第2話 事の始まりは何でしたっけ?

 その日も、いつも通りの朝だった。

 たまたま、徒歩圏内にちょうどいい県立高校があったからそこを受験して、合格して、近所の幼なじみの井上貴志と一緒に登校していた。

 登校時、話をするのは決まってゲーム。もしくはラノベ系の感想とか、そんな感じで、付き合ってるとかではなく、小学校からのノリで、近所だから一緒に登校してるだけ。趣味が合うから話をするだけ。

 お互い、割とオタクだけど、見た目は普通だし、汗くさくないし、私もヤンデレとかそんな感じにならないので、とりあえず普通に高校生をやっている。

「1周目終わったんだけど、何となくプレイしたから攻略対象5番目とのエンドだった」

「1番目は難しい、と?」

 貴志は乙女ゲームの話も気軽に乗ってきてくれるから助かる。まぁ、ゲームはゲームだから。シュミレーションものと、思えば割り切って遊べるもんだ。ただ、思い入れは出来ないけどね。

「そりゃ、1番目は婚約者付きの王子様だよ。略奪愛じゃん、難しいに決まってる」

「おお、婚約者とか!そんなのいる男に普通はアタックしねーわ」

 貴志の返事は至極まっとうな意見だった。それは、私も思うところで

「でしょー!ひとの男を落とすとかゲスだわ。しかも、その婚約者の、令嬢を世間では悪役令嬢とか、呼ぶんだよ」

「すげー、自分本位な設定ですな」

 貴志は、話があうんだよねー。そーだよねー、普通に考えていたら、婚約者のいる男に手を出す?婚約者だよ、婚約者!一昔前に流行った昼ドラバリにドロドロじゃん!このシナリオ考えたやつ、乙女ゲームなら不倫も上等!とか考えちゃってるサイコパス?それで、その令嬢は破滅エンドとか、もう恐ろしい限りだよ。

 そんな話をしながら、いつものように学校に向かう駅からの集団に何となく紛れ込んで行った。

「冬休み短いから、何周できるかなぁ」

「短いったって、2週間はたっぷりあるぞ」

「バイトもあるじゃん」

 もうすぐ冬休み、バイトとゲームとコミケで予定はぎっしり。趣味のためにバイトしてるからね、両立が大変なのよ。


 キーーーー


 日常では聞きなれない機械音がした。

「え?」

 振り返った時、国道方向からおかしなスピードで突っ込んでくる車が見えた。

「嘘だろ」

 隣にいる貴志の声が聞こえた。

 時間にしてほんの数秒、その車は信号無視とかそういう次元を超えて私たちがいる横断歩道にやって来ていた。

 対処出来ない状況に、周りから悲鳴が聞こえた。多分、私もあげていた。いや、どうだろう?視界の中の車は同じ制服を着た生徒を跳ね飛ばし、私にもぶつかった。

 ブレーキの音なんか聞こえたかな?一瞬で色々考えたけど、何も出来なかった。血が見えた。自分のかな?貴志のかな?それとも、他の生徒のかな?苦しいとか痛いとか、そんなのは感じなかった。あ、って思った時にはもう何も感じなかったから……





「……あ」

 ベッドに寝ていた。

 病院じゃない、けど、白くて清潔なシーツが敷かれたベッド。

 天蓋が付いている。いわゆるお姫様ベッドだ。ぼんやりと部屋の中を見渡していたが、どうも病院じゃないようで、

「ーーーー?」

 ガバッと起き上がり、自分の手を見た。

 包帯なんか巻かれてない、怪我もしてない。綺麗な手。手入れの行き届いた爪をしていて、着ているのは肌触りのいい寝間着。

「アンネローゼ様、お目覚めですか?」

 知らない声がして、ドキリとした。え?アンネローゼ?誰?

 状況が把握出来ないまま固まっていたら、メイドさん?が天蓋を開けて私の顔を覗き込んできた。

「アンネローゼ様、ご気分はいかがですか?」

 メイドさんは心底心配です。って顔をしている。が、ちょっと待ってね。私、誰だっけ?アンネローゼ?うーんと、待ってね。記憶障害が起きてるみたいなのよ。待って、本当に待って。

「えーっと、ね」

 私が答えに困っていると、メイドさんはワゴンからコップを取り、そこに水を注いだ。

「アンネローゼ様、さぁ、お水をどうぞ。ミントを入れてありますから、スッキリしますわ」

 差し出されたハーブ水を飲んで一息ついた。鼓動が早いのが気ななる。とても怖い夢を見たような、そんな感じだ。

「ごめんなさいね、リリス」

 サラッとメイドさんの名前後でてきた。不思議な感じかする。いわゆる憑依した。って感じなんだろうか?別人格が入り込んでいる。と、なると、本来のアンネローゼはどこに行ったのだろうか?それを考えるとちょっと怖い。

「旦那様には他のものが報告に行きました」

 リリスがそう言ったので、ふと部屋の時計を見る。割と遅い時間になっていた。記憶を辿ると、学校からの帰宅の馬車の中から抜けている。そんなに意識が抜けていたのか!そりゃ大変だわ。

「お腹は空いてませんか?」

 リリスが控えめに聞いてくれた。空いてるかもしれないけど、食べたい気持ちは起きてこない。

「遠慮しておくわ、もう遅いし」

 そう答えると、リリスは

「おやすみなさいませ」

 そう言って退室してくれた。

 夢で見たのか、その辺はよく分からないけれど、私は現在プレイ中の乙女ゲームに転生したことが確定した。状況から言って、既にゲームは進行中。

 そして、多分だけど、あの事故の状況から言って、他にも誰かがこの世界に転生していると思う!だって、あれだけの事故だもん。私だけが死んだなんておかしいよ!




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