第31話 いざ、金持家という名の戦場へ!

「ここが金持家?」


「そう……みたいですね……」


 その金持家だと思わしき建物は、ここは日本かと疑いたくなる洋風なお屋敷がそびえ立っていた。桃尻家も洋風な構造であるが、まだ世間的にも住宅街的にも馴染んでいる方だと思う。この金持家は桁違い。なんといっても屋敷を囲む塀がどこまでも横に広がっては、面積すら把握できない。門と柵の高さで詳しく中までは見えないにしても、勢いよく水が流れ落ちる音が聞こえるので、噴水があるってことだけは分かる。優雅に咲き誇るバラたちが柵から私たちをお出迎えするように顔向け。


 セレブな生活にも慣れ、セレブ関連にはもうなにも動じまいと日頃から肝を座らせていたけども、これには眩暈がする。とんでもないイカれた家に来てしまったのと、桃尻家より絶対に金持ちじゃない。


 愛理と私は真顔で無言。門を前に圧倒されては一歩も動けずにいれば、自動で柵が横に動き出した。


「お話は聞いております。どうぞ中へ」


 白いちょび髭を生やした推定年齢六十代後半の執事らしき男が案内人として現れた。キビキビとした動きだが、言葉遣いや人への態度が非常に穏やかである。中へ踏み入れれば、夢の国かってぐらいに事細かに設備された芝生に花や木に銅像。そしてやけに力の入れてある噴水。一定の時間が経てば水の出方が変わって弱まったり、形を変えてウェーブをしたりと、この空間だけアホみたく金がかかっている。


「ひゃあ……すっごい……」


 カチコチに緊張している愛理の歩幅に合わせてお屋敷に入ると、なんと靴は脱がずにのお邪魔する土足文化。二人仲良く驚愕していれば白髭の執事は、靴は部屋で脱げると言い添えられた。犬の糞を踏んだ日にはたまったもんじゃない。


 赤と金で彩られた一面に敷かれた絨毯を踏み踏み。ヒールの裏からでも感じる。これは肌触りがふわっふわで高価なやつ。


「すごい!」


 愛理は不意に斜め上を見上げては、口を隠すように驚きの声を出した。


「どうしたの?」


「あは、いきなり大声出してごめんなさい。あそこの壁に飾ってある絵が、ゴッホやピカソにシャガールだったので、思わずびっくりしちゃいました!」


「へぇ……?」


 美術知識ゼロの桃尻エリカ。ゴッホはひまわり。ピカソは本名がめちゃくちゃ長い。シャガールは「ちびまる子ちゃん」に登場する花輪くんちにある絵としか知らない。ごめんね、愛理。私が無知なせいで感動を分かってあげられなくて……。まっ、あれはコピー品とかそんな感じでしょう。これだけ豪華な造りの家だもの。何か絵画のひとつやふたつ飾って見映えしなきゃね。実際のところ、偽物でも結構映えてるし、いい感じじゃない。


「いいえ、あちらの絵画は全て本物でございます」


「あ、あらまあ~そうですの! オホホ! さすが金持家様!」


 うわ、びびったぁ~……。この白髭執事、人の心を読める能力でもあるのかしら。一応桃尻家を背負って来てるからマイナスイメージだけはつくことのないようにしよう。

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