七日目 雨 【発熱】
七日目 雨 気温あつい 湿度あつい
起床しても碧は、体をもたげる気力すら湧かないことを自覚した。身体の指先に至るまでが、まるで鉄塊になってしまったかのように熱を帯びて重苦しい。頭蓋を押さえつけられているような鈍痛に、双眸からこぼれ落ちてしまいそうな涙を堪えるので精一杯だった。
風邪をひいてしまったのだろう。碧がこれまで生きてきた人生で幾度も経験したそれは、明言できる事柄だった。声を発しようと開いた喉はカラカラに乾いており、何も喋れずにただ咳き込んでしまう。
そういえば、最後に言葉を発したのは、何時だっただろうか。わからない。思考が回らず、頭が痛くて痛くて仕方がない。
このまま羽毛布団に包まって、寝てしまおう。そうすれば、痛みから開放されるに違いない。煩わしい辛さからも逃げることができるはずだ。
けれども体の痛みに意識を引き戻されて、碧は一向に眠ることができないでいた。
考え事だけが捗る。感傷が加速する。心の何処かに奈落が生まれたように、寂しくて仕方がない。体が熱い、頭が痛い、誰かに会いたい、温もりがほしい慰めてほしい。
大丈夫?と声をかけて、優しく頭を撫でてくれ。体の容態を見て、なんともないと笑って薬を差し出してくれ。はやく体調がよくなって、皆に心配してほしい。
碧は眠った。痛みで目を覚ました。
碧は寝落ちた。暑さで目が覚めた。
碧は微睡んだ。思考が苦しさで戻ってきた。
碧は意識を殺した。悪夢に追われて、現実に逃げてきた。
現実は、悪夢よりも最低最悪なものに、成り下がっていた。いつからだろう、言葉を発さなくなったのは。誰も居ないと、知ってしまった時だったか。
出かけるときにすら、行ってきますの言葉も出ない。会話が不要になってしまったからだろうか。
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