第51話 唯一王 レディナの本音を聞く
「楽しい……?」
その言葉にレディナがはっとした表情になり言葉を返した。
「じゃああなたは私と一緒にいて楽しいの?」
レディナがたっと椅子を鳴らして立ち上がった。
するとハリーセルがキョトンとした表情でまじまじとレディナを見返した後、きっぱりと言い放つ。
「当たり前だフィッシュ!」
その音に周囲の注目を集めてしまい、視線が俺たちに集まってくる。
レディナは驚いて言葉を失ってしまう。
「そうです。私もあなたと一緒に行動出来てとても嬉しいです」
「俺もだ、レディナと会えて、本当に良かったって思ってる。レディナはいろいろ小言を言っても、それは俺達のことを想ってのことだってわかってる。本当は、周囲を気遣える人だって。だから、レディナが幸せだととても嬉しいよ」
三人の言葉にレディナは観念したのか、ため息をついた。
髪をくりくりといじりながら言葉を返して来る。
「も、もう……。そこまで言うなら仕方がないわね……。じゃああなたたちのこと、信じてるわよ」
良かった。何とか素直になってくれた。俺たちも頑張るから、これからもよろしくね。
何とかこの場は収まった。
そして俺たちはケーキを食べ終える。甘くておいしいケーキと、いい香りがするコーヒーが良くマッチングしていて最高だった。
そして席を立って会計に向かおうとしたその時。
じ──。
「な、何だよレディナ」
レディナがジト目で俺を見つめてくる。何か地雷でも踏んだのかな?
「俺、何か悪いことした?」
するとレディナは一度ため息をついた後、話しかけてくる。
「今日一日フライと一緒にいて言いたいことがあるわ──」
そう言いながらでレディナが俺をジト目で見つめてくる。
「フライ。あなた、私達とデートしなさい。恋人として扱うのよ」
予想もしなかった言葉に俺もフリーゼも驚いて言葉を失ってしまう。
「何だよいきなり。恋人になれって──」
「確かにあなた、心は優しいし、言葉遣いや態度も丁寧なんだけど……」
「そ、そうですねフライさんは人としては素敵な人です。しかし──」
ど、どういうことだ? 確かに三人とも冒険仲間としては素敵だと思う。けれど恋人同士なんて考えもしなかった。
そんなことしたら空気が確実に気まずくなってしまいうから、そういう事はしないことに決めていたのだが──。
「あなた、私達と接するときも、知らない人と接するときも言葉遣いや態度もほとんど一緒なのよ。良い意味では丁寧だけど悪い意味では友達止まりの典型例。
多分、今までの習慣なのよ。これじゃあ恋人ができても、その習慣が出ちゃってうまくいかないこと間違いないわ」
「それは、私も同感です。フライさん、人はいいんですけれど、グッとくるものがないんですよね。平時だと」
「ど、どういう意味だよ」
フリーゼは何かを考えながら質問に答えた。
「ピンチの時は、フライさん気が強くなって自分のことを顧みず必死になって戦い、その光景はとてもかっこよくて頼もしいと感じます」
「そ、それはありがとう」
突然の誉め言葉に俺は言葉を詰まらせてしまう。
俺は今まで仲間達から罵倒され続けてきた。
なので褒められるということになれていないため、どう言葉を返していいかわからないためだ。
そしてフリーゼはジト目になりさらに言葉を続ける。
「しかし、平時のフライさんは、どこか頼りないんですよね。知識は豊富で生活力もあり、私達の意見も象徴してくれる優しい人なんですけど。そこまでなんですよ。異性関係としては、どこか物足りなさを感じてしまいます」
ズキッ──。
俺の精神にダメージが。し、仕方ないだろう。いままで交際経験なんてなかったんだし。
「だからあなたが将来恋人ができた時、フラれたりしないように今から予行練習してくのよ」
「予行演習? 何でそんなことするんだよ」
「異論は認めない。これは命令よ!」
レディナが指を差しながら言い放つ。そんな無茶苦茶な……。
そして俺はフリーゼとハリーセルに視線を向ける。
「お前たち、いきなり恋人役なんて言われても嫌だろ?」
そ、そうだ。彼女達だっていきなり恋人役なんかになれと言われたって嫌なはずだ。
もっとかっこよくて優しい人の方が二人には似合っている。
そう考えて言ったはずなのだが──。
「こ、恋人役ですか? 私は──その、構いませんが……」
「はいはい。楽しそうフィッシュ。やってみたいフィッシュ」
フリーゼは顔を赤くしてもじもじしながら、ハリーセルはワクワクといった感じで言葉を返していく。
「け、けれど三人全員とデートなんておかしいだろ」
するとレディナはムキになったようにして言葉を返して来る。
「だ、だってそうしないと特定の誰かと付き合っているって思われるでしょ? あくまで練習なんだから」
「楽しそうフィッシュ。デートしてみたいフィッシュ」
「私も、フライさんにエスコートされるのはワクワクします」
二人とも、簡単に言うなよ。経験のない俺に……。
こうして俺は彼女たちとデートをすることになってしまった。
生まれて初めてのデート、果たしてうまくいくのだろうか。
帰り道、街並みを見ながらそんなことを考えていた。
考えるだけで胃が痛くなる。
けれど、彼女たちを満足させられるように最善は尽くそう。
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