第29話
連続殺人?の関連性
倉科は三件の関連性について思いを巡らせたが、現段階では単に、何かがあるとしか表現の仕方が無かった。
「細かいことも聞きたいんだ。電話だと長くなるから会えないかな? 君にとっても重要なことだと思うよ」
「えっ? 私にとって重要なことって、何よ?」
倉科が一連の事件について綾乃を問いただすことになる。
「君の周りで起きた三つの事件について、どう考えているの? 単なる偶然だと思っているの? 何か感じていることがあるんじゃないの?」
沈黙が続いた。綾乃が一つ一つ確認するような口調で話し始める。
「江利子と正恵は大学時代からの親友だから……。二人ともどうしちゃったのか、と私も不安なの。里香さんとは親しかったけど、ビオラの先生ってことだけだから……」
倉科は鈴木正恵の父親が彼女の死因について疑問を持っていることを告げ、その件で依頼を受けた旨を話した。
「本来なら、探偵業法の守秘義務違反だけどね。君なら安心だと思ってね」
「私に話したりして大丈夫なの? 秘密を漏らしても罪にならないの?」
探偵業法で守秘義務違反にたいする刑罰は規定されていないが、違反すると公安委員会から必要な措置をとるようにとの指示、または六カ月以内の営業停止命令が出る。弱小探偵社にとって非常に厳しい処分が待ち受けている。こんなことを綾乃に話しても仕方が無いので、倉科は次の質問に移った。
「亡くなった二人と最後に会ったのはいつ? その時、何か変わったことはなかった?」
「最後に会ったのは半年程前。東京で四人一緒だったわ。珍しくビオラの小田貴子ちゃんもいたわ。それからすぐに、江利子、正恵と二回も御葬式があるなんて……。たまたま、偶然だと思いたいけど……」
二人の親友を思い抱いたのか、綾乃は涙声になった。
「そのとき、四人で何か特別なことでも話した? 何でもいいから覚えていることがあったら教えてくれる? 榊江利子さんは自殺と断定されているけど、何か悩んでいたとか、困っているとか、そんな兆候あった?」
「全然、感じなかったわ。今でも、江利子が自殺したなんて信じられない。妹の玲子ちゃんから遺書を残して、マンションの七階から飛び降りた、って聞いているけど……」
綾乃が断定的に言った。榊江利子の自殺については綾乃なりに強い疑念を抱いているようだ。
「それじゃあ、事故で亡くなった鈴木正恵さんについては? 車の運転はプロ並みだったと聞いているけど…」
綾乃が間髪をいれずに答えた。
「それもおかしいのよね。私と江利子は、何度も正恵の運転で長距離ドライブしたことがあるの。ものすごく安全運転だったわ。事故を起こすなんてありえないと思うの」
鈴木正恵の件についても綾乃は疑問を持っていることが分かった。
「それじゃあ、君は二人の死因に疑問を持っている訳だ?」
倉科が問うと、
「うーん。私は疑っているけど…。何も分からないし…」
事件の具体的状況について何も知らされていない綾乃にも、単に、何かおかしい?との直感が働いたのだろう。
「事故で亡くなった鈴木正恵さんのことだけど、一緒に乗っていたのが『夢想花』の専務らしいけど、二人の関係はどうだったの? 交際していたとか?」
「それはあり得ないと思うわ。正恵には以前から付き合っていた人がいたし…。美人の小田貴子ばっかり贔屓しているって、専務のことをあまりよく思ってなかったわ。あの二人は絶対に関係あるんじゃないかって疑っていたわ」
好感を抱かない相手と二人きりで深夜のドライブ? 何か用件が有ったに違いない。それも相当重大なものが…。倉科は何か引っ掛かる感じがして、綾乃にそのことを言った。
「それもそうねぇ…。今まで考えもしなかったわ。何故、ドライブに行ったのかなんて。遼介さんに聞いてみたら?」
「遼介? 怪我をした専務のこと? 名字は?」
「星野遼介。『夢想花』の社長の弟。社長の名前は星野百合子。ハープ奏者としても有名よ。前に何度も教えたじゃない」
あきれたような語調の綾乃に、
「そう言えば何度も君から聞かされていたね。ゴメン。でも、調査の対象者だから直接聞く訳にはいかないよ。それに警察の事情聴取でも事故とは無関係とされているからねぇ……」
更に、倉科のインタビューが続く。
「鈴木正恵さんと榊江利子さん、星野遼介が三人で何か音楽以外のビジネスをやっているとか聞いたことある?」
「さっきも言ったけど、私達が事務所を辞めて一年以上になるから、演奏の仕事は無かったとおもうわ。それより、何か音楽以外の仕事をしているって誰から聞いたの?」
綾乃が、低い声で「誰から」のところにアクセントを置いて、逆に問い返してきた。倉科は音楽以外で彼女達が事務所と何か関係があるとは思っていなかったので、綾乃の質問を奇異に感じた。綾乃達、四重奏の面々は夢想花音楽事務所と音楽以外に何か関係が有るに違いない、と倉科は直感した。もしたしたら、そこに一連の事件を解く鍵があるのではないだろか…?
質問を続けようとしたとき、倉科は綾乃がいつも言っていた言葉を思い出した。三人に秘密は許されない、運命共同体だと。当時は、仲良し三人娘の結束を図るためのフレーズだと思っていたが……。
額面どおりに受け取ると、綾乃は死んだ二人の私生活に関して多くを知っていたことになる。綾乃が二人の死因に漠然としてでは有るが疑問を抱いているのは何かを知っているからなのか?
それにしても電話でのインタビューは苦手だ。細かいニュアンスが伝わらない。やはり、会って話さないと駄目だ。
「会って話を聞きたいのだけど…」
電話で済ませられないの? と言う拒否回答が返ってくると予期していたが、
「明日なら大丈夫だけど……。時間と場所はお任せするわ」
ゆっくりと、言葉を選びながら話す綾乃の低い声には、人生の重大事を決定するような響きがあった。
「それじゃあ、恵比寿でいいかな? あのホテルのバーで」
倉科は綾乃と二人でいつも利用していた場所を指定した。
「まだ、あそこに通っているの? 懐かしいわね」
綾乃の声が少し高く聞こえた。機嫌が直ってきた証拠だ。昔を思い出しているのだろうか、楽しかったことだけを選別して……。
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