第13話 最強勇者達は異世界を遊び尽くす

 俺達がこのセルリタっていう異世界に来てからもう結構日が経っていた。やっぱり楽しいことしてると時間がすぎるのが早いなと思いつつ、ふと冒険の始まりの日を思い出していた。夢の中で急に『ゲームの世界に興味ない? もし興味があるなら僕がその世界に案内してあげるよ!』と声をかけられたあの日、俺は二つ返事でOKした。その後夢から覚めると俺はこの異世界の王都カラストルの城の中にいたんだよな。


「俺が勇者様か……。本当にこんなことってあるんだな」


 他のパーティメンバーのマヤやケンジ……あと最初はウゼェ真面目ちゃんのアオイも一緒にこの世界に召喚された。最初はとうとう俺も異世界転移したのかって驚いたもんだよ、異世界転生や転移の話は結構好きだからアニメや漫画、ネット小説でも見てたけどまさか自分がその仲間入りをするなんて思いもよらなかった。


「ねぇコウイチ? 次私たちはどこに行けばいいんだっけ?」


「んだよせっかく人が思い出に浸っていたところなのによぉ。行き先なんてそんなの知らねぇよ。あの王子にもらったこの馬車が適当に目的地まで案内してくれるんじゃねぇの?」


「それもそうね。それにしてもチート能力って本当に便利よね。まさか移動まで自動でやってくれるなんて、私たちこの馬車の中で休んでればいいだけだもん。自分たちの足で歩くことも出来るけど、疲れるし面倒だし。それにこの馬たちも蹴るだけでスピード変えられるから快適だし効率的だわ、流石ゲームと同じ異世界って感じね」


 マヤが感心しているこの快適さもゲームの世界だからこそなんだろう。こっちの世界に来て魔王討伐のため王子から召喚されたこと、チート能力があることを聞かされた後、俺たちはここでどんな風に楽しむかを話し合った。その時に僧侶のアオイが『そんなことはしちゃいけないわ! 人々を助けつつ、魔王を倒して平和を取り戻すことを第一に考えましょう!』なんて余計なこと言うから身ぐるみ剥いで追い出してやった。まぁ俺たち最強パーティはダメージ受けることなんてないから僧侶なんていらねぇしな。


「人助けみたいなお使いクエストや平和のためにみたいな考え方って無駄だしな。俺達は装備も能力も最強なんだから余計なことする必要なんてないんだよな」


 真面目で邪魔な優等生を追い出した後、俺たちは王子からこの世界が俺たちのハマってたゲームの世界だって聞かされた。それに魔王さえ倒してくれるなら他は自由に何しても良いんだとよ。ゲームの世界と国や王子の名前とか全然違うのはちょっと気になるけど。そんなことチート能力さえあれば関係ないし、気にする必要もないことだ。


「それにしてもアオイも本当にバカよねぇ、こんな快適に旅が出来て好きなことが出来るのに自分からその力を手放しちゃうなんて」


「なんだマヤ? あいつのこと気にしてんのか?」


「別に、ただ凄い愚か者だなって思っただけよ。だってあの子ゲームを本名のアオイって名前でプレイしてたのよ! あんな危機感もない小娘が一人でこの世界でやってけるわけないのにね。私達は皆名前を変えていたからあの子はゲームのパーティメンバーだってことすら知らないで抜けちゃったのよね」


「マジで可愛そうだったよな、頭が。そんなことよりケンジ、お前さっきから一人でこそこそと何やってるんだ?」


「えっ!? ゴホッ! ちょっと! 急に話しかけないでよ! あっ……」


「お前どうしたんだよ? うわぁ……。町の食い物全部くらい尽くすのはまだいいけどよぉ、それは流石に気持ち悪りぃぞ」


「気持ち悪いとは何だよ! 僕はただ妖精さんを愛でていただけじゃないか! コウイチに話しかけられてびっくりしちゃったから、一匹飲み込んじゃったんだよ!」


 ケンジは前に立ち寄ったエルフの森で何匹か妖精を捕まえてビンの中に保管していた。それを触ったり舐めたりしていた時に間違って一匹を飲み込んでしまったらしい。こいつのそう言うところはマジでドン引きだ。


「あぁ貴重な妖精さんが……。でも足りなくなったりしたらまた捕まえに行けばいいか。妖精はどんなに高価なフィギュアよりもクオリティが高くて価値があるからね、魔王を倒したら日本に戻る前にたくさん捕まえるんだ! そしてネットで高額な値段を付けて売るんだ。僕の転売の腕の見せ所だね! 原価0円だから凄い利益になるよなぁ、今から楽しみだよ!」


