第2話 唯一王 罵倒されまくり

 俺が籠にたたんだ衣類を入れ、他の仲間たちに渡そうとしてテント入口に立ったとき──。


「本当に、このクエストが終わったらフライを首にするんだな?」


 俺は思わず入口のカーテンから手を離し、彼らの話を聞き始めた。

 正直、時間の問題だとは思っていた。仲間達はいつも冷たく当たっていたし、俺だけ外れスキル。おまけにこんな誰でも出来ることしかしてないからな。


「で、でもさすがに追放は可哀そうなんじゃ……」


 ミュアがオロオロしながら俺のことを擁護し始めた。あいつは昔から優しい所があり、俺が孤立していた時たまに助けてくれたことがあったな。


 しかし、彼女は気が弱く、周囲に流されやすい所がある。ウェルキたちがあんな態度では折れるのは時間の問題だ。


 確かにショックを感じてはいるが、内心、理解していた。いつかはこういう日が来ると。


 ウェルキ、アドナ、キルコ、いつも俺に冷たい態度をとったり、露骨に八つ当たりをしたりしていた。いつかはこうなると、心の中で予感はしていたのだ。


「う~ん。けど、確かにあいつは、使えないけど……、追い出すってのはないんじゃないかな」


「いいか、アイツの実力じゃあせいぜいBランクの冒険者くらいが限界だ。それが俺たちと一緒に行動していたというだけでSランクになれたんだ。他のパーティーに俺はSランクパーティーにいたって言ったらそのパーティーには引っ張りだこになる。そう考えたらあいつは幸せ者なんだ」


「──そうだな。俺たちは、もっと強くなって、村を豊かにしなきゃいけないんだ。今まではなあなあで過ごしてきたが、そろそろけじめをつけなきゃいけない。いい機会だ」


「──それは、わかってる。でも……」


 ミュアは、やはり乗り気ではないようだ。煮え切らない態度をとるミュアにキルコが迫ってくる。


「ミュア、あんた優しすぎよ。いい、これから私たちはSランクパーティーとしてもっと難しいクエストをしたり、強力な動物たちと戦ったりしなきゃいけないの。でも、アイツの不遇な職業じゃあ、明らかに力不足になってしまうわ。最悪、彼が死んでしまうことだってあり得るの。ミュアだってそんなのイヤでしょ? だからこれはあいつのためでもあるの。そこまで彼が可哀そうなら、プライベートの時に一人で付き合えばいいわ。あとはあなただけよ。私達のためにも、彼のためにもお願いよ」


 ──落ちたな。今の言葉で、ミュアの罪悪感は消えただろう。


 十数秒ほどだろうか、沈黙が流れた。そして時間はやってくる。


「わかったわ。フライをパーティーから外すことを認めるわ」


 彼らの姿が見えなくても、雰囲気でわかる。パーティーの間に邪魔者が消えてほっとしたような空気が流れていることが。


「まあ、彼は彼でご武運を祈りましょう。最後くらい、一言かけてあげてもいいわね」


 キルコの余裕そうなこの発言。散々見下して来たくせに今更なんだよ。


 というか気まずい。さすがに聞いてたことがばれたら雰囲気は最悪だ。

 どうするか、聞いてないふりをしてこの場に入っちまうか──。やっぱり無理だ。


 そんな図々しさなど持ち合わせていなく、一度外へ出て、夜風にあたって時間をつぶす。

 しばし時間がたってから仲間達の元に戻った。


 そして明かりを消して就寝。窓から満月を見ながら最後の夜を過ごす。


 さみしいという気持ちもなくはない。そりゃ、小言を言われることはあったけど、それでもずっとやりあってきたパーティーなんだから。


 これから俺はどうなるのか。これでもSランクパーティーにいたという経歴はつくから、別のパーティーに潜り込むくらいはできる。

 そこそこのパーティーに入って活動していくのだろうか。


 そこでも、活躍が認められずに追放なんてことになるのだろうか。

 とても心配で胸が痛くなる。


 まあ、悔いが残らないように、精一杯頑張ろう。


 俺はそんなことを考えながら、夢の中に入っていった。




 そして当日。キャンプを片付けてダンジョンの中へ。


 時折コウモリが出る薄暗いダンジョンを歩いて進む。

 俺はパーティーたちの魔力の温存のため、露払いの意味を込めて先頭を歩いている。


 荷物を背負い、地図を片手に。


 こういった場所では敵がどんな罠を仕掛けているかわからない。そのため、ペースを落とし気味にして、周囲に警戒をしながら仲間たちに危害が加わらないようにしているのだが──。


 ドン!


 誰かが俺の背中を蹴飛ばしてきた。衝撃で壁に体がもたれかかる形になる。一瞬敵の罠かと思って後ろを振り向いた。


「何ダラダラ歩いているんだ唯一王よォ! 早く案内しろよ」


 ウェルキがイラついた態度で俺をにらみつけてくる。



「そうよ、唯一王。早く歩きなさい!」


「待ってくれ、ここは冒険者が来たことがない所なんだ。警戒しないとどんな罠が待っているかわからないんだ」


 俺の忠告、それは他の失敗したパーティーの事例から学んだことだ。

 決して逃げているわけではないのだが、そんなこと、ウェルキは気にも留めない。


「あぁ? それはてめぇが弱いからだろうがよ」


 いくら強いといってもここは敵地で完全アウェー、どんな罠があるかわからない。──がメンバーたちは、理解しようともしない。

 少しでも、余計な戦いを回避して、強敵相手に体力を温存できるよう配慮してのことだ。


 ウェルキが俺の背後の壁を蹴飛ばし、ゴミを見るような目でにらみつけてくる。


「お前さ、いい加減にしてくれないか? 本当に亀みたいなそのスピード、何とかならないのかよ」


「しょうがないだろ」


「言い訳してんじゃねぇよ。しょうがないじゃねえだろ。本当にどうしようもないやつだな」



 アドナも、冷静ながらもはっきりと俺を追い詰めてくる。


「俺も、そう思っていた。ペース、上げられないか?」


「そうよ、遊びでやってるんじゃないのよ」


 キルコも同調して俺を攻め立てる。トラップが発動すればお前たちにだって危害が加わる可能性だってあるのだが……。


「……わかったよ。それならペースを上げるよ。その代わり、どんな罠が待っているかわからないからな」


「構わねぇよ。それは貴様が弱いからだろ。俺達なら一振りでぶっ倒してやるんだからよ!」


 ギッ──!


「いててて。やめろよアドナ」



 何とアドナは最後に俺の髪を引っ張ってきたのだ。そして彼が俺をにらみつける。

 ミュアも、俺に何も言ってこないものの、軽蔑した表情を俺に向けている。ここで俺が何を言った所で、まともに聞いてくれるはずがない。


 俺は一瞬黙りこくった後、その意見に首を縦に振る。まあ、何かあったらあったらで俺のせいにすることが確定なわけだが。





 そして俺はペースを上げ、歩き始める。

 時折地雷のようなトラップが俺達に襲い掛かるが、何とか俺一人で退治。




「おい、てめぇなんでこんなに歩くのおせぇんだよ! お前の亀みたいなノロさに付き合ってやっているこっちの身にもなれってんだよ!」



 時々叫んでくるウェルキの罵詈雑言に耐えながら。

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