第3話(とある二人の願望)

 冒険者ギルドの事務室。

 五十人の席が配置されている広い部屋。休憩時間もそろそろ終わりに近づく。空いていた席には少ないながらもまばらに人が座り始めていた。

「モルテさーん、こっちですー」

 ついさっきまでローエの試験を担当した受付嬢が、俺に向けて手を振っている。俺はその席に向かった。

「もう原本できたのか?」

「はい、出来ましたよー。あとはモルテさんが冒険者ランク用の星を設定するだけです。びっくりしましたよ、パープルのギルドカードを作る日が来るとは夢にも思いませんでした」

 仕事が早い。

 手渡されたのは、手のひらより一回り小さい紫色をしたギルドカード。

 右下には数字、中心には名前が書かれている。

 ローエ・フェルゴメド。

 この名前が彼女の本名。

 名前の横には、棒と片方の先端に丸がくっついた図形。赤を司るワンドが描かれている。

 そして、不自然にぽっかりと空いている左下の余白の部分。ここに冒険者の位を示す星を加えて完成だ。

 中々お目にかかれない紫色のカードをまじまじと見ながら、俺はふと気になることを受付嬢に尋ねた。

「そう言えば、冒険者ランクの説明ってしたんだっけ?」

「してないですよ。この後するつもりでしたけど、どうかしましたか?」

 やばい。説明のことすっかり忘れてた。段取りを忘れてしまうほど、俺にとって永遠病という言葉は不意打ちだった。

「ごめん。色々あって勝手に帰らせちまった」

「ちょっとおー、まあいいです。明日は来るんですか?」

 受付嬢は眉毛を八の字にして困っている。

「来るよ」

「じゃあ、その時に説明します」

「明日もそんな時間ないから、後回しに出来ないか?」

 その提案にも俺は断った。

「分かりました。初回なんですから、ちゃんと説明する機会を設けますからね。ちなみに結果はどうだったんですか?」

 話の分かる人だ。流石は俺担当の受付嬢。今度、お礼にお菓子か何か甘い嗜好品をこの子に渡そうと決めた。

「三星くらいだな」

「たった三ですか? 私の見立てだと五くらいあってもおかしくないですよ」

 俺がつけた評価に受付嬢はどうやら不満らしい。だけど、まだ確定じゃない。

「あくまでも暫定だ。しばらく、冒険者ギルドにも顔を出さない。依頼が入った」

「早速、依頼を受けたんですね」

「ああ、ローエから引き受けた。その依頼の結果によってまた星の数が変わる可能性がある」

「分かりました。ちなみに、契約の話はしましたか? 専属なら形式上、多少手数料取りますよ」

 タダとはいかないか。ギルドの仕組み上、ギルド教官を紹介する手数料や、一緒に行動する場合には固定の金額を冒険者が支払う。人気がない俺でも、専属となれば多少お金の問題が発生する。お金は持っていて損はない。あれば、あるほど良い。少ないながらも冒険者ギルドからお金をもらっている建前、逆らうのは難しいだろう。いくら人気がないとはいえ俺だけ免除。流石にそうもいかない。

 だが、依頼人はまだ学生で子供。持っているお金には期待しない。それと、彼女の依頼に加え、俺のお願いでもである。幸いお金にはあまり困っていない。こんな時のため、古い物は沢山残している。

「今回は俺がお金を出すよ。古いやつ一枚分」

 勇者になれる可能性がある子だ。こんなしがらみで、そもそもの話がなくなっては困る。俺にとって利益以外で見れば、とても価値がある。お金の問題でこの話、そのものが無くなるのは避けたい。俺が全部支払ってもいい。俺は、その価値に見合う対価を支払う。

「もしかして、また貴重な物じゃないですよね?」

 受付嬢はまたという感じで、呆れた顔をしている。

「しょうがないだろ、新しいの持ってないんだから」

 不純物なしのミスリル貨。世の中にもそれなりに価値のある硬貨は存在する。銅貨、銀貨、金貨、金剛貨。最初に言ったものから順に稀少性や価値が上がっていく。そんな硬貨も今では高級品。熱心な収集家もいるほどだ。時間が経つと共に硬貨の役割は別の方向に進んでいった。