「おいおい、もう魔王を倒したあとのことを考えてるなんて気が早いな、それにお前は本当に欲望に忠実だよな」


「コウイチにも妖精分けてあげよっか? 試しに一匹舐めてみなよー。柔らかくて花の香りがして甘いよー」


「俺にはお前みたいになんでもかんでも舐める趣味はねぇよ。それよりお前あのなんとかって村で手に入れた奴隷はどうした? 最近見かけないけどちゃんと世話してるんだろうな?」


「ああ、あの子ね。僕は触ったり抱きしめてあげたりして大事にしてあげていたんだけど、凄い反抗的でさ。まぁ殴れば大人しくなったけどね。それでこの前いつも舐めてばかりで悪いからって、僕の身体舐めさせてあげたらさ、あの子その場で吐きやがってさ、ムカついたしもう飽きたから何かゴミ捨て場みたいな所に立ち寄った時、捨ててきたよ」


「殴るなんて最低よ! それに反抗的だったのってケンジが臭かったからじゃないの? この世界に来てからちゃんと風呂入ってるの?」


「日本にいたときから月1くらいでしか入ってなかったけど」


「それのせいよ! 私達は能力のおかげで悪臭から守られているし、怪我しても早く治るけど、あーあ可愛そう」


 やっぱりちゃんと世話するなんて言うやつのことは信用できないんだなと思った。


「そういうマヤはどうなんだよ? 同じ村で手に入れた奴隷はどうしたの?」


「私も同じ場所で捨ててきたわよ。反抗的だったし、言葉でも手でも散々指導してあげたのに言うこと全然聞かないし、面倒だったしね、もっと従順な奴隷が欲しいから魅了系の魔法とかあったらそれを覚えて使おうかしら」


「お前ら本当に容赦ないよな。マジでヤバイな」


「そういうコウイチだってヤバイじゃない」


「はぁ?俺のどこがヤバイんだよ?」


「あなたさっき立ち寄った町で何してきた?」


 さっきの町でしてきたことを思い返したけど、何も特別なことはやっていないはずだった。


「何したって……普通に必要なものそろえようと、道具屋の店主脅して全部かっさらって。腹減ったから食堂で料理人脅してタダで料理作らせて、腹いっぱいになって。いちゃもん付けてきたおやじを痛い目に合わせて……」


「そこまではいつもの事よ。もっとヤバいことしてたでしょ?」


「ああ! 俺好みの女見つけてちょっとイタズラしようとした時の事か!」


「それよそれ! ケンジと同じで女の子に手を上げるなんて許せないわ!」


「せっかくの異世界生活なんだからさ。俺もサヤやケンジと同じでちょっと遊ぼうとしただけだよ」


「女の私が男に何かするのはいいけど、男のあなたがするのが問題なの! それにあなた、ちょっかいだそうとして抵抗されて斬りつけたでしょ?」


「ああ、さすがにウザくてな。ちょっとだけな」


「ちょっとって、顔は女の命なのよ!」


「まぁまぁ異世界なんだからさ、何してもいいだろう?」


「それにあなた、魔族を殺す時わざと時間かけてるわよね」


「そうそう! なぶり殺しにしてる感じ、あれじゃ僕たちまで悪役みたいだよ」


「なんだよ二人して、リアルの魔族をぶっ殺す感覚なんて普通絶対味わえないだろ? あんな雑魚ども瞬殺でつまんねぇじゃん。剣で刺す感覚や、本物の悲鳴をしっかり楽しみたいから時間かけてんだよ。せっかく異世界に来てチートな力を手に入れたんだから、出来る限り楽しまないともったいないだろ?」


「それもそうね、出来る限り楽しむってところには同意。異世界物でたまに『異世界に来てチート能力もらったけど、のんびり生活する!』みたいなのあるけど、あれあっぱりもったいないわよね。せっかくの異世界に来てチート能力あるんだから自由に楽しまないと!」


「僕も賛成! 多分僕らがこれだけ強いのは『この世界で楽しみなさい』っていう女神様の思し召しでもあるんだよ。僕らは自由どころか、むしろ真面目なんだよ!」


「だよな! 力を持ってる俺らに歯向かえるやつなんざこの世界にはいないんだし、楽しくやろうぜ? じゃあ思う存分に楽しみますか!」


 それぞれ楽しみ方は違うが、俺達は今異世界での冒険を存分に楽しんでる。これからも異世界を遊び尽くしつつ、ついでに魔王を倒す冒険はまだまだ続く。

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