第70話 唯一王 すぐに助けに行く

「そのパーティーの事、思い出せますか? できる範囲で構わないので教えてほしいんですけどお願いします」


 クランさんは頭を掻きながら何とか記憶を頼りにそのことを思いだそうとする。


「確か、ついこの前できたばかりのパーティーだったな、流石に難易度が高いかなと思ったんだけれど、ノダルが彼らの経歴を教えてくれてよ。そしたら元Sランクの冒険者が二人いるって言うからOKしちまったんだ。確かミュアとキルコって言うんだっけ」


 あの二人がいるパーティー? じゃあ本当にできたてのパーティーってことじゃないか。

 でも、あのダンジョン難易度が結構高かったはずだ。


 と考えていると今度はレシアが質問し始めた。


「で、でもあのダンジョン、今ゴブリンとかが住み着いているはずですよね。それもそこそこ強いって有名な」


「ああ、かなり強いゴブリンがいるって言われていたな。これを攻略するには最低でもB、出来ればAランク相当の実力が必要といわれているって聞いたぞ」


 Aランク? そんな難易度の高いクエストを、成立して間もないパーティーに単独で推薦させたのか。


「フライ、私クエストのことはよくわからないんだけどまずいことなの?」


「ああレディナ。自殺行為に近いぞこれは」


「おい、クランさん。あんたがいくら新人だといっても、これは見過ごせない。どうしてできたてのパーティーにこんなクエストを許可したんですか?」



「確かに俺もできたてのパーティーにしては難易度が高いとは思った。けれど、あのパーティーには元Sランクのミュアとキルコがいるなら大丈夫だろうって仲介したんだ」


 クランが戸惑いながら言葉を返す。 恐らく自分が何をしているのかよくわかっていないのだろう。


「だって仮にもあの二人、Sランクパーティにいたんだろ。だとしたら実力だってそれなりにあるはずだろ? だから大丈夫だと思ったんだけど、まずかったかな?」



 まずすぎる。おそらくこの人は冒険者としてクエストをしたことがないのだろう。

 いくらキルコとミュアが冒険者としてそこそこ実力があるといっても、今のパーティーは成立して間もない。


 一人の冒険者が強いことと、チーム全体で強いというのはイコールではないのだ。


「彼ら、確実に連携に難がありますよね」


「フリーゼ、それだけじゃない。できたばかりの関係ってことはいざピンチになった時、見捨てられる可能性が高くなってしまうということだ」


 だからパーティーが成立したての頃は簡単だったり日数が少ないクエストを受けるのが一般的なんだ。


 それほど強くない敵と戦いながらコンビネーションを高めたり、日数が少ない旅の中でコミュニケーションをとって仲間たちとの関係の取り方を理解したりしている。

 けれどそれをせずにいきなり高難易度のクエストなんかしたら、仲間割れになったり、下手をすれば失敗して大けがを負ってしまう可能性だってある。


 とにかくヘルプに行くしかない。いくら仲違いがあったといっても、こういう時は助けないと──。


「クランさん。とりあえずその場所を教えてください。今から私達もそこに行きます」



 そしてクランさんは俺達に彼らが出発した日にちと場所を教えてくれた。

 場所はここからしばらく東に行った先にあるアガラス山の中腹にあるダンジョンらしい。


 話によると物資の手配の関係で今日ダンジョンにたどり着くことになっているとか。


 それなら、物資は準備してある。今から一番スピードのある馬車を手配して……、時間を考慮すると、ギリギリ会えるかといった所か。

 というかミュアたちがダンジョンを攻略している最中に、こっちが入り口にたどり着いて追いかける形になるのか。


 ギリギリだけど、間に合うことを祈るしかない。それと、俺一人ってわけにもいかないからフリーゼたちに許可を取らないと。大丈夫かな……。


「ということでいきなりそんな場所に行くことになっちゃったんだけど、大丈夫?」


 俺は申し訳なさそうにフリーゼたちに聞いてみる。この一件は彼女たちに何の関係もないことだ。承諾してくれるといいのだが……。


 するとレディナがあきれたような表情でため息をつく。


「もう、あんたはいつもそうなんだから。周囲のことが心配ですぐ助けに行っちゃうんだから。いいに決まっているでしょう」


「そうフィッシュ。良い人過ぎてこっちが心配になるフィッシュ」


「ですよ。フライさんは、もう少し私達にわがままを言っても許されると思います」


 フリーゼも、ハリーセルも快く承諾してくれた。本当にいい仲間を持ったと心から思う。

 そうだね、フリーゼの言う通りかもしれない。

 じゃあ、今回はわがままを言わせてもらおう。


「じゃあ、ミュアたちを助けるために、一緒についてきてくれ。頼むよ」


「もう、大丈夫に決まっているじゃない」


「任せろフィッシュ。私達が助けるフィッシュ」



「フライさん。その心、私は絶対に無駄にはさせません」


「僕も行くよ。みんなの役に立ちたい」


 レシアまで了承してくれた。四人とも反論一つしてこなかった。この事実が本当に嬉しい。


 だからこそ彼女たちの好意を無駄にするわけにはいかない。

 このクエスト、絶対に成功させよう。

 そう強く誓い、ギルドを後にしていった。

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