第38話 2章 プロローグ
俺は、今日6年間一緒に生活した妹と離れ魔術学校の入学試験を受けに行く。俺が受験するサリナ―ル魔術学校は、ウルド領のハーミラという町にある。
今いる街からは、馬車で3日程度かかる距離だ。俺がいるマージャスという町には、グレワール魔術学校という学校があり、そこに妹は研究員として通っている。
俺が、グレワール魔術学校に通わかなったのは、妹がいるからではなく校風が肌に合わなかったに過ぎない。
ちなみにサリナ―ル魔術学校の入学試験は、8日後だ。実は、走った方が早いのだが今回は、馬車に乗ってゆっくりと行くことにする。
「じゃあ、そろそろ行くから……レイラわかってるよな? 変なことはするなよ!」
俺は妹に変なことはしない様にと注意だけしっかりとしておく。
「お兄ちゃん……それはもう一人の私に言ってよ。私はあんな事したくないのにもうひとりの私が勝手にあんな事やるんだから仕方がないじゃん
妹は二重人格だ。何かに取り憑かれていると俺の契約した精霊は言っていたが……ナニコレすごく心配、『また』勝手に人間を家に連れ込んで魔術付与実験とか始めないよな? 心配だ。
さて、妹に注意もした。魔術学校に受かればこの街には帰ってこない、お世話になった冒険者ギルドにも挨拶をしよう。
いつも通り冒険者ギルドに入るとにぎやかだった冒険者ギルドが静まりかえる。
「あ、エルビスさん! 今日はどうしました?」
受付嬢がびくびく震えながらオレの対応をする。初めて冒険者ギルドに来た時、かなり高ランクの冒険者に喧嘩を売られそいつを吹き飛ばしたらギルドが半壊した。それ以降ずっとこんな対応だ。
「今日は、挨拶をしに来たんです。前々から言っていた魔術学校の入学試験があるので行ってきます。合格したら帰ってこないので」
受付嬢が立ち上がり嬉しそうに微笑む
「とうとう行くんですね!」
「なんか嬉しそうですね……」
全力で顔を背ける受付嬢、はぁ……まあいいや行こう。事前に予約した馬車まで向かう。そして馬車に乗り込むと妹がこちらに走ってきた。これは……凶悪な方の妹だ……
「お兄ちゃん。これ! 私が開発した魔術道具! もし危なかったらこれ使って!」
そう言ってオレに渡してきたのは、卵だった。卵ですか? まぁ食べろってことかな? わからんが持ていってと言うなら持っていこう。
見送りのレイラを置いて馬車が走りだす。すると俺の腰に携えている剣から青髪の16歳程度の女の子が出てきた。彼女はディーネ、初めて会った時から姿は変わっていない。なぜなら彼女は精霊だからだ。
「マスター私は自由です! あのいつどこで凶悪なモンスターに変身するか分からない凶悪な妹君から離れられました! うへへへへ」
ディーネは妹によって以前行われた何かによって強烈なトラウマを植え付けられていたらしく、普段のディーネではありえない異様なテンションで自由を謳歌していた。
しばらく馬車に乗っていると、ガタンと音を立て急に馬車が停止した。
「お客様。魔物です! 護衛が今魔物を退治するので、少々お待ちください!」
御者のおじさんがそう言ってオレたちが馬車から出ない様にと忠告してきた。俺はレイラが渡してきた卵を見つめる。少しだけ気になって使うことにした。
おそらく割れば効果が発動するんだろう。そう信じて俺は思いっきり卵を地面に投げると急に出現した縄出現してディーネを目掛けてウニョウニョ這い回り始めた。そしてディーネがグルグル巻きになるまで数秒だった。
「え……どういう事?」
「マスター。何でこんなことをするんですか! レイラ様ですか? レイラ様に影響されたんですか? 私はいつものマスターが好きです! 戻ってください!」
縛られたディーネは、半泣きになりながら俺に懇願してくる。
「ごめん。今ほどく。全くレイラはやっぱり変わってないじゃないか! これ危なくなったらディーネを生贄にしろってことだろ? 今度会ったらお仕置きだ!」
俺が必死にディーネの体から縄を解いていると馬車の外から声がした。まだほどき終わっていない……ディーネを俺の体で隠しながら対応する。
「お客様! 魔物の討伐が終わりました! また動き出すのでしっかり捕まってください!」
「了解しました。お疲れさまです」
御者のおじさんが俺たちにそう言って操縦席に着くと再び馬車がゆっくりと動き始めた。馬車に揺られながらディーネに絡みついた縄をナイフで切り裂いた。だが固くてなかなか切れない。
「マスター痛いですそこ痛い! もっと優しくお願いします!」
30分程度解くのに時間がかかってしまった。ディーネはトラウマを刺激されたらしく馬車の端っこにうずくまり泣いている。
そこからは何もなく馬車で3日かけようやくハーミラに着いた。
「マスター気持ち悪いです。介抱をしてください~」
3日間の苦行を乗り越え地面に降り立ったディーネは馬車に酔いヘロヘロだ。
「あの大丈夫? そこの女性すごく辛そうだ。僕はクラウド、魔術学校に通うためにこの街に来たんだ。」
同じくらいの時間に別の馬車から降りてきた少し気の弱そうな男の子が声を掛けてきた。
これが、クラウドとの出会いだった。
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