 なので、普段から使うお金には向いていない。

 硬貨の変わりとなっているのが、鋼貨コインと呼ばれるお金が世界共通に出回っている。生憎、新しいお金の方は生活しているだけで消えてしまう。払いたくても払えないというのが正直な心境である。

「それなら、いらないです。事務長に知らせておきます。そんなこと聞かなくてもモルテさんのことなら問題なく許可出ちゃうと思うので」

「それなら、ありがたい」

「モルテさん、一体何処から出てくるんですか。モルテさんがギルドに提供した品は、どれも貴重過ぎて全部大富豪や王族のもとに行くって噂を聞きました」

「現役で冒険していた時に、その場所から少しだけ、くすねてきたんだ」

 いつもの決まり文句を受付嬢に言う。その言葉を聞いて、受付嬢は俺をじっくり見つめて目線を上から下に動かした。

「その見た目で、現役の時っていったい何時の頃を言っているのか疑問を持ちます。私の知る限り百年近くここのギルド教官をしているそうですね。衰え知らずの見た目、かなり不気味ですよ」

 まあ、見た目は二十代前半の頃と変わっていないからな。年齢のことで他人と比較したところで何の意味もない。年齢が増える楽しみはある程度までは楽しかったが、今ではただの作業。数えるだけ無駄な気もしている。

「年齢についてあまり踏み込まないでもらえると助かる。もし、答えるとしても見た目の適正年齢で誤魔化して言うからな」

 年齢を言って変な気を受付嬢にされても困る。ただの友達のように気を使わず話せる数少ない友人だ。俺はこの関係をこのまま大切にしたい。

「相変わらず年齢に関しては鉄壁ですね。はいはい、分かりましたよ。そう言えば、モルテさんが戦っているところ初めて見ましたけど、あれだけ戦えるのに何で引退しちゃったんですか?」

「俺、魔獣とか殺せないよ」

 俺は自分の持つ誓約を説明した。

「知ってますよ。それを差し引いても今日の凄かったですよ。魔術相手に魔術をほぼ使わず対処してましたけど、あんなの始めて見ました。あれだけ戦えるなら冒険とか探検くらいはできますよね?」

 出来もするが、俺には冒険をするために大事なものが欠けている。

「冒険する目的がない。この世界のほぼすべての土地に足を踏み入れこの目で見た。今更、この足で新しく冒険をしようなんて思いはしないさ。そう言えば、俺の引退する前のギルドカードを見たことある?」

「いいえ。見たことないです。それもかなり古いらしいですね」

「見たことないんだっけ、見る?」

「見ます!」

 受付嬢から元気な声が返ってくる。その何気ない反応が俺には懐かしく新鮮にも感じる。

 俺はいつも入れているポケットからギルドカードを取り出して、受付嬢に手渡した。自分から見せることはないが、たまに人に聞かれた時ように前のギルドカードを携帯している。今は、職員のギルドカードを使っているためほとんど出番はない。

「えーっと、一のホワイトなんですか?」

「うん、魔術は元から才能なし。裏面が詳細だ」

 受付嬢は表面にある星の数を指で念入りに確認している。

「にわかに信じがたいですけど、ちゃんと十星ある。裏面もびっしり書いてありますね。これって、全部冒険者ギルドが定める禁止区域ですか?」

「かつてのな。偽造じゃないぞ。冒険者ギルドがちゃんと地図を残していれば、確認が取れる。そう言った類のものは資料室にあるはずだ」

 冒険者ギルドのごく一部しか行くことの許されない、特別な区域。それが、禁止区域。生死の保証はもちろん、冒険者ギルドが定めた最高の冒険者である十星の冒険者が簡単に命を落とす。

 人間には厳しく劣悪な環境。それに加えて、人以外にも魔術という仕組みを使う生物が存在し、言語も話す。

『見た目は違えど、その場所には文明が築かれている』

 禁止区域と定められる前に、命がけの冒険をした冒険者が残した日記が存在する。日記の内容にはそのように書かれており、魔獣によって文明が築かれた場所を禁止区域と定めた。そんな禁止区域に住む魔獣たちは高度な知性があり、話をすることができる。対話を望む種族もいた。しかし、対話を無視すれば恐ろしい未来が待ち受けている。たちまち縄張り意識が強くなり攻撃的な種族に様変わりする。そんな畏怖と危険性を示すため、それらの種族を魔人と呼ぶようになった。

