第4話 唯一王 見捨てられる

 彼女はとくに詠唱をするわけでもなく、スッと、剣を彼に向けた。



 いでよ、星脈聖剣<ステラブレード>!


 そしてフリーゼとウェルキの剣が刃を交える。しかし──。


「か、かってぇ──、何だこの魔力……」


 ウェルキは彼女に何とかダメージを与えようと、力を入れるが、彼女の剣は全く動かない。


「どうしたのですか、お遊戯ですか? 本気を出してください。それとも、すでに本気を出しているのでしょうか」


 フリーゼは全く表情を変えず、涼しげな表情をしている。

 ウェルキの攻撃など、彼女にとってはお遊戯同然なのだろう。


「う、う、うるっせぇ! こんなの手加減してるだけだぁ!」


 ウェルキはムキになり叫んだあと、さらに反撃を続ける。

 それに対してフリーゼ。


 ウェルキの槍が今までにないくらい強く紫色に光始めた。彼の属性は「エスパー」、その力をありったけ込めているのがわかる。


 そして一気にその槍を振り下ろす。見たことがないくらい気迫に迫る表情。本気でフリーゼを倒しに来ているのがわかる。


 そんな全身全力ともいえる彼の一撃。フリーゼはその攻撃に対して反撃しようとも、よけようともしない。


 じっと彼の振り下ろす攻撃を見た後、そっと人差し指をかざす。






「ぬるいですわ。所詮あなたたちではこの私に一撃を与えられることなどできるはずがないのですわ」


 ウェルキが全力で振り下ろした一撃。その攻撃はフリーゼの指に触れた瞬間、その指に吸い付いたように止まってしまったのだ。


 驚いて目を丸くするウェルキ。何とか彼女にダメージを与えようと、槍に力を入れて押し通そうとしている。


「この野郎。ナメたマネしやがってぇぇぇぇぇぇ!」


 が、彼の槍は彼女の指の先から一ミリも動くことはなかった。アドナは、ただ彼女をじっと見ている。今のやり取りで、完全に実力の差を理解したのだろう。


「なめてなどいませんわ。そなたこそ、もう少し本気を出してください」


「ふざけんじゃないわよ! ミュア、いくわよ、合体技!」


「う、うん」


 キルコは杖を、ミュアが両手を目の前にかざす。

 キルコの杖から黒い波動を、ミュアの両手から魔力を伴った水が放たれる。そして互いの魔力が合体し強大な球状の波動弾となっていった。


「「くらえぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」」


 いつも見ていた俺だからわかる。これも二人の全力だということを。しかし、現実は非情だった。

 フリーゼは自らに向かってくるその攻撃。それを、そこにいるハエを払うような軽いそぶりで手を払う。

 二人の攻撃は、その手にはじかれ消滅していった。


「皆様、その程度ですか? 全力を出してくださいと言ったでしょう。それとも、すでに本気を出しているということですか?」


 あまりの実力の違いに絶望しきっているアドナ達。表情が見る見るうちに絶望に染まっていくのがわかる。



「それでは、今度はこちらの番です」


 そうつぶやいたフリーゼは左手を天に向かって上げる。そしてその手から今までにないくらい強力な魔力を感じ始めた。



「みんな、こっち来て!」


 ミュアが周囲に向かって叫ぶと俺たちは彼女の元に走っていく。そして全員が自分の背後に対したのを確認したミュアがフリーゼに向けてパッと両手をかざす。


 神なる聖水の導きよ──、私達を護る障壁となれ!

 ウォーター・ウォール・スターライト


 水でできたミュア最強の障壁。今までどんな強力な攻撃をもはじき返してきたこの国一番の強度を誇るといわれる障壁。


 もちろん俺の魔力も入っている。これが俺達の出せる最も強い障壁。


 フリーゼはミュアの方向に体を向ける。そして魔力をともっている左手を俺たちの方向に向けてくる。


 そしてその手から緑色の波動弾は俺たちに向かって襲い掛かってきた。

 ミュアはその攻撃を防ごうと障壁に魔力を込め、強固にしていく。



 だが──。


「甘いですわ!」


 ガッシャァァァァァァァァァァァァン!!


「うそ……、でしょ。私の障壁が──、敗れたの?」


 衝撃の事実に唖然とするミュア。


 障壁がガラス細工だったかのように一瞬で粉々になり、打ち砕かれた。

 それだけではない、フリーゼの攻撃の勢いは全く衰えず、俺たちに向かってくる。


 ミュアの防御でだめなら俺たちにこの攻撃を防ぐ手立てはない。


 俺たちにフリーゼの巨大な波動弾が衝突。

 波動弾は大爆発を起こし、俺たちは空中に吹き飛ばされてしまう。


 それぞれが吹き飛ばされ、肉体が壁にたたきつけられる。

 ミュアは、その強さの違いに絶望しきっている。


「こ、こんなの──、勝てるわけない……」


 その後も、アドナやキルコ、ウェルキが果敢に突っ込んでいくが、結果は一緒。ダメージ一つ与えられず、ただダメージを受けるだけ、体力を消耗し疲弊していくだけだ。


「なんだこいつ、強すぎだろ」


 絶望しきったウェルキの顔。彼らの心が敗北で染まっていくのがわかる。

 俺だけじゃない、全員の顔が恐怖に染まっていく。

 リーダーのアドナは絶望しながらも、冷静な心を取り戻し、決断をした。彼はパーティーを束ねるリーダーだけある。


「仕方がない。逃げろ!」




「勝てねぇ、なんだこいつ、化け物じゃねぇか。し、仕方ねぇ。」


 言葉を交わさなくても、互いに表情を見てこいつは戦えるような相手ではないと、相互理解を始めた。


 ウェルキさえも、圧倒的な力の差に闘志が失っているのが一目でわかる。



 そして俺たちは全員一斉に逃げ始める。俺たちの頭の中に、恥やプライドなどという言葉はとうに消え去っていった。


 しかし、現実は非情である。



「逃がしませんよ──」


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