第174話 俺とフリーゼの激闘

「フライさん。私の力、受け取ってください」


「でも、フリーゼだって」


 そう、フリーゼが相対しているのはザコ敵ではない。この国でも有数の力を持つ女、スキァーヴィだ。おまけにどんな力を持っているのか全く分からない。


 加護の力を使うということは、それだけフリーゼにとって負担になってしまうこと。

 強い相手と戦いながらやっていいことでなはい。


「危険だ。フリーゼは目の前の相手に専念して──」


 例え俺がダメでもフリーゼが無事なら何とかなる。

 アドナに負けるのは癪だが、そんな感情的な事を言っている場合ではない。生き残ることを第一に考えなきゃいけない。


 だからフリーゼが無事でいるため、万全の状態で戦わせたい。


「俺は、大丈夫だから──」


 しかし、フリーゼは俺を向いてほほ笑む。



「いつも私はフライさんに支えられてきました。しかし、いつも支えられてばかりというのは、辛いです。今回くらいは、私がフライさんを支えたい──」


 強気な目線での言葉。何を言っても撤回することはないだろうというのが、俺にはわかる。


 俺はコクリとうなづいて、言葉を返した。


「わかった。けれど、何かあったら、自分の身を守ることを最優先にして……」


「──はい」


 そして俺はリングに上がり、アドナをじっと見つめる。


「分かった。勝負の方、受けてやるよ。来い! アドナ」


 そして俺とアドナの決戦が始まる。






 対するフリーゼ。



 フリーゼとスキァーヴィが互いににらみ合う。


「スキァーヴィさん。武器を捨てて投降するなら、危害は加えません」


「冗談! いくらあなただって、私は負けるつもりなないわ」


 スキァーヴィは腕を組みながら自信満々に言い放つ。

 いくらフリーゼがフライに力を供給しているとはいえ、精霊である彼女の力は人間とは比べ物にならないものがある。


 いくらスキァーヴィが強いからって、簡単に覆せるものではない。


 フリーゼは当然理解している。


(あの自信。やはり使用していますね──)


「死なない程度にニクトリスを注入したところで、私との差は埋まりませんよ」


 そう、ニクトリスだ。

 スキァーヴィはニヤリと微笑んだまま言葉を返す。


「差があるかどうかは、戦ってみればわかるわ」


 自分が勝つとわかっている、自信に満ちた表情。

 フリーゼは理解した。


(何か策がありますね)


 実力差をひっくり返す策略。何も考えずに突っ込むのは危険。

 しかし、だからといって何もしなければスキァーヴィを倒せない。


(それなら、罠だとわかっていても、相手の懐に飛び込んでいきます!)


 そしてフリーゼは左手を上げ、自身の剣を召喚。


 星脈聖剣<ステラブレード>


「いいじゃない。さあ、この私の大活躍ショーの始まりよ!」


 ウォォォォォォォォォォォォォォォ──!


 観客たちは、大きく大歓声を上げる。

 そして、二人は一気に距離を詰める。



 激闘の、始まりだった。







 一方、俺とアドナ。



「フライ、フライ……」


 表情を失い、大きく見開き、俺を見る。


「御託はいい。さあ、戦ってどっちが強いか戦おう。アドナ」


 俺は剣をアドナに向け、ただそういった。

 アドナは、俺のことを何よりも恨んでいる。なんて言ったって、その心が揺らぐことはないだろう。


 だから一対一で戦ってケリをつける。ただそれだけ。

 アドナは、俺をじっと見た後、剣を振りかざし──。


「さあ、今日がお前の命日だぁぁ。フライィィィィィィィィィィィィィィ────!」


 そう叫んで一目散に俺の方へと向かっていく。


 剣を何度も何度もぶん回し、俺に攻めかかる。


 俺は、攻撃を受けたがその瞬間に理解した。

 まるで獣のような、本能、力任せの攻撃。俺はその攻撃をいなし、受け流して対応。


 力加減から理解できる。真正面からの力のぶつかり合いでは、確実に勝てない──。



「この逃げ虫が! この臆病者がぁぁ! やる気があるのかぁぁぁ!」


 アドナは俺の行動にイライラしているせいか、力任せに攻撃し、俺を挑発する。

 しかし、そんな安い挑発に俺は動じない。


 戦いに思いを乗せて全力を出すことと、ただ感情任せに突っ込むことは違う。


 それでも、感情に任せたアドナの攻撃に、俺は苦戦を続ける。


 むやみに前に出ることはせず、リングの中で少しずつ後退しながら攻撃に対応していく。

 本当に単調になっている。俺への深い怒りが、アドナの冷静さを完全に失わせている。


 ここは我慢だ。そんな精神状態で、まともに戦えるはずがない。モーションもいつもより大ぶりで、力任せになっているのが一目瞭然だ。


 そしてアドナが回転を付け一気に薙ぎ払ってきた攻撃。

 それを低く屈んで攻撃をかわす。


 ここだ!


 俺の目の前には攻撃を空振りさせ、前のめりになったアドナの無防備な胴体。

 ようやくできたチャンス。俺は一気に踏み込む。



 そして、一気に剣をアドナに向かって突き刺した。


 これでアドナに致命傷──そう思った矢先。

 信じられない姿に、俺は唖然とする。


 そこにあるのは自らの歯で俺の剣を受け止めるアドナの姿。

 何とアドナは、俺の剣に対して嚙みついてとらえたのだ。


「しまった!」


 慌てて剣を引き戻そうとするも、予想もしなかった行動に反応がわずかに遅れてしまう。


「あふぇうなふぉ──フファイッッッッッッ」


 アドナは剣にかみつきながら叫ぶ。

 そして俺が剣を引くよりも一歩早く、アドナが俺の剣の柄を掴み──。



 スッと自分の元へと引き寄せた。

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