第17話輝石の勇者

 まさか紋章がこんな簡単に発動するとは想定外だった。

「どうした?」


 と聞いてくるのは私。

_違和感しかない。

「あ、うん紋章がね、、」「お前が俺のこと何とも思ってないなんて思わなかったよ」


 被った。

 ってか何だってこんな時にその話持ってくんのよ。

「別に好きだなんて安っぽいこと言うつもりはねぇよ。でももうちょっと言い方あったろ?」

_あ、傷つけてた?

「ごめん」

「挑発に乗せられて好きでもないヤツ好きだって言わせて面白がるつもりだったんだろうぜ?ヤツはな」

「そう、、でもないよ」


 人が吹っ切るつもりで言ったのに私ったら汚い女だ。

 我ながら思った。彼が何か言う前に

「その、色々と世話にはなってるし、好感度は自分でもびっくりするくらい上がってるのを実感してる。

まだこの気持ちは始まったばかりだよ?」


 よせやいと彼はぼやいて、

「妙な期待させんなよ」

 とやんわり断った。


 私は綺麗にフラれた。瞬間体が元に戻った。

_フッたんだよね?

_ワンチャンあるの?

 もしかするかもしれない。

 暫定的にフラれたってことで。

 一先ずは山頂の輝石をクリアしないと。


 セットしてお参りして終わりなんてそんなワケはない。

_きっと何かある。


 山頂、龍の形をした祭壇の姿が一歩ごとに見えてくる。

 各所に窪みがある特徴的な形。

 そこに一つずつ輝石をはめていく。


カコ、、カコ、、カコ、、、


 暫く、、結論から言って何も起きなかった。

 龍の祭壇に輝石を設置して、すぐ何か起きるワケでもなく、私達は少し待った。

_アレ?

 何の音もしない静かな時間、、、

「おぃ!聞いてんのか!?」

 え?

「そっから逃げろって言ってんだよ!?」


 何の音もしなくなっていたのは私だけだったようで、周りには時間も音も普通にあったらしい。

 五つの輝石の成せる技なのか、二人の勇者の時間をズラしてくれたらしい。


 おかげで私は逃げ遅れてクロエは間一髪逃れクリューだけを引き寄せるに留まったらしい。


 私は石碑の後ろの大きな樹木がゆっくりと倒れてくるのをただ見ているしかできなかった。


_お前はここで死んではならない。


_しゃーねぇなぁ。


_今回だけね?


 目の前に三色の精霊が現れて樹木を砕いてくれた。

_あれは?


「仲間、、なの?」

「カナちゃん!」

 呆けた私を精霊としか言いようのないものが守ってくれた。


「大丈夫?」

「なかなかやるな」

 クリューは私を気遣い、クロエは私を褒めた。

 どうも私が大樹を潰したと思っているらしい。

「う、うぅん。私じゃない」

 しっかりと首を振って否定した私はことの顛末を話した。


 突然誰かの声が頭に響いたこと、その後三色の精霊の姿を視たこと。

 蝙蝠を大きくしたような鳥に、お茶目な光る毛玉?


 それから煙るほどの雪に肌を覆われた九尾の狐?狼?

 その精霊たちが大樹を砕いて消えたこと。


_アレは私が召喚したワケじゃない。

 第一三人共見覚えがない。

 私は「火」と「風」しか使えなかった。

 数も合わない。

_まだ見ぬ誰かなのか。

 これから仲間になるのかもしれない。

「そうかもな」

 軽く私の肩を叩いて同意してくれるクロエ。


 助かったんだし良かったじゃねぇか。とクリューがクロエの口マネをしてくる。

_妙なスキル覚えたな。

 おかげで少し気が晴れた。

「それにしても」


 輝石を置いてそれで終わりとはな。

 祭壇の変化にためつすがめつチェックを入れながらクロエは言った。


「ちょっと待て」

 祭壇に、、、

 何か見つけたらしい。

 その部分を擦って読みやすくすると、


輝石の、、、、れ、、、祭、、封、、、


「輝石の勇者現れし時、祭壇の封印は再び開かれる」

_クリュー!?

 クリューのいた方向から聞こえたそれはしかし、クリューのものではなかった。

 クリューに瓜二つの誰かがそこにはいた。

_いっぱい。

 当のクリューは見たことないほど怖い表情で、後ろの女性たちを睨んでいた。

_あんなクリュー初めてみる。

 この世界に来て初めて私は人を怖いと思った。

「お姉ちゃんッ」

 噛み締めるような怨みいっっっぱいの声でクリューは言った。


 実の姉と何があったらこんな顔をできるんだろうか。

_私にはわからない。

「それより」

 クロエが進み出る。

「輝石の勇者についてね?」

 赤い髪のクリューはクロエの言葉を遮るように言った。

「ちょっと貴女さっきから失礼ね?私はクリューじゃないわよ。

トラットリア家にはもう籍を置いていないもの」


 そうよね?クリュー?


 ギリギリと砕くほど歯を噛み締めるクリュー。


 どうやらその件とクリューがこれほど彼女を怨む理由は密接に関係しているらしい。

「私達はトラットリア家代々のしきたりに嫌気が差して出ていったの」


 それから三人目のクリューが続きを言う。


「本名は名乗れない。王家に仕えるのは当たり前。家に帰っても勉強ばかり、、、目も覚めるってもんでしょ?」


 何言ってんのこの人達。大体どこもそんなもんでしょ?

 本名名乗れないのはどうかと思うけど、少なからず人は誰かの言うことを聞いて生きている。


 やることないよりマシじゃん。

 ムカつくヤツがいてもそれもたまのことだし。


「ふぅ」

 ため息をついたのは私の隣にいたクリューだ。


「バカヤロウ!」

!?

「アンタたちは自分の都合で勝手に出ていっただけじゃねぇか!

嫌気なんてそんなキレイなもんじゃねぇだろ!」


 クリュー!?

 クロエも目を丸くしている。

「王家の皆さんはよくしてくれるよ。

アンタたちが考えてるようなちゃちな関係なんて一つもない!

それを確かめもしないで、ただ出ていくなんて何考えてんだ!」


 どうせ門を潜ったこともないんだろうとか、籍を戻す気もないんだろうとか、込み入った話もしばしば、、、


「大体、、、「そんくらいにしとけよ」


 クロエが敢えて止めに入った。

 それくらい耳に痛い話もあったし、何より相手も沈痛な面持ちであったからだ。


「わかった。でもこれだけは」

 最後にクリューは。

 王様は今でもアンタたちを待ってる。謁見くらいはしにきてあげて。と締めた。


「輝石の勇者について聞かせて貰えるか?」

 クロエが仕切り直した。

「そう、ね」

 流石にバツが悪いのか、俯いたままの赤毛はとつとつと話し始めた。

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