第105話 アドナ 大暴れ、そして──
アドナは表情が固まったままだ。目の焦点が合っていない。
そして握りこぶしが強くなり、プルプルと震えはじめている。
そして──。
「うるせぇうるせぇうるせぇうるせぇうるせぇうるせぇうるせぇうるせぇうるせぇうるせぇうるせぇうるせぇうるせぇうるせぇ! なんでお前なんかに同情されなきゃいけねぇんだよ。なんでお前なんかに優しくされなきゃいけないんだよ。ふざけんじゃねぇフライなんかに、フライなんかに、フライなんかに──!」
アドナは突然暴れだした。ギルドにある椅子を蹴り飛ばし、掲示板を殴り飛ばす。
リルナさんや他の冒険者たちはすぐに逃げ出す。
「待て待て、そんなことをしたら、物を壊した損害賠償でまた借金生活になるぞ!」
「うるせー! お前なんて落ちこぼれのクソ野郎に、心配されるいわれはねぇ!」
俺が後ろからアドナを抑える。しかしアドナは激しく暴れまわり、周囲にあるギルドの備品を蹴り飛ばす。
完全に理性が壊れて怒り狂っている。どれだけ取り押さえようとしてもすぐに抜け出してしまう。
「仕方がないです──」
するとフリーゼがアドナの頭の右側に思いっきりケリを見舞う。怒りを爆発させていたアドナに受け身やガードなんてできるはずもなくフリーゼの足が直撃。
アドナの体は強く壁にたたきつけられる。
そのまま意識を失い、ぐったりと床に倒れこんだ。フリーゼは、その姿を見て申し訳なさそうな表情になる。
恐らく罪悪感を感じているのだろう。
そして倒れこんでいるアドナのそばに近づき、頭を下げる。
「──申し訳ありません。治療費は払いますので」
「そんな必要ないフィッシュ。全部こいつが悪いフィッシュ」
「そうよフリーゼ。こういうやつはたまには痛い目に合わせなきゃダメなのよ」
「そ、そうなんですか、レディナ……」
その言葉に戸惑いを見せるフリーゼ。自分たちに敵意を見せた相手、そんな奴でも気遣う姿勢があるのは、フリーゼの優しさだと感じる。けれど──。
「以前にもいったけれど、その優しさが通じる相手と通じない相手がいる。アドナは、通じない相手なんだ」
俺はフリーゼに説明する。
「アドナみたいなやつは、優しくすればするだけ増長し、さらに身勝手な要求ばかり突き付けてくる。そういうやつには、きっちりということは言わなきゃいけない。それは、理解してほしい」
フリーゼのそういう所は、俺はとっても大好きだ。そして、俺の言葉にも、複雑な表情をしながら何とか了承してくれた。
「わかりました、フライさん……」
「ありがとうフリーゼ。そういう優しい所、俺は大好きだよ」
フリーゼは、ほんのりと顔を赤くしている。
すると、俺たちの元にリルナさんがやってきた。
「申し訳ありません。こんなことになってしまって」
「いえいえ、リルナさんが謝ることではありません」
「とりあえず、この弁償代はアドナさんに払わせますので。後は報酬などの話をしましょう」
「そ、そうですね……」
そして俺たちはその話をしに奥の部屋へ。
結論から言うと、かなりの金額をもらえた。金貨を三十枚以上。これは、かなりの蓄えになり、ウェレン王国への遠征費。それだけでなく、そこでの活動費を十分に賄える金額だ。
「水晶ドクロの件お疲れ様です。この報奨金、受け取ってください」
「分かりました。ありがとうございます」
そしてその言葉通り報奨金を受け取り、俺達はギルドを後にしていく。
ギルドを立ち去るとき、いまだに意識を失い、倒れこんでいるアドナが視界に入ってきた。
傲慢な彼は、ギルドの中でも忌み嫌われており、助けようとする者は誰もいない。
彼の行く末、それがどうしても気になってしまう。
かろうじて奴隷落ちだけは免れたアドナ。
しかし、すでに彼は冒険者としての資格を失っている。
おまけに椅子や壁など、怒りに任せてアドナはかなりの物を破壊した。アドナには壊したギルドの備品の弁償が待ち構えている。
これからどうするのだろうか。いくらひどい目にあわされたとはいえ、顔を知っている人間が奴隷の首輪をつけるというのは見たくない。
アドナのプライドからして、俺が手を差し伸べたところで、絶対にその手を掴んだりはしない。だから、何かあったら陰ながら応援はしようと思う。
そんな事を考えていると、レディナが髪をなでながら話しかけてくる。
「もう、一時はどうなるかと思ったわ。びっくりさせないでよ」
「ごめんねレディナ」
確かに、レディナ達にとっては冒険者資格がかかった真剣勝負だった。もっと、余裕をもって勝てればよかったんだけどね。
「けど、ありがとうね。これからも一緒に頑張りましょう」
「そうフィッシュ。よろしくフィッシュ」
ハリーゼルも、勝てて喜んでいる。とりあえず、みんなと一緒にいることができて何よりだ。
「しかし、これだけあれば、ウェレンまでの資金も大丈夫そうですね」
「うんフリーゼ、これでウェレンに行くまでクエストをこなさなくて済む。いろいろあって疲れたし、少し休もう」
「──はい」
それから、ついに向かうのはウェレン王国。精霊や大天使を信仰している総本山のような場所。
確実にひと悶着あるだろう。
しかし、どんな障害があろうとも、みんなで乗り越えていこう。
そんな事を考えながら、俺達はこの場を後にしていった。
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