変更だ。だから皆は外で待機していてくれ」


 コトから落とし穴の位置を聞きつつ、俺達は待機することにした。落とし穴へ誘導する作戦としては、外へ出てきたところをコト達とアレン兄さんと俺で落とし穴に向かってくるように挑発し、落ちたところでペンダントをかける作戦だ。もし挑発が上手く行かなかった場合にはアオイにも加わってもらい、落とし穴に落ちた後も暴れるようであればファイスさんとロザリーさんで拘束するというやり方でいくことにした。


「どうなったかの結果に関わらず、あたしが大声を出すからそしたら準備をしてくれ。じゃあ行ってくるよ」


 アジトの扉は鍵がかかっていたけど、コトはそれをいともたやすく開け中に入った。入ってからしばらくすると大きな物音が聞こえてきて、コト達が勢い良く外に飛び出してきた。


「皆! ベラとクラヤにはペンダントをかけることが出来たが、オルバだけ気づかれちまった! その時あたしら攻撃を受けて満足に動けない、後は頼めるかい?」


「わ、わかった! そこの木陰にアオイ達がいるからそこで休んでて!」


「すまない!」


 豪腕三人衆全員を相手にするつもりでいたところ、オルバだけになったのは良かったものの、コト達が負傷してしまい作戦を変更せざるおえなくなった。そうこう考えているうちにアジトのドアから巨大な影が現れた。顔は豚や猪に近く身体はコト達コボルト族と同じ人の体をしたオーク族の大男だった。コト達のように身体が毛に覆われてない分、その筋肉質な全身が目立っていた。


「グォオオオオ!」


「こっちに向かってくる! アレン兄さん! あそこの落とし穴に入るように誘導するよ!」


「チュウ!」


 俺達はオレバから目を離さないようにしつつ、一番近場に掘った落とし穴へ落ちるように挑発しながら誘導することにした。幸い足はそんなに早くなかったので追いつかれるようなことはなかった。


「よし、この調子で来てくれれば……」


「グオッ!?」


 落とし穴がある場所に足を踏み入れた瞬間、オルバの巨体は大きな音を立て、その穴に落ちていった。短時間で掘った割には大きい落とし穴だったけど、オルバがちょうどすっぽり入るくらいだった。落ちた衝撃で動けなくなっているところで、俺はすかさずペンダントを取り出し、オルバの首にかけた。


「……俺は、一旦何を……?」


 目を開けたオルバの首のペンダントが、朝日を反射してキラリと光った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る