第72話 唯一王 ようやくダンジョンへ

 俺達は馬を駆使して予定通りダンジョンのある山にたどり着く。

 高い運賃になってしまったが、今は時間が惜しい。


「フライさん、あそこにダンジョンの入り口があります。休憩してから行きますか?」


「いや今はすぐにでも助けに行きたい。だから準備ができ次第出発したい。お前たち、出来るか? 休みたいならいいけど──」


 とはいえ、体力は温存するに越したことはない。あまり無理はさせられないと思ったが──。


「大丈夫よ。そんな心配はいらないわ」


 レディナのそんな言葉。おまけにハリーセルとレシアも首を縦に振った。

 みんな大丈夫だ。それなら、行くしかない。


 すぐに探検への準備をしはじめる。


 そして俺たちは準備が終わると、ダンジョンの中へ進んでいった。


 ダンジョンの中。真っ暗な道、魔法で光をともしながら進んでいく。


 少しでも早くミュアたちと合流したいという想いから、自然と早歩きになる。

 歩いていると、ダンジョンの奥から足音が聞こえてくるのがわかる。





 確かあれはパーティーグループ「アドス」だ。


 シアンと二、三人そして──。


「ミュア! どうしたんだ?」



 ミュアだ。シアンに腕を引っ張られてこっちに向かってくる。

 全員服はボロボロ、息も上がっていて疲労し切っているのがわかる。


 おそらくダンジョンで死闘を繰り広げていたんだな。

 そしてミュアと俺の視線が合う。その瞬間。


「ええええええええええええん。フライ!」


 ミュアはいきなり走り出して俺の胸に飛び込んでくる。

 そして俺の胸でえんえんと泣いている。



「ミュア、どうした。このダンジョンで、何があったんだ?」


 俺の質問にミュアは泣きじゃくりながら答える。


「キルコが、キルコが──」


「キルコさんに、何があったんですか? ここにはいないようですけど──」


 フリーゼの言う通りこの場をいくら見渡してもキルコはいない。

 するとミュアは泣きじゃくりながらキルコのことについて答えた。


「なに! ゴブリンに襲われてどうにもならなかった?」


 この奥にゴブリン。それにキルコが襲われた。まずいぞ、ゴブリンたちって、人を襲うんだ。するとフリーゼがシアンに問いかけた。


「それで、キルコさんを置いてきてしまったのですか?」


「仕方ないだろ。助けたいのは山々だったんだけど、あのゴブリンたちコンビネーションがとてもよくて全然勝てないんだ。このままじゃミュアや俺たちまでやられちまう。だから助けを呼ぼうとしたんだ」


 そう、ゴブリンは戦闘力自体はそこまで高くはない。けれど暗い所に住んでいて奇襲を仕掛けてきたり、集団戦に優れていたりして相手にするととても厄介なんだ。


 とくに結成して間もない、連携やコンビネーションに難があるパーティーだとその弱点を突かれて苦戦してしまう傾向が強い。


「とりあえず、その人を助けに行かないといけないわね」


 レディナの言う通りだ。すぐに奥へ行こう。

 俺がそう考えたその時──。


「──なんだよ。やっぱりやられちゃってるじゃねぇかよ。元Sランクつっても、大したことねぇなァ」



 背後から誰かがやってくる。

 呆れたような口調の独り言をつぶやきながら。


 長身でツンツン頭。挑発的な目つきをした男ノダルと、その取り巻き達だ。

 黒髪で挑発のお姉さんヴィヴィアン、他数人。


「ノダルだっけ。なんでここに来た? このクエストはあんたが委託したんだろ」



「別のクエストをしていた。けど思ったよりクソみてぇな相手で早く終わっちまってな。ここ、帰り道に通りがかったから様子を見に来たんだ」


 彼の姿にレディナがずかずかと目の前まで近づく。


「それに何よ。私が見たことがない女が一人いるけど。あんたの新しい女?」


 さっきから無言で笑っている人物だ。


「ああん。もしかして妬いちゃったレディナ? こいつはお前が抜けた後に新しく入ってきた女、ミュランだ」


「へぇ、あなたがあのレディナね。私はミュラン、よろしく」


「──よろしく。赤の他人だけど」




「ちょっと、なんでアドスの人たちがいるのよ」


「それは俺が情報を与えたからだ。このダンジョンにはこの国でも相当な価値がある資源があふれんばかりにあると伝えてな」



「けど、ランクはせいぜいDランクとてもゴブリンたちを倒せる実力なんてないわ」



「それでも最初に出てくる敵たちを倒す露払いくらいはしてくれるだろうよ。うまくいけば小銭を出してこのダンジョンの情報を教えてくれるかもしれない。行かせてみる価値はあると思うが?」


 自分が流した情報のせいでキルコがあんなふうになったというのに、彼らはまた関心がない。


「別に、私達は『アドス』達にダンジョンに行けと命令したわけではないわ。あくまでダンジョンに行くという選択をしたのは彼らよ」


「それはお前たちがそういうふうに情報を教えたからだフィッシュ。インチキだフィッシュ。卑怯者だフィッシュ」


 ハリーセルもさすがに許せなかったようで、顔を膨らませ問い詰める。



「別に嘘をついたわけではないさ。都合のいい事実だけを意図的に抜き取って、ダンジョンに行くとメリットがあるように進言しただけだ。行く行かないの判断をしたのは彼らだ」



 そしてレディナはため息をついた後やれやれと言いたげなポーズをとる。


「──ふう。呆れたわあなたたち。昔から変わってないわね、自分たちに都合が良いことなら何でもする。良心というのもがあなた達にはないの?」

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