拾仇
「お前達二人で私達を担ごうって話じゃねーよな?」
涼子の声には先ほどまでの凄みはなく、顔色も幾分か青ざめている。
俺は、その問いにも言葉は重ねずしっかりと頷いて肯定を示した。
再び、思案するような沈黙が戻ってくる。
自然と皆の視線は、被害者である美衣子へと注がれた。
「ほっ……本当だよ!?嘘ついてないよ!!」
続いていた会話が途切れた事に反応して僅かに顔を上げた美衣子が、皆に注視されている事に気づくと、突然はじかれたように顔を上げ、ずっと閉ざされたままだった唇を開いた。
皆の視線はもう疑っているという感じではなく、純粋に美衣子を心配しているような眼差しだった。
けれども、繰り返してきた問答のせいか、視線を浴びた当の美衣子は未だ疑われていると勘違いしているようだった。
「あたしだって……最初は悪い冗談だと思ったよ。肝試しなんかしたから、過敏になってるだけだって……気味が悪いから御祓いすれば気分も晴れるかなくらいにしか思ってなかった……幽霊とか祟りとか、本当に信じてたわけじゃないよ!?」
美衣子は反動がきたように、一度口を開いた勢いに乗じて、一気に気持ちを吐露し始めた。
全員の顔を窺いながら、必死で訴え始めた。
「でもっ、あんなの見たら疑いたくったって疑えないよ!?皆だって、見てないから平気な顔してられるだけだよ!!」
吐き出すにつれて、美衣子の興奮はボルテージを増していく。
その光景は、目を逸らしたくなるぐらい悲痛で、誰一人口を挟めない。
美衣子の中にあった歯止めは、吐き出した言葉と共に完全に壊れてしまっていた。
誰も慰めの声すらかけてやれないまま、美衣子はぽつりぽつりと俺すら知らなかった昨晩の経緯を話し始めた。
「あたし、部屋で雑誌読んでたの……そしたら、またいつもの嫌な感じってゆーか、気配みたいなのを感じて……だから、怖くて布団に潜って……」
皆は、突然話し始めた美衣子の変わりように呆気にとられているようだった。
でも、俺としては一晩全く喋らなかった美衣子がこうして自分の口で話し始めたのは良い傾向ではないか、なんて思っていた。
「そしたら、突然バンって凄い音がしたの……きっと何か物が落ちたんだって自分に言い聞かせてた。そしたら、また音がして、どんどん音が鳴るようになって、物凄い音が鳴るようになって、ずっと音が止まんなくて……もうやめてって思って……気づいたら布団めくっちゃってて……」
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