第7話 唯一王 フリーゼと一緒に外へ
「俺がいれば、本当に外へ出られるんだな」
「はい。あなたがそばにいるときは、私はあなたたに仕えるということになり、その命令が上書きされるのです」
なるほど、俺がいるおかげでフリーゼは外に出られるのか。
ようやく俺は自分のスキルを発揮できるというわけだ。なんか誇らしい気分だ、
そんなことを話していると、道の先がうっすらと緑色に光っている。おそらくあれが出口なのだろう。
そして俺たちは出口の前へ。それから光の射す場所へと歩を進めようとすると──。
「……うっ」
一瞬フリーゼが先を進むのをためらい始めた。右手を胸に当て、震えているのがわかる。
「フリーゼ、どうした」
「私が外に出たいと思った時、何度もこの光を見て、何とも進もうと必死に力を振り絞って前に進もうとしました。この身がどれだけ傷つこうとも……。そのたびに結界に遮られ、光射す道の先に行けることはありませんでした」
トラウマ、という事なのだろう。フリーゼが本当に怖がっているのがわかる。
「わかっています。フライ。あなたがいれば大丈夫ということが。それでも、結界に遮られ、その時に何度もこの身を跳ね飛ばされてきました。その時の痛みが、私の体に染みついて、離れないのです。私の足が、これ以上先へ進むことを拒否して動かないのです」
フリーゼの両足に視線を移す。彼女の足が、震えている。心の中では大丈夫だと理解して前に進もうとしているのはわかる。
しかし、フリーゼの体が、恐怖によってそれを拒絶しているのだろう。
その言葉に、俺は考える。
フリーゼとずっといたわけでもない俺が、大丈夫だとか、安心してとか言った所でどうにもならないだろう。
そんな言葉ごときで克服できるほど、彼女の闇は簡単には消えないのは俺でもわかる。
数十秒ほどだろうか。俺は足りない頭でこう結論を出した。
言葉で足りないなら、こうすればいい。
俺は、フリーゼの手を強く握り、彼女の震えている瞳をじっと見つめた。
そして、ぎゅっと身を引き寄せ、フリーゼを抱きしめる。
「大丈夫、俺がついている。一緒だから、だから安心して、一緒に行こう」
フリーゼは顔をほんのりと赤くして俺を見つめている。俺も、交際経験なんてない。慣れないことをしてドキドキしているのがわかる。
「わかり──、ました」
フリーゼが視線を外しながら答えると、俺たちは結界へと足を踏み出す。
足取りがおぼつかなく、震えているのがわかる。
そして俺は結界に触れる。その瞬間、本能的なのだろう。彼女が足を止めてしまった。
大丈夫だ、俺がいるのだから。そんな意味で、恐怖で止まっている彼女の背中をポンと押した。その瞬間、俺とフリーゼは結界の中へ──。
視界が光へと包まれる。
次の瞬間、俺たちは入口の前に立っていた。オアシスのような場所、後ろには、俺たちが入ってきたダンジョンの穴。
「本当に──、私、外へ?」
そこは俺達が入ってきた入口の目の前。そんな光景、不思議そうに驚いた表情できょろきょろと見回すフリーゼ。
生まれて初めてのダンジョンの外。
真新しさでいっぱいなのだろう。
「そうみたいだね。じゃあ、街に行こうか」
「街──ですか? ワクワクします。じゃあ、連れていてください。連れ出したのだから、責任取ってくださいね」
フリーゼが俺の手をぎゅっと握り、見つめてくる。
その時の彼女の表情は、無表情の中でもどこか明るいように見えた。
「わかった。こんな俺だけど、よろしくな」
そして俺たちは街へと向かう。新しい仲間を迎えた俺たちの旅は、これから始まるんだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます