第115話 唯一王 要人たちの催しへ

 ステファヌアのところにたどり着いた俺たち。彼女は胸に手を当てながらにっこりと上品な笑みを浮かべ、話しかけてきた。


「フライさん達ですよね。長い時間の警護、馬車もなしに歩きで、本当にお疲れ様です。ありがとうございました」


「いえいえ。特に問題も起こらなかったですし、この位大丈夫です」


 すると、メイルが話に入ってくる。


「今日はお疲れ様でした。この後ですが、何か予定はございますか?」


「いいえ。ずっと歩いて来たので、これから宿に戻って、ゆっくり体を休めようと考えています」


「そうですか。これから、客人たちの間で催しがあるんです。おいしい料理などもあるので、ぜひ行ってみませんか?」


 その言葉、即答で返事。




 熾天使や、何かきな臭い情報などを得られるかもしれない。

 行かない理由なんてなかった。


「ありがとうございます。ぜひ行かせてください!」


 メイルに促され、俺達はそのパーティーに参加することを決める。


 そして俺たちはその場所を聞いた後、近くにある服屋でパーティー用の衣装を購入。

 俺とレシアは黒いスーツ。フリーゼやレディナ、ハリーセルは黒いドレスタキシードだ。


 少々値段が張ってしまったが、こういう事のためにもしもの時の蓄えはあるし、何より熾天使やスパルティクス団のことを聞けるかもしれない。


 宿にいてもやることなんてないし、行かない理由なんてなかった。



 そして宿からしばらく歩く。

 ざっざっと雪道を歩く足音は、とても新鮮に感じる。


 日が暮れた夜。巡礼祭中ということで、街は明るく、人々はどこか盛り上がりを見せている。街を照らす明かりが人々を包み、人々は、明るい表情で談笑などをしながら街を歩く。


 そして繁華街をしばらく歩くと、大きめなホールへとたどり着く。本来は、国王や重要な貴族たちが自分たちの権力や偉大さを示すために使われるパーティー会場。


 おしゃれな飾りなどが付いた、大きいホール。


 入口にいる警備の兵士に、入場の証明書を渡すと、すぐに中に入れてくれた。


 赤絨毯の道を歩きながら俺は考える。


 基本的に教皇や祭司などの高い位にいる人たちは、このパーティーには参加しない。

 教義で決まっている事ではなく、貴族などの要人たちが独自に行う催しだ。

 恐らくだが、せっかく要人たちが一斉に集まった。なのでもうけ話や有力な情報を得ようとしているのだろう。


 おまけに貴族たちの集まりとなっては、極秘の情報を聞ける可能性は十分にある。



 そして、大きな両開きの扉を押して開けると、パーティー会場だった。



 中は清潔さが行き届いている、白を基調とした落ち着いた内装。


 王族のいた場所の様な煌びやかさはないが、シックな配色をして、心が落ち着くような雰囲気を醸し出している。


 そしてスーツを着ている従業員の人が料理の準備をしていた。


 クロステーブルがある丸い机。そこに俺達はワイングラスを片手にいる。


 高級そうなワインが俺たちにも継がれる。もちろん、フリーゼたちにも。

 一応、注意はしておこう。


「フリーゼ。わかると思うけど、ワインもお酒だからな。いい味だからって飲み過ぎると──」


「そ、それは大丈夫です。だから、そのことはもう話さないでください。恥ずかしいので──」


 フリーゼは恥ずかしそうに顔を赤くして言葉を返す。そう、フリーゼは以前酒を飲んだ時、何も考えずに飲み過ぎてしまった。そして酔って笑い上戸になった挙句に次の日二日酔いで大リバーズしてしまったことだ。

 そしてタキシードを着た人の乾杯の挨拶を皮切りに、パーティーが始まる。


 乾杯をして一口飲むと、レディナが微笑を浮かべて話しかける。



「そうよ。あまりほじくり返すのはよくないわ。今日は、楽しみましょう」


「うん、レディナ。せっかくのパーティーなんだし、楽しもう」


「そうだね、フライ」



 レシアがステーキを食べながら言葉を返すと、どこかからか、皿がガッシャンと割れる音が聞こえだす。


 何があったのか気になり俺たちがその方向を振り向くと──。


「も、申し訳ありません!!」




「バカ野郎。申し訳ないで済んだら兵隊なんていらねぇんだよぉ」


 他の人はワインや食事を楽しみながら談笑を楽しんでいる。しかし、周囲をわきまえず欲丸出しで暴れだす奴がたまにいるのだ。


 それはもちろん、国王親子だ。白ひげを蓄えた小太りの国王、ケイル。目つきが悪いツンツン頭で黒髪の王子、ジロン。


「おいおい、女が足らねぇねぇぞぉ。もっと持って来いよ」



「それだけじゃないぞい。料理が糞過ぎる」


 要人たちがいるのも関わらず、このバカ親子の行動、本当に呆れる。

 周囲には女をはべらかせ、料理がまずいと文句を言っているのだ。


「おい、料理長を呼んで来い!」


 そして料理長らしき人が出て来ると、親子二人は大声で罵声を浴びせた。まるで周囲にさらし者にするように──。


「なんだあのクソまずい料理は。質が落ちておるぞ、本当なら皿ごと捨ててやっているところじゃぞ」


 料理長はその場で頭をぺこぺこと下げる。


「そ、そう申されましても、我が国は巡礼祭の費用など、財政的に苦しく、具材の質も落とさなければいけない状況になっており……」


「くだらねぇ言い訳してんじゃねぇよこの無能野郎!!」


「黙れ、この巡礼祭はな、我が国の権威がかかっておるのだぞ? 下民どもの生活より、ずっと大切なものなのじゃ。どうしてくれる」


 周囲の貴族や、要人たちはをそれを引いた眼で見ている。


「ったくよお。これじゃあせっかくめでたい日が台無しじゃぞい」


 ワインを片手に、国王のケイルが怒鳴り散らす。


 それだけではない。

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