四畳半開拓日記 12/18
12
月曜日の会社だ。
相変わらず楽しいものじゃないが、最近は少し張り合いもある。
仕事が早く終われば、それだけ長くサチたちと触れ合える。
それに成績がよければ、あいつらに美味しいものでも土産にしてやれるからな。
「しかし、さすがに頑張りすぎたな……」
腰をさすった。
このゲーム機が現れてから、いろいろあった。
それでも、この土日はイベント盛りだくさんだった。
「おい、どうした?」
「ああ、水戸部か。ちょっと、調子が悪くてな」
「おいおい、お楽しみ自慢とは珍しいな」
「いや、そういうんじゃなくて……」
説明することもできないし、適当に誤魔化そう。
だいたい、おれが独り身だと知ってるだろ。
「先輩、いいですかー?」
振り返ると、岬が報告書を持ってきた。
「おう。どうした?」
「これのチェック、お願いしまーす」
はいはい、と受け取った。
相変わらず、きれいにまとまってて読みやすい。
と、なぜか自分のデスクに戻らなかった。
何か気まずそうに切りだす。
「あと、腰のほう大丈夫ですか?」
「え? どうして?」
「さっきから辛そうにしてるので」
「ああ、見られてたか。痛いわけじゃないが、ちょっと慣れないことしすぎたからな」
「昨日は頑張ってましたもんね」
「ほう。おまえが褒めてくれるなんて珍しいな」
「い、いえ。そういうわけじゃなくて、客観的な事実というか……」
「はっはっは。照れなくてもいいだろ」
「照れてないっていうか、わたしもすごい体験させてもらったので、その点は評価しないといけないというか……」
「そう言ってもらえると、張り切った
「もう。そうやって調子に乗ると、次は本当に危ないことになりますよ」
呆れたように言う。
昨日はあんなに気まずかったのに、すっかり空気も和らいでいる気がする。
「じゃあ、気をつけてくださいね」
「おう、ありがとな」
岬が戻ったあと、報告書に目を落とす。
ううむ、やはりよくできて……。
「おまっ、まさか相手は岬ちゃん!?」
「は?」
水戸部が何か言っている。
その意味を考えて、すぐにさっきの会話に行きついた。
「い、いや、違うぞ!?」
「でも、休日に会ってるんだろ?」
「ま、まあ、そうだけど、いや、そういう付き合いじゃなくて、あくまで互いの都合のいい時間だけ遊ぶというか……」
「互いに都合のいい関係だと!?」
すごく曲解された気がする。
「それで、すごい体験って、どんなプレイを……」
「だから違うと言ってるだろ!!」
そのあとも必死の言い訳は通じず。
最終的には、なぜか課長にまで呼ばれて尋問された。
この会社、暇すぎか。
***
アパートに戻ったとき、山田村の変化に気づいた。
■ クエスト を 達成 しました ■
でた。
またなにかをクリアしたらしい。
■ 《亜人との交流(1)》 を クリア しました ■
■ 《初めての植え付け》 を クリア しました ■
■ 《モンスターとの接触》 を クリア しました ■
■ サブシナリオ 《月狼族の秘密(1)》 を クリア しました ■
一気に四つも。
昨日はずいぶんとイベント盛りだくさんだったな。
モンスターはおれが倒したわけではないが、まあいいか。
■ レベル が 上がりました ■
■ 山田 村 ■
◆レベル 7 《 次 の レベル まで 25 ポイント 》
◆人口 3
◆ステータス 高揚
◆スキル ●○○
■ 増築 が 可能 に なりました (3) ■
▼水車
▼湯源
▼水路(拡大)
▼井戸
▼ため池
▼下水道
■ 以下 から 新しい スキル を 選択 してください (3) ■
▼育成速度アップ
▼モンスター出現率ダウン
▼気候変化抑制C
▼作業効率アップ
一気に3レベルも上がった。
それに伴って、かなりの変化が見られる。
まずは村のステータス。
増築のほうに項目が増えている。
前回の『水車』『湯源』に、『水路』も拡大できるらしい。
それに加えて、『井戸』『ため池』『下水道』が加わった。
前回から想像はできていたが、どうやら前回のレベルアップで増やした施設に関連する項目が増えるらしい。
つまり最初に『川』を選んだから『水路』が出現した。
そして『水路』を確保したから、それに関連する『井戸』『ため池』『下水道』が出現したのだ。
