第145話 フリーゼの決意・そしてハリーセルの戦い

 フリーゼ。ゼリエル達を追って遺跡の奥へ。


 真っ暗な階段を駆け足気味に下り、しばらくすると最深部の部屋へ。


 今までも遺跡の様に、光源がないのに上の壁が光っていて、とても明るい。

 様々な精霊や天使を表わしたような絵が壁に直接描かれていて、神秘的な雰囲気をしていた。


 そして、部屋の奥。その奥にある道を遮るようにその人物はいた。


「フリーゼ。私は、絶対にあなたを許さない。その外見がとどめなくなるくらい、ぐちゃぐちゃに引き裂いてやる」


「クリム──」


 フリーゼは、冷静に言葉を返した。

 クリムが、血眼になって叫ぶ。同じ精霊だったものに向ける目ではない。

 相手を殺すと言わんばかりの、怒りを込めた目つき。


 フリーゼの中にも、クリムと戦いたくないという想いはある。

 同じ精霊同士。


 彼女は幻術を受け、敵を誤認し戦わされている存在。

 しかし、本当に彼女の身を案ずるのなら、本当に何をすべきか、フリーゼは理解している。

 だからこそ、迷いなんてなかった。


 ゆっくりと、クリムに向かって剣を構える。真剣な表情で彼女をじっと見つめた。


 今は剣を交えようとも、本当は


「クリム。本当のあなたを、必ず取り戻して見せます」


「フリーゼ。お前だけは、決して許さない!」


 血眼になり、怒りに震えた表情で叫ぶ──。


 本来は、仲間同士で不毛な戦い。しかし、この街を救うため、クリムのため、戦わないわけにはいかない。


 二人の精霊同士の戦いが、今始まった。













 


 一方ハリーセル。


 ウボ=サトゥラが氷水に等しい極寒の川に逃げ込み、追っ手から逃げようとした。


 ハリーセルはその後を追い、川の中へ。



 ハリーセルは水中でエラ呼吸をしながら、気配を頼りにウボ=サトゥラのいる方向へ向かってく。


 彼女は、俺たちとは違い、身体を揺らして水中を進むことができる。まるで魚のように。

 そして数分ほど進んでいくと、その姿はあった。


「ウボ=サトゥラ。覚悟するフィッシュ!」


 紺色をした、闇の力を感じる魔物、ウボ=サトゥラの姿がそこにあった。


「フフフ──、水中で息ができるから追ってきたという所か……。それが貴様の命取りになるとも知らずにな」


 ウボ=サトゥラはにやりと笑みを浮かべ、言い放つ。こいつは本来水に住む魔物。

 ここはウボ=サトゥラの得意フィールド。

 なのでハリーセルのことを自分の策に引っかかった愚か者としか考えていない。


「倒れるのは、そっちフィッシュ!!」


 ハリーセルは、強気な表情で返す。ハリーセルも、本来は水に関する力の精霊。

 水中は彼女の得意場所。


 互いに自信をもって戦いに挑む。


「じゃあ、行かせてもらうフィッシュ」


 そして二人の戦いが始まった。

 まず攻撃を仕掛けたのはウボ=サトゥラだ。


「じゃあ、行かせてもらうぜぇぇ。小娘よぉ」


 ウボ=サトゥラの両手に鉤爪が生えるように出現。鋭利で、一本一本が指位のサイズ。

 そんな凶器ともいえる鉤爪を使い、目にも見えない速さで襲い掛かってくる。



 ウボ=サトゥラの連続攻撃を、ハリーセルは何とかかわしていく。


「こいつ、早いフィッシュ」


「どうだ。俺様の水中での実力は!! お前のような小娘では手も足も出るまい。もっとも、この温度じゃすぐに動けなくなっちなうだろうがなァ」


 そう、水中と陸ではどうしても戦い方が違う。今までにもそれを理解せず水中へ飛び込んできた冒険者たちをウボ=サトゥラは幾度も狩ってきたのだ。


「馬鹿め、ちょっと水中で動けるからって──。後悔させてやるよ!!」


 そしてウボ=サトゥラは一気に勝負を決めるため、連続攻撃に出る。

 ハリーセロも負けじと攻撃をかわし、反撃に水の砲弾を打つが──。


「ハハハ──、何だそのお遊びは。かすり傷も与えられないぞ──」


「くっ、全く当たらないフィッシュ」


 ハリーセルは唖然としてしまう。何とか攻撃を受けて反撃に転じようと水の砲弾を売っても、ウボ=サトゥラは器用に水中で動きを変えて攻撃をかわしていってしまうのだ。


 その動きはほとんど直角に近い。おまけにトップスピードから急停止なんてことも出来る。これではどれだけスキを作っても攻撃をかわされてしまう。


 ハリーセルの表情に、焦りの色が生まれる。


 それを見たウボ=サトゥラは、ますます攻勢に出る。


「さっきまでの威勢はどうした小娘ェェェ──」


 そしてハリーセルはますます自分のペースを乱し、とうとう腕に傷を負ってしまう。


「どうだ!! 次は、貴様の心臓を打ち抜いてやる」


 そして傷を負ったハリーセル。傷を負った右腕を抑えながら、ようやく我に返る。


「そうだったフィッシュ。落ち着くフィッシュ」



 ハリーセルは、俺たちと行動をするようになってから仲間たちの役に立てていなかったと思っていた。

 そして、ようやくの自分の得意とする水中で戦えた。


 それなのに、少し奇襲を食らっただけでペースを乱し、押されているという事実。

 思わず、言葉を漏らす。


「私だって、役に立ちたいフィッシュ。勝ちたいフィッシュ」


 いま改めてその気持ちを口にする。自分の中にある本心。それを改めて知って、どこかホッとした。


 ようやく落ち着きを取り戻したハリーセル。一回深呼吸をして再度ウボ=サトゥラを見つめる。

 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る