第32話 保存の鏡
しばらくしてレイラの部屋に向かうとなにか様子がおかしいことに気がついた。ディーネが天井に逆さ吊りになっていた。
ディーネ……なんであんな縛られ方してるんだ? ディーネは糸が絡まった時みたいな縛られ方をしていた。
「お兄ちゃん? 大丈夫?」
そう言ってレイラが急に部屋の隅から出てきてオレの顔を覗き込んできた。なんで手にナイフを持っているんだ?
「おいレイラ? こういう事はよくないとは思わないのか? 常識的に考えろ」
レイラは全く反省する様子がなくへらへらした様子で答える。先程の俺の背中に隠れていたレイラとは完全に別人だ。
「え~でもディーネさん怪我しないじゃん! ならいいじゃん少しくらい」
「関係ない! ディーネをまず放せ」
「嫌だ! 研究対象だから終わるまで放さない」
ここで俺の中の何かが切れた。
「そうかお前、ディーネの事をただの実験動物、モルモット程度にしか思っていないんだな。それなら俺もお前を妹としては二度と見ない。」
「別にいいよ~それでも私達の血は繋がってるその事実は変わらないから」
俺は、レイラを無視してディーネを開放した。
「マスター! 怖かったです! レイラ様には何かが宿っています。二重人格です。先程まで普通に話していたのに急に性格が変わってあんなふうに縛られたんです」
カタカタ震えすぎて電気マッサージャーみたいになっているディーネをそっと抱擁する。
「あ、あのお兄ちゃんその……ごめんなさいもうやらないから、もうやらないから嫌いにならないで」
先程までの態度を一変させひたすら謝るレイラ、いつものレイラか? 本当に唐突に性格が変わるな。
「マスターレイラ様に宿っているのは悪いものではないです。けど怖いので私は引きこもります」
「お前の中にいるのが何かわからないけど……俺の周りにいる大切な人達に危害を加えようとしたら退治するからな!」
俺は、レイラの中に宿るなにかにはっきり宣言した。
そう言うとびくりと肩を揺らすレイラ。
「分かった。お兄ちゃんの周りにいる人には危害を加えない。それでいいの?」
急に冷たく平坦な声に変わった。
「ああ、それで良い」
そう言ってレイラの部屋を出た。何者が宿っているか知らないが対策は考えておこう
「よろしいのですか? あんなことを言ってしまって」
「仕方ないだろ、あんな何を仕出かすかわからないやつが宿ってるなんて思わなかったんだ。」
カインさんにも一応伝えておこう。だがその日はこれ以上何もなく終わった。
翌日レイラとの距離感がつかめなっていた俺は、早めにシルヴィの家に向かった。
「シルヴィ? いるか?」
俺は基本ローレン家の出入りは自由なのでシルヴィの部屋の前でノックしてみた。
すると中から青ざめた顔をしたシルヴィが俺に抱き着いてきた。プルプルと震えるシルヴィの頭をなでてやると少しづつ落ち着きを取り戻してきた。
「え、エルビス……レイラちゃんがうちに来てお父さんが……」
そこまで聞いた瞬間俺はゼオンさんの所に駆け出した。昨日の今日でとうとうやったか! 俺の頭の中にはゼオンの死体がありありと思い描かれる。
ゼオンの部屋を思いっきり蹴飛ばした。
「ゼオンさん! 大丈夫か!」
戸を開けると上裸のゼオンと真っ裸で気絶したレイラがいた……あっ
「死ね! ゼオン!」
俺はゼオンさんの胸を思いっきり蹴り飛ばす。
「犯罪だぞ! ゼオン! お前がシルヴィを悲しませるようなことをするとは思わなかった。」
そう言うと必死で手を振ってゼオンが否定を始めた。
「ち、違うぞ!お前の妹が『お兄ちゃんに嫌われそうなんです! 昔はゼオンさんとお兄ちゃん仲が悪かったけど今は普通って聞きました! どうやったのか教えてくれるなら私を自由にしていいです!』とか言って服を脱いだんだ! それに俺が6歳児に興味があるように見えるか?」
俺は冷酷な目をゼオンに向け続ける。
「いえ、今日が俺とレイラの誕生日だ。知ってるだろ、つまり7歳児になら手を出す可能性がある」
「ねーよ! 俺が上裸なのだってお前さんの妹に服を引き裂かれたからだ! 見ろこれ!高かったんだぞ!」
そう言ってびりびりに引き裂かれたゼオンさんの服を俺に見せてくる。
「なるほど……わかりました。ゼオンさん蹴って申し訳なかったです」
「いや、俺も同じ状況なら殺してた。だから気にするな。それより、どうするんだ?この状況」
ゼオンは散らかりまくった悲惨な部屋を見渡しながらそう言った。どっちのレイラがやったかいまいちわからん。
「……じゃあ頑張ってください、ゼオンさん! 僕は今日シルヴィが誕生日を祝ってくれるって言ってたので、そちらに行ってきます。ディーネ、レイラを頼む」
ディーネを強制召喚してディーネにレイラを家まで運んでもらった。若干レイラに触るのを怖がっていたが、昨日何をされたのだろうか?
「あ、そうそうここ2~3年くらい不作でこの村がやばいんだが、ディーネさんに何とかできないか聞いてくれないか? あと増えている魔物退治も頼む、ほら俺からプレゼントだ」
色々俺に注文した後プレゼントを渡してきた。中を見ると保存の鏡という記憶を保管して忘れた頃に見ると完全に記憶を復元するという白錬金術製の鏡であった。
子供にこんなの渡して何になるんだ? これ老人向けの商品じゃん
そう思いながらシルヴィの部屋に入った。
「あ、エルビス! 大丈夫だった? レイラちゃんがお父さんを裸にするところまで見てたけど怖くなって逃げちゃった。」
「大丈夫だ、問題ない気にしないで」
そう言うとシルヴィは笑顔になった。安心したようだ
「ところでその鏡お父さんのプレゼント? 見せて?」
俺は、シルヴィに保存の鏡を渡した。
「へぇ~おおー! 光った。きれいな鏡だね」
鏡を返してもらい覗き込むとシルヴィの記憶が保存されてしまった。おい! 消耗品を勝手に使用するな! まぁ貰いものだから俺が持って帰るか……
「あ、エルビスに誕生日プレゼント!」
そう言って手渡されたのはきれいな首掛け時計だった。嬉しい! なんかかっこいい!ゼオンのとは違い効果は何もないが老人用商品を送り付けたゼオンよりよほどましだ。
エルビス! リーナスの街に行こう! 誕生日だから私がおごってあげる!」
俺はシルヴィに手を引かれ街に向かうのであった。
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