第55話 会社が上司の娘と僕の関係を誤解しているんだが-1

 遥(はるか)さんのヤードを出る前に、仁(じん)さんが軽く僕の打撲を見てくれて、傷の手当てをしてくれた。そして


「ちゃんと怜(とき)さんに連絡しろよ」


と僕に念を押した。


 僕はジーナをつれて家に戻ると、意を決して怜に連絡を入れた。あのビジネスリング経由で、短いメッセージを送ったわけだ。

 返事はすぐに来た。休日の朝、僕たちは最初に出会ったあのソテツのあたりで落ち合うことになった。


 翌日、会社に行くと予想外のことが起こっていた。僕がまず部署に入ると何人かがこちらを見た。最初、僕が顔にけがをしているからだと思ったけど、どうやらそうじゃないのはこちらに向かってくる部長の姿を見てわかった。

 僕が席につくなり部長のほうから僕の所へ来て、


「おめでとう。コアの件だけどねえ……通りそうだよ」


と文字通り猫なで声で言った。僕が状況を理解できないでいると、部長はこう付け足した。


「ずいぶん熱心に資料集めに取り組んでたそうじゃないか……。『センター』部署から直接この件に関して興味があると来てね……」


 それをきいて、とつぜん僕の頭に珠々(すず)さんの顔が浮かんだ。


「こういうのは言ってくれなくちゃ困るよ、山風さん。『ドームの夢』どころか、こういうことは会社全体のいろんなことにかかわるんだから」


 僕の顔があまりにもポカンとしていたのか、部長はなかば怒っているように見えた。でもそれを僕に悟らせまいと、部長は自分のあごを意味もなく懸命にマッサージしながら言った。


「しらばっくれちゃ困るよほんとに……専務のお嬢さんなんだからさ」


 それを聞いたとたん、僕の背中を汗が滝のように伝った。


「誰がそんな話をしたんですか」


「いや、だって内々にそういう話がきたあとで、『センター』付きのお嬢さんが直接きみを訪ねてきたわけだから、ね、そこは推して知るべしでしょうが」


 部長の声には不機嫌なトーンが含まれていたけれど、また表立って僕にぶつける勇気もないらしかった。僕があわてて


「いや、ちょっと待ってください誤解です」


と言っても、部長は


「わかった、わかったからいろいろ早めに教えてくれると助かるなァ」


と言って自分の席に帰っていった。

 それと同時に立ち聞きしていた同僚たちもそそくさと離れて行ったので、僕は急いで珠々(すず)さんの連絡先をリングから取り出して連絡を取った。


「すみません、冠城(かぶらぎ)珠々さんですか……」


 通話口の珠々さんは少し驚いたようだったけど、すぐに落ち着いた声で


「昨日、そちらの部署にお邪魔しましたけれど、体調は大丈夫ですか?」


と僕を気遣ってくれた。僕は気まずいと同時に申し訳なく思って、


「いやそれが……たぶん僕の不手際でとんでもない誤解を生んでしまいまして……。今日どこかでお話しできませんか?」


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