ウェレン編

第107話 最果ての雪国、ウェレン王国へ

 アドナとの一件があった直後、俺達は早速動き出した。

 向かったのはいつもの街のギルド。


 この前アドナが暴れて、フリーゼに蹴り飛ばされた場所。壁に修復された跡があり、まだ直っていないことがわかる。


 何をするかは、決まっている。リルナさんへの相談だ。



 俺達は、熾天使を探しにウェレンへ行くと決めたはいいが、俺たち全員初めて行く街。知っている人など誰もいない。

 そんな中でどこにいるかわからない熾天使を探し当てるなど、雲をつかむような話だ。


 そう考えていると、受付にピンク色のぽわぽわとした背が低い女の人、リルナさんがやってくる。


「おはようございます、フライさん。今日はどのような御用で?」


「俺たち、これからウェレン王国に行くんです。それにあたって聞きたいことがあります」


「本当ですか、フライさん。あんな最果ての地へ行くんですか?」


 リルナさんはその言葉に驚いて口元を抑える。恐らくここから遠い場所。そんなところにわざわざ行くことがよほど珍しく感じているのだろう。


「はい。どうしても調べたいことがありまして。それで、リルナさんに相談したいことがあるんです」


「な、何でしょうか……」


「はい、ウェレン王国の情報。それから、あちらである程度信頼がある人物を紹介していただきたいのですが、よろしいでしょうか」


 するとリルナさんは事務室へ戻っていった。少しすると、数枚の書類を持ってきて、俺たちに見せてくる。


「これがこのギルドでわかるウェレン王国の資料です。精霊や大天使に対する信仰。ああ、調べるってフリーゼさん達に関することですか?」


「はい、そんなところです」


 俺は何とかお茶を濁して答える。流石に、熾天使やこの世界に関することは言えない。そしてその資料を目に通してレディナに渡す。

 レディナは記録係として、白紙にその内容を記録。流石にギルドの重要な資料。持ち出すことなんてできない。


 そしてリルナさんの口から一人の人物が出て来た。


「一人知っています。メイルという人物です。確か、以前大きな行事があるので、警備に雇う冒険者を集めていると、各ギルドに招集をかけていたことがあります。私達の街でもウェレン王国へ行ったパーティーがいましね。その人たちにあたってみるのもいいでしょう」


「メイルという人物ですか、分かりました。ありがとうございます」


 そして俺達はウェレンへ行った人たちから情報を聞き出す。さらに、メイルという人物と手紙でやり取り。ウェレンに着いたら案内をしてくれるということになった。

 この人には、本当に頭が上がらない。いつか、この恩を返したいと、心から思った。





 それから、遠征への準備は完了。メイルという人物へ、出発したこと、ついてからのやり取りなども無事成功。


 俺達は、新たな精霊たちを探すため、馬車で道をひたすら北へ。


 どこまでも広がる草原を抜け、荒涼とした土地がどこまでも広がるステップ気候の土地を抜ける。


 やはり北国ということで、途中から寒さが増してきた。俺たちはあらかじめ用意していた防寒着を身に包む。



 そして一週間ほど移動をつづけ、険しい雪山を抜けていくと、俺達は目的の場所にたどり着く。


「ハ、ハックション! 寒いフィッシュ」


「そうだねハリーセル。防寒着たりてる?」


 予想以上の空気の冷たさに、思わず身震いがしてしまう。


 北国特有の、寒さから身を守るための分厚い石つくりの家屋。



 そしてこの街の象徴ともいえるのが、街のいたるところに存在している教会。

 それが、この街が信仰深い街であるウェレン王国であることが象徴されている。



 北方向にはこの聖都の政府の役割をしている大聖堂が遠目に見えた。

 ウェレンの王都の象徴である『ミーミル』大聖堂その圧倒的な存在感は、大天使の権威をこの国中に表わしていた。


「この街、なんか神秘的で素敵ですね、フライさん」


「そうだねフリーゼ」


 フリーゼが寒がりながら話しかけてくる。確かにそうだ。見たことがない建造物に神秘的な雰囲気の教会。

 そして足元に積もっている雪が今まで見たことがないような空気を醸し出している。


 この空気から、人々は大天使を信仰をするようになったのだろうか。


「これからもっと冷えてきそう。だから襟元を閉めなさい」


 するとレディナが俺の目の前に寄ってくる。そして首元に手を回してきた。


 手袋越しでもわかるレディナの細くて絹の様に滑らかな指の感覚。

 思わずドキッとして胸が高まってしまう。


「ほら、これなら大丈夫よ、フライ」


「あ、ありがとう──」


 するとフリーゼが俺の肩にツンツンと触れてくる。


「ほらっ、フライさん。遊んでいないで行きますよ」


「ああ、ごめんフリーゼ」

 フリーゼが、そっぽを向いて残念そうな表情をしている。俺、何かしちゃったかな?


「フリーゼ、俺何か嫌な事しちゃった? なんか嫌そうな表情をしているけど──」



「いいえ、何でもありません。行きましょう。街の大聖堂へ」


 そしてフリーゼの言う通り俺たちは大聖堂を目指そうしたその時──。


「その服装。あなたたちが、フライさん達でよろしいですか?」

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