ここで『水車』『湯源』を増やせば、次のレベルアップ時にはもっと項目が増えるのだろう。
最初に『道』か『丘』を選んでいれば、もっと違う発展をしたのだろうか。
今回は三つ取得できる。
「……まずは『井戸』を取得」
小屋の脇に井戸が出現した。
■ 井戸 を 設置 しました ■
川の水で問題はなさそうとはいえ、ちゃんとした飲み水の確保は先決だ。
仮に雨が降ったりしたら、濁ってしまう可能性もある。
次だが、ううむ。
せっかく岬も楽しみにしていたし、湯源を取りたいのは山々だ。
ただ、いまのところ風呂がなくても生活に困っている様子はない。
どうしても身体を洗いたければ、おれの部屋に来ればいいし。
「……とりあえず『下水道』を取得」
■ 下水道 を 設置 しました ■
これで『井戸』で飲み水の確保、『下水道』で衛生面のシステムはマシになったはずだ。
次のレベルアップが楽しみだ。
あと一つは……そうだ。
岬がしたいと言っていたし、とっといてやるか。
そして次は、スキルだ。
こっちにも『育成速度アップ』という項目が増えている。
植え付けの影響だろうか。
ここも三つ取得できるので、これまで取得できなかったものを優先する。
■ 育成速度アップ を 取得 しました ■
……あとは、そうだな。
昨日のような大物が再び出てきたら困るしな。
■ モンスター出現率ダウン を 取得 しました ■
こっちも岬に一つ残して、と。
そこまで設定して、ふと考える。
あんなモンスターが出たとき、おれに他にできることはないだろうか。
カガミたちが対処できるうちはいい。
でも、もしそれ以上のモンスターが出たときに、おれはあまりに無力だと痛感させられた。
「……とはいっても、おれにはコレしかないな」
ブレッシングマイスターの眷属。
制作目標をネットで確認しながら、ひとりごちる。
次の土日も忙しくなりそうだ。
***
翌日の昼休憩。
場所はすっかり馴染みになったお蕎麦屋さんだ。
「ということで、手作りバーベキュー炉の作戦会議だ」
昨日、プリントアウトした資料を広げる。
ネットにあった、制作話のようなものを集めたのだ。
これについては、種芋を買うときにホームセンターで意見があった。
しかし一言でバーベキュー炉といっても、様々なタイプがあるらしい。
ピザ窯、バーベキューテーブル、囲炉裏……。
まさに個人のセンスが問われるな。
「もっとお手軽なやつからでいいんじゃないですか?」
「どうせなら、やりがいがあるほうがいいだろ。それに大掛かりなやつのほうが、スキルも強そうな気がする」
「でも、素人がいきなり作っても……」
諦めたようなため息をついた。
「じゃあ、こうしましょう。当日に二人でデザイン案を出し合って、さっちゃんたちが気に入ったほうを作るということで」
「いいな。受けて立とう」
ふっふっふ。
いくら平社員とはいえ、十年も経験が長いんだ。
負ける道理はないな。
「でも、いいのか? おまえも忙しいだろうに」
例の企画も認可され、本格的に動きだすようになってきたはずだ。
「日程としてはまだまだ大丈夫です。それに、この前のお礼もしていないですし……」
この前の礼?
「……おまえになにかしたか?」
「い、いえ。その、あのとき、モンスターから守っていただいたので……」
もにょもにょと語尾が消えていった。
もしかしてモグラが襲ってきたときのことだろうか。
そういえば、そんなことをしたような気がしないでもないな。
「気にしなくていいぞ。サチがいなかったら、まとめて潰されてたからな」
「あっけらかんと怖いこと言わないでくださいよ……」
そう言って、ぽつりとつぶやく。
「ちょっと、格好よかったです」
「え?」
かあっと頬を染めると、慌てて蕎麦を食べきった。
「じゃあ、ホームセンター行くときは、わたしにも声かけてくださいね!」
「あ、ああ。わかった」
慌てて千円札をテーブルに置くと、彼女は先に店を出ていってしまった。
「……まあ、変に嫌われるよりはいいけど」
可愛い女の子におだてられるのは、いくつになってもむずがゆいものだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます