第三話 告白 2
例の
そしてそれ以上に許せなかったのは、彼女が悩み苦しんでいる状況を知りながらも当時
僕は『弱きを助け、強きを挫く』という、いわゆる
それこそ、
けれども、今回のような場面に直面してしまうと、
僕じゃなくて良かった、と。
人間、誰しも自分がかわいいものである。 恐らく僕自身も、そういった人間を
だから、間接的ではあるし回り道もしたけれど、今回の席替えで古谷さんの授業環境を変えてやれた事には自分が思う以上に満足していたのだと思う。
それらの行為は、一時は目を
正直に言ってしまえば、偽善や自己満足や罪滅ぼしといった、ちんけな
けれども、彼女のように、
しかし、普段
「いや、お礼を言われるほどの事じゃないよ。 あの席替えは三浦君の目が悪いって話を聞いて考えた事だから、実は古谷さんがそこまで悩んでるって事までは知らなくてね、今回偶然古谷さんも助けられる事が出来たってだけだよ。 だから、そんなにかしこまってお礼なんていらないよ」
だからだろう。
本当は一度素知らぬふりをしてしまった者から感謝されるという罪悪感に耐えられなかっただけなのに、だけれど、先述した僕の浅ましい心の内を彼女と面向かって伝えられる筈もなく、今はその嘘を隠れ
「そんな事は無いですよ。 例え偶然だったとしても、私が救われた事に変わりは無いんですから素直に受け取って下さいよ。 それともこんな押し付けがましい事言われて、迷惑でしたか?」
「ううん、そんな事は無いよ。 古谷さんがそう言ってくれるのは嬉しいんだけど、その、何て言うんだろう、照れ臭いって言うのかな、うーん……」
僕に中々感謝を受け取って貰えない彼女が急に落ち込んだ素振りを見せたものだから、ひとまずフォローはしたものの適切な表現が見当たらず困惑していると、僕のへどもどした姿がおかしかったのか、古谷さんは突然くすくすと
「綾瀬くんって、そういう困った顔もするんですね。 私の想像の中では、綾瀬くんは何でもこなせる完璧な人だと思ってました」
彼女は一体僕のどこを見て、まるで見当違いな想像をしていたのだろう。 呆れさえも覚えてしまいそうな古谷さんの言い草に僕は、
「相手の感謝も素直に受け取れない分からず屋が完璧なはずないよ。 ごめんね、がっかりさせちゃったかな」と、つい
「いえ、そんな事はないです。 むしろ、遠い存在だと思ってた綾瀬くんが案外近いところに居てくれて、何だかほっとしました」と、僕に伝えてきた。
以前の彼女の目には、僕はどう
「綾瀬くんって、よく神くんと一緒に居るじゃないですか。 それで二人とも背が高くて格好良かったので、入学した頃から私の中では結構二人は目立ってたんです。
それから、いつも気が付くと目で追ってて、いつも楽しそうにしてる二人を見ては『この人たちは私が持っていないモノを全部持っているんだろうな』って勝手に想像して、その度に一人で落ち込んでました」
よもや古谷さんからそういった目で見られていたとは
それにしても、三郎太が古谷さん目線の頭数に入っていなかったのは単なる見落としか、それとも
いずれにせよ、彼がこの事を知れば
「でも、今みたいに感謝を素直に受け取らない不器用さとか、返答に困ってあたふたする姿とか、やっぱりこの人も私と同じ人間なんだなって、ちょっぴり、かわいいなって思いました。 あ、男の人に『かわいい』って何か変ですよね、ごめんなさい。 でも、そういう綾瀬くんの一面を知る事が出来て、本当に嬉しかった。
だから私は、好きになってしまったみたいなんです。 綾瀬くんの事を」
そう言われた途端、頭が真っ白になった。 時間さえ停止したような心持がした。
僕は、生まれて初めて、女性から告白されてしまった。
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