第172話 唯一王 闇の闘技場へ、そしてアドナ

「わかりました」


 そして兵士の人が扉を開ける。

 扉の先、そこから聞こえたのはあふれんばかりの大声援だった。


「防音魔法が扉に施されています。周囲に秘密がばれないように……」


「なるほどね」



 何百人もの人が収容されている高い天井の大きな部屋。

 周囲に顔を知られないための配慮なのだろうか、照明が全体的に薄暗い。周囲には大勢の観客。席は満員に埋め尽くされている。


 中央にはそこそこの広さがあるリング。それを取り囲むように観客たちがいて、彼らはみな木のベンチから立ち上がり、リングに向かって叫んでいた。


「オラオラオラァァァ─よこ。あんな雑魚野郎やっちまぇぇぇ」


「おいクソ野郎。逃げるんじゃねぇぇ。殺しあえ!!」


 大勢の観客の怒号が飛び交う中、リングでは二人の人物が戦っていた。

 ここからは遠くて誰かはよくわからないが。


「あれが、闘技場?」



「魔法が使える奴隷同士を戦わせて、賭けているんです。ギルドを追放された、冒険者たちは大金を得ると闇商人にそそのかされ、ああして戦わされているるんです。貴族たちはそれを楽しそうに観賞し、どちらが勝つかギャンブルをします」


「──悪趣味ですね。なんでこんなこと、するのでしょうか」


 フリーゼの言う通りだ。いくら追放された冒険者とはいえ、やっていいことじゃない。

 いくら大金が得られるといっても、大けがをしたり、下手をしたら死ぬ可能性だってある。

 それを金を払ってわざわざ見に行く理由。以前聞いた事がある。



「優越感に浸るためだと思う」


「どういうことですか?」


「自覚できるんだ。リングの上では貴族視点でははした金でしかない掛け金を手に入れるため、居場所がなくなったやつらが命懸けで戦っている。一方で自分たちは一切傷つかない安全なところでそれを見て楽しんでいる。自分たちはこいつらと違う選ばれた人物だと心の底から感じられる。この賭け事は、それを確認させるための物なんだと思う」


「……分かりました」


 フリーゼは、複雑な表情でコクリとうなづいた。


 全く、本当に趣味が悪い。とりあえず、どうしようか考えよう。

 俺はリングの様子をよく見よう接近。


 そしてリングの中で戦っている人物がわかった。


 一人の人物に視線を奪われる。


「アドナ──」


「確かに、アドナさんですね──」


 長身でツンツン頭。 強力な電気を纏った雷剣「ボルト=アスタロト」をもって戦っている。

 そう。以前クラリアのギルドで賭け勝負をし、敗北。追放になったアドナ。



 以前と比べて髪はボサボサ、やさぐれている雰囲気にやつれた様な顔つき。

 奴隷の首輪をつけている。


 外見は大分変ってしまったが、面影や戦っているそぶりから分かった。


 もう一人はスキンヘッドで筋肉質な男だ。

 互いにリングの中で殴り合っている。

 押しているのは、アドナの方だ。


 スキンヘッドは最初こそ善戦していたが、殴り合っていくうちにアドナがどんどん押してきた。


 アドナ、叫び声を上げながら力任せにスキンヘッドを何度も殴っていく。


 やがてスキンヘッドはガードしきれなくなり、吹っ飛ばされる。


 アドナはスキンヘッドを無理やり起こすと何度も彼を殴りつけた。



 そして気を失い、倒れこんだスキンヘッドを審判が確認。


「勝者、アドナ」


 ウォォォォォォォォォォォォォォォォォ──。


 大盛り上がりになるこの場。



 以前、ユニコーン相手では敗北したものの、そこら辺の雑魚相手なら圧勝するくらいの実力はあった。

 仮にもSランクパーティーのリーダーを務めていた存在。

 けっして雑魚ではない。


 勝敗は、目に見えていた。


 アドナは、リングの策越しに観客に向かって叫ぶ。


「勝ったぞ。見たか、俺様の強さをォォォォォォォォォォォォッッッッッッ!!」



 自らの強さを誇示するかのように強く叫ぶ。

 観客は、大歓声を上げ、この場が大きく盛り上がる。


「やるじゃねぇか若造。賭けた甲斐があったぜ」


「次もあんたに賭けさせてもらうぜぇぇ」


 そして、アドナは控え室へと戻っていった。

 大興奮に包まれるこの場。ひそひそと耳打ちしてスワニーゼに話しかける。


「スワニーゼさん。どうしますか?」


「とりあえず、彼らの後を追って、証拠をつかみましょう」


「そうですね」


 確かに。いくら違法行為を掴んでいても、その証拠がなければ悪事を暴くことができない。

 まずは、アドナを追って──。


 俺がそう言おうとした時、事態は動いた。





 パッ──。


 薄暗い闘技場の中、眩しいくらいの光が現れた。

 その光が俺たちを狙い撃ちしていたかのように俺たちを照らす。まるでスポットライトのように──。


「な、なんだ?」


 突然の事態に俺達は周囲を見回す。


「引っかかったわね。このネズミさん!」


 闘技場の奥から聞いた事があるねっとりとした女の人の声。

 その方向に視線を向けると、階段の上に一人の女性が立っていた。


「素晴らしいわ。本当にあなた達は私が望んでいた通りに、動いてくれたんだもの」


「ど、どうして……」


 スワニーゼが体を震わせ、つぶやく。


 そこにいるのは赤いさらさらとしたロングヘアーの髪に、長身でグラマーな体系。そしてやや釣り目な瞳にニヤリと何かを企んでいそうな顔つき。


 軍服を着た女性。その威圧感、そう──。


 スキァーヴィだ。


「バレてるに決まてるじゃない! フライ。フリーゼ!」


 しまった。バレていたのか──。

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