第22話:もうひとつのペンダント
第七章
難しい顔が、リュスカの部屋の食卓に並ぶ。
「そうか、ラッセルがジェラール兄上の下に……」
「ああ……」
ラッセルのことをすべて話したリュスカの心は、様々な感情が入り乱れてぐちゃぐちゃになっていた。
そんなリュスカを見つめながらアランとレイナルドが、今後の動きを話し合う。
「レイナルド様、いかがなさいますか?」
「そうだね、ラッセルが兄上の下についたことで父上の事件も裏舞踏会の件も、より真相に近づきにくくなってしまった。もちろん、だからと諦めるつもりはないけれど、これまでよりも綿密かつ慎重に策を練る必要があるね」
生半可なものでは簡単にラッセルに見破られてしまうだろうから、とレイナルドは懸念を口にする。
しかし、レイストリック国内で五本の指に入るだろう頭脳を有するラッセルすら欺ける策なんて、浮かぶのだろうか。それでなくてもこちらにあるカードは貴族殺しの犯人がシードであるという事実だけで、王国法廷に提出できる証拠すらない。
果たして、こんな状態で状況を覆せるのだろうか。
明日にはジェラール本人から開戦の宣布がなされるというのに。
「さて、どうしたものか……」
途方に暮れたレイナルドがめずらしく溜息を吐く。と、そこへディーノが声をかけた。
「ねぇ、レイナルド」
「なんだいディーノ」
「あの……これなんだけど……」
濃い困惑を顔に宿しながら、ディーノが机の上に金色のペンダントを置く。
「これはっ!」
ペンダントを見て、すぐさまアランが驚愕の声を上げた。だが、それも無理はない。机の上のペンダントは血に汚れ、ところどころが錆びてしまっているものの、アランが前に見せた恋人との婚約の証と同じ形のものだったからだ。
「これはコゼットのペンダントだ!」
アランが自分の首から自分のペンダントを外し、血に汚れたペンダントの隣に置く。全員で注視しながら見比べてみたが、やはり二つのペンダントが寸分違いなく同じ形をしていた。
「間違いない。これは特注の品だから、この世には二つと同じ物はない」
アランの話によるとペンダントはお互い肌身離さず持っていたが、五年前、コゼットが遺体で見つかった時、その首にペンダントはかかっていなかったという。それを不審に思い、手を尽くして探して見たがとうとう今日まで見つからなかったそうだ。
「ディーノ、一体これをどこで?」
「ラッセルのスカーフと一緒にリュスカが握ってた。だから多分、ペンダントはラッセルが持っていたんだと思う」
説明を聞いてリュスカはラッセルが裏切った夜のことを思い出すが、ペンダントのことは少しも気がつかなかった。ただ意識が落ちる間際に見た宝石のようなものは、多分これだったのだろう。
「ラッセルはコゼットの死の真相を知っているのか?」
拳を震わせるアランを見てリュスカの胸が痛んだ。ラッセルは混血であることを隠し、リュスカたちを裏切っただけでなく、コゼットのことまで隠していた。
そんな現実が、どんどんラッセルを遠い存在にしていく。
「……くそっ!」
アランが背を翻し、リュスカの部屋から出ていこうとする。
「アラン、どこ行くんだよ」
「ラッセルに直接聞いてくる」
「ラッセルにっ? で、も…‥」
五年間ずっと探し求めていた真相が目の前にあるのだ、アランの気持ちも分からないでもない。けれど、どうしてだろう、今、ラッセルに会うのが怖い。リュスカが戸惑っていると、レイナルドが隣で口を開いた。
「ラッセルに会うのは怖いよね」
「それ、は……」
「大丈夫、私も同じだから。でもね、ここでラッセルに背を向けたら私たちの関係は完全に終わってしまうと思うんだ。リュスカはそんなの嫌だよね?」
「うん……それは嫌だ……」
「私もだよ。だから最後まで諦めず、無様に足掻いてでも皆でラッセルと向き合おう」
会いに行っても話に応じて貰えないかもしれない。話し合ってももっと傷つく結果になる可能性だってある。だが、それでもラッセルとの縁が完全に切れてしまうよりはマシだと思えた。
「レイナルド……そうだな。うん、行こう、ラッセルのところに!」
覚悟を決めたリュスカが力強く頷き、立ち上がる。そして周囲の三人に視線をやると、リュスカと同じ強い眼差しが返された。
大丈夫だ、この仲間がいれば。
絶対に成功するという確信はもちろんないけれど、今のリュスカにはもう怖いものはなかった。
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