「凄いですね。私も知っている禁止区域の名前も書いてあります。空につながる塔は以前は、七本あったんですね」

「ああ、今は一つだけだ。最近は空に行く方法を確保するのも一苦労するよな」

 人間の欲望によって、いくつかの禁止区域は踏破、もといい破滅した。冒険者ギルドはその破滅に加担している。冒険者ギルドや国が人を集めて、武力で滅ぼした。その中には、この世界を周るために必要な道が含まれていた。空につながる塔を四本破壊したり、海につながる唯一の道を整備していた種族も滅ぼしている。

 もちろん俺は参加していない。冒険者ギルドが禁止区域の破滅を行なっていた真実は随分後に知ることになる。俺は実際に現地に行って知った。その光景を見て言葉を失ったのは最近のことにも感じる。

 踏破したことない場所は唯一、海だけ。俺の実力では物理的に無理なことが発覚し、挑戦を断念している。海に関しては以前組んでいた相棒が海を踏破している。いつかは海を探索してみるのも良いかもしれない。だけど、道が閉ざされた現状だと、かなり難しいだろう。さらに一つ付け加えるとすれば、やはり今更準備して冒険する気は起きてこない。

「あはは、私達も同罪ですね」

「これもしょうがない。時代という大きな歪みを制御するのは無理なことだ。一人が立ち上がったところでたかがしれている。それこそ、世界を味方にしなければ、防ぐことは難しいだろう。俺からしたら、世界を知るために冒険しているというのに、世界を狭くしているのは同じ人間だと言うのは皮肉だけどな」

「隠したい秘密でもあるんですかね?」

「無いよりはマシだな」

 あったような言い草で話す。

「え、あったんですか?」

「さあな、秘密だ」

 かく言う俺も世界を狭くしている一人なのかもしれない。

「ずるいですよ」

 少し不機嫌な受付嬢の機嫌直しをする。

「ずるくない、じゃあ俺の言葉を信じるか?」

「信じます」

 そう言って立ち上がり顔を近づけてきた。受付嬢の本気度合いを感じ、俺も自然と言葉に気合が入る。

「勇者と魔王は存在する!」

 俺は高らかに決まり文句を言う。静かな事務室に俺の声が虚しくこだまする。

「はあー。またそれですよー。いい加減聞き飽きましたー」

 受付嬢は、ため息を吐き、あからさまにがっかりした態度を取って自席に戻った。

「そろそろ私も休憩時間を取りたいんですけど、何時までいるつもりですか?」

 言い方に少し棘を感じる。これもまあ仕方ない。

「今日は長く邪魔したな、じゃあな」

「はい、またいつもの時間でお待ちしてますー」

 そうして、俺は冒険者ギルドを後にした。


 ***

 

 晴天の聖国サントクリス。

 モルテは住宅地のような場所が集まる路地を歩いていた。

 地面はレンガを敷き詰めた舗装されている道路、両端には白い壁にいくつかの窓と入り口を備えた二階建ての建物が列のように並んでいる。多くの窓からは洗濯物と思わしき、布が辺り一面に干されている。そして、道路を突き出すように木製の標識がずらりと並んでいた。

 モルテは、しばらくその住宅街のような道を歩き、ある場所に向かって迷うことなく進んだ。

 やがて景色に映り込むのは、『モルテ』と書かれた標識。モルテはポケットから鍵を取り出して、自宅の鍵穴に差し込んだ。モルテはドアを無造作に開けて帰宅する。モルテは戸締りをして、玄関脇に置いてある上着掛けにギルドの制服を綺麗にかけた。

「ただいま」

 日の光が少し入った薄暗い部屋に、この家に住むもう一人の住民が挨拶を返す。

「おかえりなさい」

 モルテの帰りに出迎えたのは、黒い修道服を着せられた少女の姿。背丈はモルテの身長よりも低く、大きな瞳は赤く透き通っていた。長いまつげと細く切りそろえられた眉毛。雪のような白い髪は背中まである。

