第34話 狂っているのは……
残酷な表現があります。苦手な方は注意してください。
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「ねぇ、エルビス……いやな予感がするの……」
「そうだね、シルヴィはここに残ってくれないか?」
俺たちが、帰る村の方向には黒い結界のようなものが張り巡らされている。それがラーナンの街から目視で見える。
ただならぬ雰囲気だ。ここからでも感じる異質な魔素の集合体に街の人間は一言も発することができずに、ただ見つめている。昼間の騒ぎが嘘のようだ。
「嫌だ。私も付いていく! お父さんもエルビスもお姉ちゃんも死んじゃったら私には何も残らないもんそれなら私も行く!」
「シルヴィ……わかった」
結界の方に近づくにつれ悲鳴や混乱する声が聞こえてくる。そんな街の中を俺とシルヴィは駆け抜ける。
「シルヴィ! もっと早く走ってくれ! 急いで村に帰るぞ!」
「待って、エルビス! 走るの早いよ!」
シルヴィが遅い! 俺の頭で、家族や村のみんなの惨い姿がよぎった。急がなくちゃ。
「シルヴィ! 背中に乗れ!」
俺はしゃがみこんでシルヴィを乗せると超加速を発動して村まで走る。馬車に乗るより走った方が早い! ぬるい風が結界から吹いている。
結界の境界線にはすぐに着いた。結界が予想外に大きいためだ。そして結界の中には今まで見たことがないほど大量の黒魔種がいる。
「ディーネ!」
俺は、ディーネを召喚するが反応がない。
「やっぱり呼び出せないか……」
「ディーネさん呼び出せないの?」
シルヴィが俺の背中からちょこっと顔をのぞかせ質問する。
「ああ、無理だ、何かに阻害されてるし、この黒魔種の規模は今までに見たことがない、ディーネはともかく村のみんなの生存は絶望的だ。」
「そん……なヤダよ! エルビスあの中に行くつもりなの? だめだよ。死んじゃうよ!」
シルヴィが辛そうに泣きながらオレの背中にギュッと捕まる。
「エルビスは悲しくないの? みんな死んじゃったんだよ?」
「まだ死んだかわからないだろ……カインさんがいるし助けられる命があるかもしれない。だからシルヴィはここにいろ俺だけ行く」
「ヤダ。やだ! 私も行くの!」
シルヴィが必死で抵抗してくる。やめてくれ、俺だって精神ダメージ完全無効がなければ、混乱してアホみたいに突っ込むだけだったかもしれない。
『睡眠付与獲得しました。』
狙いすましたかのようなタイミングでスキルを獲得した。だが都合がいい
「シルヴィ、少し降りてくれ」
俺はシルヴィを背中から降ろした。そのまま睡眠付与を手に纏わせシルヴィに触れると、糸が切れた人形のように倒れた。
「よし、行くか! 何故かわからないけど、黒魔種は結界から出てこない、ここに置いて行っていいよな」
俺は黒い結界の中に入る。恐ろしい重圧と息苦しさだ、そして結界に入り込んだ瞬間黒魔種が一斉に襲い掛かってきた。
たまたま村から出ていた俺は、村のみんなの生存を確認する必要がある。
まずはこの死線を越えなくては!結界が大きくなるかもしれない。その時シルヴィが飲み込まれたら殺されてしまう。ここにいる黒魔種は絶滅させる。
この後も激しい戦いが予想できる。だが、ここは躊躇せずに練習していた技を発動するべきだ。
『氷、龍魔法:アクアバレッド(破壊属性付与)』
短時間では3回ほどしか発動できない龍魔法を発動する。
龍の口から射出された水球が魔物の集団に直撃する。そして飛び跳ねた水がすべてを破壊する。
オレの目の前にいた1000体を超える魔物は一瞬で肉塊になった。肺から何かがせりあがってくる。
「ごっほっ!」
血を吐きだした。体内の魔力に破壊属性を付与して魔法発動するのは正直力技だ。本来ならじわじわ体内に浸透する破壊属性を直接体内の魔力に付与しているんだからこうなるのも当然だ。
本来なら3回は使えるがあと一回使えればいい程度まで体力は消耗してしまった。
1分ほど休憩して村へ走り始めた。地面は先ほどの魔法でボコボコだ。特に直撃した場所は破壊属性が付与された水で湖ができておりここら辺一帯が不毛の大地になるのは容易に想像できる。
一キロほど走り裏山の頂上に着いた。
村には明かりが一切なく遠目で見ても村が真っ赤に染まっていて生存者がいないのがわかる。そしてそんな村の真ん中には黒いドラゴンがいた。間違いなく黒魔種のドラゴンだ。勝てない。その確信は間違いないだろう。
ドラゴンが何かを咀嚼している。口の中から見たことのある服が見えた。あれは村人の誰かだ……
発狂したり泣きたくなる気持ちを強制的にスキルが抑える。俺は今至って正常だ。冷静な思考を保っている。
いや、こんな状況で正常な精神を保ってる俺はおかしいのかもしれない……
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シリアスが続きます。一章もハッピーエンドで終わるので安心してください。
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