第10話 公園デート
5月の公園は心地いい。じめじめとした梅雨がくる前の穏やかな天気。
池の上は長袖のシャツ一枚では少し肌寒いと感じるかもしれない。
でもぼくの体温はグングンと上昇していた。
佐倉さんとボートに二人きりになって、ぼくはオールを漕いでいる。
うっすら汗をかき始めたぼくの姿を、佐倉さんは何が楽しいのかニコニコと見ていた。
「良い景色だね」
「う、うん。すごい景色だなぁ」
太陽の光が池を照らし、キラキラと輝いてる。
あぁ、確かに良い景色なのだろう。でもぼくの意識は全く別のものに向いていた。
なんでボートに乗るのにミニスカなんだよ!
佐倉さんはなんと、ミニスカートでボートに乗り込み、膝を揃えて座っている。
公園デートを指定してきたのは佐倉さんだ。なら当然、動きやすい服装で来ると思うだろう。
佐倉さんは馬鹿じゃなかろうかと思いながらも、心の中でお辞儀をする。ありがとうございます!
残念ながらパンツは絶妙に見えないけれど、柔らかそうなむっちりとした太ももが素晴らしい景色です。
でもいつまでも見惚れている訳にもいかない。もっと大事なことがある。
「どうすれば誤解がとけるかなー」
お姉ちゃんが熱を出した日、一緒にお風呂に入るための悪だくみをしていたことを白状してしまった。
それ以降、お姉ちゃんは、ぼくがお姉ちゃんと性的な意味でお風呂に入りたいと思っていると誤解したままだ。
お姉ちゃんもさすがにマズいと思ったのだろう。お風呂の話をしても、強く拒絶するようになった。
色々と弁明を試みたけれど、未だ勘違いはとけていない。
「どうすれば誤解を解けると思う?」
「綾乃は単純だから、思い込んだら一直線だもんねぇ」
ボートの上で揺られながら、二人して頭を悩ませる。
「良いこと思いついた」
「えっ、なになに!?」
「弟くんが女の人と付き合っちゃえば良いんじゃない?」
「……えぇ?」
佐倉さんの提案は、とんでもないものであった。
お姉ちゃんとお風呂に入りたいという話をしているのに、なぜぼくが恋人を作らないといけないのか。
話が飛躍しすぎている。
「彼女ができれば、綾乃にえっちな意味で興味はなくて、家族としてお風呂に入りたいってことが分かってもらえるかも」
ふむ。言いたいことが分かってきた。
天然な佐倉さんにしては中々冴えた思いつきかもしれない。
とはいえ、それも難しいだろう。
「相手がいないから無理だね」
「私がいるよ」
「え?」
「私たちが付き合えば良い」
「ええ?」
この人は何を言っているのか。
そんなことできる訳がないだろう。
「ちょっと待ってよ。佐倉さんには片思いの人がいるんでしょ」
「ふふふ。まあね」
佐倉さんは笑いながらスマホを構えて、動揺しているぼくの写真を無断で撮っている。
いつものようにぼくをからかっているのだろう。
さすがのぼくも怒る。ぷんすかと怒りながら黙ってオールを漕いだ。
佐倉さんが謝っているけれど、簡単には許さないぞ!
「弟くん」
「なに?」
「私も漕いでみたい」
「いいけど……結構重いよ?」
スマホを鞄にしまった佐倉さんにオールを渡した。漕ぎ手チェンジだ。
お姉ちゃんとは正反対で、佐倉さんは運動音痴である。何もないところで転ぶようなドジっ娘だ。
ちゃんと漕げるのだろうか。ハラハラする。
「ぉ、おおぅ」
「ん? どうしたの?」
「いや、なんでもないよ。早く漕いでみて」
オールを漕ぐために、佐倉さんが体育座りのような形で足を前に出した。
僕が正面にいるからか足を広げてはおらず、本当に残念なことにパンツは見えない。あと少しで見えそうなのに絶妙に見えなかった。ちくしょうめ!
でも足の付け根部分まで露わになっていて、綺麗なおみ足が眩しいです。
「えい、んしょ」
オールを漕ごうと踏ん張りながら、身体を前に倒している。
襟首が浮いて、その隙間から水色のブラジャーと谷間がのぞく。
肌が白いためか、おっぱいの表面にはうっすらと血管が青く浮かんでいる。血管が描く模様は芸術的だった。
「あ、あれ?」
ボートは前には進まず、その場でガタガタと揺れながら回っていた。
まるでセンスがない。転覆の危機すら感じる。
佐倉さんの白い足や、おっぱいに見惚れている余裕はほとんどなかった。
「む、難しいね、これ」
「交代しようか?」
「もうちょっと頑張ってみる」
正直言って、佐倉さんに舵取りを任せるのは非常に不安だ。
両方同時に動かして、とか、右をもうちょっと強く、とか口で指示を出しているけれど、中々伝わらない。
「結構簡単そうに見えたからできると思ったのに……。弟くんは凄いね」
「そりゃ、弟だからね」
今のところ機会はないけれど、お姉ちゃんと一緒にボートに乗ることもあるかもしれない。
当然、弟としてしっかりとオールを漕ぐ必要がある。
いつなんどき何があっても良い様に、弟はあらゆることに万能であらねばならないのだ!
弟としての誇りを再確認していると、佐倉さんがとんでもない行動をとった。
「あのさ、弟くん」
「ッ!」
「口頭だと分からないから、こっちにきて教えてくれない?」
揃えていた両足を開いて、ぼくに向かってM字開脚でもしているのではないか、というような状態になる。
下着ががっつり見えている。ブラジャーとお揃いの水色のパンツ!
爽やかな水色の布を見ているのに、ぼくの心は真っ赤に燃えていた。
佐倉さんはオールを持った手で、太もも付近を示している。そこに座れということだろうか。いや、そんなはずはない。
「え、えーっと? どういうこと?」
「ここに座ってボートを漕いでほしい」
「う、う、う、うん。分かった。言葉だけじゃ伝わらないもんね!」
良いのだろうか。そっちに行っても良いのだろうか。
目の前に広がっている桃源郷。なにか罠が仕掛けられてはいないだろうか。
だが、男ならばこんなチャンスを逃す理由はない。
意を決して立ち上がり、前へと進んだ。
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