 名はプリエ。モルテの冒険者生活を支える相棒だ。

 モルテは部屋の通路を通り過ぎ、居間にあるソファーにふんぞり返るように座った。質素な部屋の中には、雑貨はほとんど見当たらない。目に入る物で目立つものは机、二つの椅子、暖炉、そして一人用のソファーが二つ。

「今日は遅かったね」

 プリエは水が入ったコップを用意して、モルテに渡した。

「プリエ、直接依頼が来た。明日早急に一緒に出るぞ」

「直接なんて珍しいね、ギルドの依頼?」

「違う。もう一つの方だ」

「そっか。私達二人で行くの?」

 モルテが具体的な説明をせずともそれだけでプリエには伝わった。

「今回は特殊で依頼人もついて来る」

 モルテは水が入ったコップに口をつけて、一気に中身を飲み干す。

「それじゃあ、見つかったんだね」

 空になったコップをモルテが前に差し出しすと、プリエは普通に受け取った。

「ああ。勇者になれる子が見つかった。女の子の名前はローエ。紫色だった」

「今回は運が良いね」

「曲がりなりにも勇者が集結する始まりの国だからな。運じゃないと言いたいところだが、運が良かった」

「あなたには珍しくね」

 聖子きサントクリス。古くから続く、歴史のある大国である。しかし、国としての影響力は時代が進むとともに衰退していった。ある時代では最も栄光と名誉を持った国だった。昔の言い伝えによるとこの国は、勇者が集結する始まりの国。魔王を討つために、各大陸、各国、各地域の強者たちが聖国に集まり、討伐隊を派遣して魔王が住む大陸や場所に冒険へ旅立つ。そんな聖国で仲間を集めて冒険することは、冒険者にとって名誉であり、遠い憧れだった。

 今、現在『勇者と魔王』を目的として冒険する冒険者は極端に減り、名誉や憧れはこの国に存在しない。勇者と魔王を目指す冒険が流行から反れ、かつてのような栄光と威厳はこの国から消えてしまった。訪れる冒険者は減り、有望な冒険者たちは自立する道を歩み始めている。

 聖国に残ったのは古くからのしきたりと仕組み。冒険者が減ったとはいえ、勇者を目指す冒険者が集まっていた場所であり国でもある。それは今もなお色あせない。

 情報の集まる経路。長年に培われてきた冒険の知識。そして、厳しい環境を生き乗るための手段。長きに渡る時間と記録は、新たなる冒険の基盤として、世界中で重宝される。その基盤を元に作られたのが冒険者ギルドと呼ばれる組織だ。地域を越え、各国に広がり世界中へ存在するまでに成長した。その中でも聖国の冒険者ギルドは、規模の大きさ、取り扱う依頼の多さはどれも世界最大級である。

 世界最大級であれば集まる情報も他の国のギルドとは比べ物にならない。早く正確な情報を集めるのには最適な場所だ。

 そんな場所にいるモルテはプリエよりも多くの情報を取り扱う。普段ならモルテからプリエに情報を伝えることが多いのだが、今回は普段と違った。

「普段なら冒険者ギルドを通じてのはずよね。今回はどうして個人で依頼なんて状況になっているの? それと肝心の場所は?」

「俺も分からない。場所については、聞き忘れた」

 モルテは悪びれることなく両方の手のひらを上に向けて、分からなそうな振る舞いをする。

「はあ、呆れた」

 プリエはモルテに深いため息をつく。

「しょうがないだろう。不意打ちだったんだ。俺も直接来るなんて思わなくてさ」

 モルテが、自分の失敗をプリエに慌てながら言い訳をする。この場において、モルテよりもプリエの方が立場は上になった。

「まあ、なったことにあれこれ言ってもしょうがないわね。それで、直接依頼が来たからには何か特別な理由があるんでしょうね?」

「それが無かった。あったのは依頼人の我が儘だけ」

「我が儘?」

「理由は聞いてないからあくまで予想だ。あの子は俺に似ている。俺と同じように、誰の手も借りずこの件を解決するつもりらしい」

「随分、周りくどいことをするわね。資格を持つ者にしか解決できないと言うのに」

 プリエは直接依頼すると言うことに不満を持った。冒険者ギルドに一つでも依頼と言う形で情報を提示されれば、ことはもっと迅速に進んだであろう。わざわざ依頼人の方からモルテに合うのではなく、モルテの方から依頼人の元へ出向けば、時間や労力を節約をできたはずだ。そんな無駄をプリエは少しも理解できなかった。

