SS 家族の分断

 シルヴィの暴走から数時間後、俺たち一家も馬車にのった。目的地は聞いていない。まぁ何も起こらないだろうから問題ないだろう。


「それにしてもエルビスが精霊様と契約をするなんて思ってもいなかったわ」

「流石俺たちの息子だな!」


 親の話を何となく聞き流しているとディーネが俺の肩を揺らし始めた。


「なんだよ?ディーネ?」


「マスターは馬車とか平気なんですか?」


「見ればわかるだろ?余裕さ余裕!」


「マスターはすごいですね・・・私はもう無理です」


 そう言ったディーネの顔を見ると、びっくりするくらい真っ青な顔をしたディーネと目が合った。


「おい?ディーネ?大丈夫か?」


「うっぷ 大丈夫に見えますか?マスター」


「いや見えないけど」


「そうです・・・無理です限界です」


「遠くを見るといいって聞いたことあるぞ?」


「本当ですか?では遠くを見ています。」


 ディーネは死にそうな顔をしながら虚ろな目で遠くを見始めた。


「マスター効果がありません」


「そんなすぐ出るもんじゃないよ。もう少し気長に待ってくれ」


「無理ですよ!死にます早く酔いから覚めないと死にます」


 ディーネがうるさいのでしばらく放置してみることにした。


「しぬしぬしぬ」


 ディーネはうわ言のように永遠に同じことを繰り返し言っている。そんなディーネに気を使って御者が一度止まってくれた。


「あぁ!地面です!最高です!マスター私が地面と結婚することに許可をください!」


 ヘロヘロとした声でそんなことを言うディーネ、30分ほど放置していると元気になったディーネがこちらに走ってきた。


「マスター!元気になりました!やはり元気というのは素晴らしいですね!」


「そうか元気になってよかった。じゃあ馬車に乗ろうか」


 ディーネが高速で俺の腰元に抱き着いてきた。


「も、もう少しお待ちください!」


「でも日が落ちそうだし・・・」


「なら今夜はここで野宿します!どのみちどこかで野宿はするんですからいいでしょ?」


 俺は両親の方を見た。こっちを見て頷いてくれたので今夜は、平原で野宿をすることになった。


「あ~温かいスープ最高!」


「マスター?私の分もいりますか?」


 ディーネが気を使って俺に譲ろうとしてきた。


「それはディーネのだろ?早く飲んじゃえよ!」


「わかりました。」


 少ししょんぼりして、ディーネはスープを飲んだ。


「おいしいですね!この寒い季節には最高です!」


 一口飲んで元気になったディーネは一気にスープを飲み干した。


「マスター・・・村を解散させましたけどこれで解決するんでしょうか?」


「わからん、でもあそこで大勢の命が失われることはないだろうな・・・どちらにせよ今の俺では力不足だ。あの黒ローブもきちんと倒したい。後は黒錬金術をこの世から抹消させる。そのために魔術学校へ行こう」


「そうですね、でもマスター?今回の時間の巻き戻しはマスターの復帰ポイントが回復の泉だったから死なずに私が回復できただけで普通はあの時点で死んでいたんですよ?あれを使う時は本当に命を対価にしているんですから気を付けてください!」


 ディーネに今更こってりと叱られた。


 翌日、朝早くから馬車は動き始めた。そして早くもディーネは撃沈している。


「マスター、助けてぇ殺してぇ」


 遠くを見たすら見ながらディーネはそんなことを言う。突然ディーネが飛び起きた。


「まままマスター!魔物です!黒魔種が大量に攻めてきています!」


「何?どこだ!」


「後方です。数は15ほど速度はこちらの方が遅いです!直に追いつかれます!」


 魔物の襲撃に警戒を強くする一行。


「これは追い付かれるな・・・俺とディーネだけ降りて足止めするか」


「止めなさい!そんなことして何になるの!あなたはまだ子供よ?足止めもできずに死ぬわ!」


 母親がオレを止めようとする。めんどくさいので両親を催眠付与で眠らせ俺とディーネは、馬車を飛び降りた。馬車はそのまま走り去っていった。


「マスター気持ち悪いです。」


「いやいやそんな状況じゃないから!しっかりしろ!」


「でも~」


「来たぞ!」


 ディーネの言葉を遮り俺は警告を出す。


 俺は渾身の龍魔法を展開した。そして魔物の集団に一撃くらわせた。爆風で吹き飛ぶ魔物たち15体のうち3体が生き残ったようだ。あの個体はかなり弱い。やはりこの時期の黒魔種はまだ強化がさほど入っていなくて弱いようだ。


 残った黒魔種は酔ってふらふらなディーネによって倒された。意外と早く終わったが馬車はとっくの前に走り去りもう影も見えなくなっていた。超加速で追いかけてみたが途中で道が分岐しており追跡をあきらめた。


 そして数日掛け俺とディーネはマージャスの街にたどり着いた。


「マスターお金ってありますか?」


「いや、無いな、稼ぐしかないんだけど」


「では冒険者ギルドに行きませんか?」


「うーんそれは最後の手段だな。俺の年じゃあ、冒険者になれないしな」


「そうですか・・・ではどうやって稼ぐおつもりですか?」


「魔物討伐して商業ギルドに行くとかどうかな?」


「冒険者ギルドの方がよろしいのでは?」


「そうか・・・じゃあ冒険者ギルドに魔物の素材を持ち込むか・・・じゃあそこら辺の森で魔物を倒そう」


俺とディーネは森の中に歩いて向かった。正直宿で休みたいがお金がない!


「マスター、あそこにゴブリンの集落があります!潰しましょう!」


「任せろ!」


俺は龍魔法を直撃させた。もちろんそこには何も残ってなどいない。


「マスター!やりすぎですよ!」


「ごめんって、あそこにオークがいるぞ!ディーネ!」


「わかりました!」


ディーネがオークに飛び掛かり首を切り落とした。自慢げにオークを引きずりながら帰ってきた。


「ディーネはやりました!さあ!マスターこれで宿が借りられます!」


こうして俺たちは宿を借りることができたのだった。

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