 しかし、モルテはその依頼人の考えに一定の理解を持つ。

「それが人間だ。合理を突き詰めるられるほど、無駄なこと全てを削ぎ落とせる人間はいない。そんな人間がいれば、そいつは人の皮を被った怪物か何かだろうよ」

「そんなこと、あなたに一番言われたくないわよ」

 どうやらプリエの機嫌を損ねたようだ。その言葉を聞いてプリエは少しムッとした。

「話が脱線したな。今は永遠に集中しよう。時間があまり残っていない状況は変わらない。依頼人から既に一週間以上を経過したと言われた。だが、他の冒険者ギルドの依頼には上がっていない。状況から察するに何とか『魔王』を隠し通せているのだろう」

 『魔王』は普通の人には殺せない。勇者でなければ殺すことは出来ない。

 これは絶対の真理。

 一般の人には抗うことはおろか、『魔王』が過ぎ去る時を待つのも困難である。もし、個人やその場で対応出来たのであれば、それは勇者の誕生を意味する。

 そうなれば、二人の目的は魔王の情報収集をすぐさま止めて、誕生した勇者の情報を集めることになるだろう。二人にとって勇者と魔王は最重要情報。

 本当に『魔王』が生まれてしまえば、人間社会に甚大な被害を生んでしまう。

 『魔王』がいくら世間に秘匿されいるからとは言え、『魔王』が作り出す魔獣の軍勢は人間世界に大きな影響を及ぼす。

 この世に生まれてくる『魔王』の誕生に、魔獣は雄叫びを上げ、おびただしい数になって祝福をする。周辺の魔獣は『魔王』に群がり、地面から自然の摂理を無視して新たな魔獣が湧き出てくる。

 急速に肥大化した『魔王』の軍勢は本能に従って、人々が住む場所を襲い、人間を食べて成長する。

 そんな恐ろしい状況になってしまえば、街や国は即座に察知する。大きな組織の中には、必ず冒険者ギルドの存在があるこの世界。冒険者ギルドが知れば問題の早期解決のため、全世界に緊急の魔獣討伐依頼が発信されるであろう。

 現状、モルテが知る限り、そういう類の依頼は冒険者ギルドに回って来ていない。それは、『魔王』という存在が生まれていない微かな可能性だった。

 今の二人にとってそれは救いではないが、この状況自体はその場しのぎの役目くらいにはなっていた。

「そう。じゃあ、急がないと。被害が広がる前に、そして世間が知る前に」

「ああ。さっさと見つけよう。それと、プリエ。永遠が目の前に出現しても、少しは我慢しろよ。何としても彼女を勇者にしたい」

 モルテは終始、取り乱さず淡々と話を進めた。

 それを見たプリエも怒りを落ち着かせて、冷静になる。

「そう、分かったわ。少しは我慢する。その依頼人を勇者を目指してもらうのは同意するけど、私たちに不要な重荷になるのはお断りよ。そこら辺ちゃんと把握してよね。私にもちゃんと自我はある。私はあなたがいないと使い物にならないけど、あなたも私がいないと永遠を殺せないことを忘れないでよ」

「ああ、分かっている。その時はちゃんとお前を使う。自分勝手に殺そうとするなよ」 

「じゃあ後は、あなたに任せる。次こそは、に生き残れるといいわね」

 不吉な言葉で締めくくったプリエは台所に戻って、コップを洗い始めた。

 ソファーに深く座るモルテは深呼吸をして、瞳を閉じてひと眠りする。


 二人は永遠に固執している。永遠は二人にとって特別なものだ。

 二人が背負う使命に由来する。


 それは、永遠をこの世から滅ぼすこと。

 目的はそれぞれにあるかもしれない。しかし、永遠を滅ぼすことは二人の願いでもある。


 そんな自分達の望みを果たすため二人は静かに時を過ごした。

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