第16話 お留守番

 


「まじか?んーどうするか。人間以外はいるか?」


『近くにはいないと思うわ』


『黒い蛇さんは分かりにくいからいるかもしれないけど、狼さんの匂いはしないー』


「了解。なら急ぐこともないだろ」


『はーい』


『わかったわ』


『クー太さんは凄いですね。私も今気づいたところです。それとその人間さん、私達の方向ではないですが移動しているみたいなので追いかけるのでしたら早めに追いかけた方がいいと思います』


 あ。ハクのクー太の呼び方はさん付けなのね。今までも呼んでたかもしれないけど気がつかなかった。

 あとはまあ意味もなくこの森の中で立ち止まったりはしていないか。急がなくとものんびりしてると見失うかな?


 まあその前、に。


「クー太はレベルアップで嗅覚も上がっているのかね。ところでみんなお互いのことなんて呼んでるんだ?」


『??ボクはラン、クレナイ、ハク、アキだよー?』


『私もそうね』


『私はクー太殿、ラン殿、ハク殿、アキです』


『私はアキちゃん以外さん付けですよ』


『わたしはみんなさん付けです!クレナイさんとハクさんはなんでわたしだけ呼び方が違うのですか!差別です!』


『アキはアキでいいかと』


『アキちゃんはアキちゃんよ』


『うぅ…。なにか差を感じるです!』


「可愛がられてるってことだよ」


『そうなのですか⁉︎ならいいです』


 ふんふん。と頷くアキ。


 気になったもんだからクー太達が見つけた人を追う前に聞いてみたかったのだ。話が脱線したな。

 にしても人ねー。普通だったらこんな森の中、しかも魔物だらけだからすぐにでも合流するところなんだが…。

 こいつらがいるからなー。


 クー太、ラン、アキはいいとして、ハクとクレナイは怖がられるか、攻撃してくるかしたら嫌だし。

 まあレベル上げに俺はいらなそうだし、クー太たちが倒しても俺には経験値が入ってくるみたいだから別行動しても問題はないんだが…。


「俺はその人間のところに行って、みんなは狩り。って感じで別行動でも大丈夫か?」


『ボクも行っちゃだめー?』


「いや、だめではないが、クー太にもレベル上げはしていてほしいしな」


『わかったー我慢するー』


『ご主人様1人でも大丈夫?』


「それは平気だろう。その人間がどういう人かはわからんけど危なそうなら逃げてくるし、普通の人なら一緒に話すか、街の方へ行くだけだろうからな。あ。でも俺1人だと元々いた場所にたどり着けるかね」


『ご主人様、私たちが出会った場所はあちらの方角です。それとご主人様が迷っても手助け出来るよう私やクー太さんがご主人様の居場所を特定出来る距離で狩りをして、方角が違っていたり何かあれば、小さくなったクー太さんかランさんがこっそり連絡しにいく。とかでどうですか?』


『そうですな。それなら主様の方へ行きそうな魔物を間引けますし、それがいいかと思います』


『それでいいよー。あとねーハクと会ったのはあっちだけど、ボクと会ったところに戻るならこっちの方角に真っ直ぐがいいかなー?』


『そうね』


『ご主人に捨てられるわけではないです?』


 アキがまた阿呆なことを言っている。


「そうだな。そうしてくれると助かる。クー太もハクもありがとう。まあどうなるかわからないからな。とりあえずクー太だけ小さくなって鞄に入っててもらえるか?その人と会って方針が街へ送ってほしいとかならさっきの感じで頼むよ」


『わかったー』


『ご主人様私も連れてってくれないかしら?その鞄なら私とクー太が入っても大丈夫でしょ?』


「まあ構わないよ」


『あ!ならわたしも行くです!』


「アキはハクとクレナイといなさい。ハクもクレナイもアキを頼むな」


『『はい』』


『なぜです⁉︎』


「絶対騒がしくするだろ」


『そ、そんなことないのです!』


「アキはお留守番決定。いい子だから待ってろよ」


『むむむ…。わたしはいい子だからちゃんと待ってるのです』


 少し不安になるのはどうしてだろうか。


「じゃあ行くか。クー太とランはもう鞄に入っておくか?」


『そうするー』


『そうするわ』


「了解。あ、邪魔なものは出して置いておくか」


 筆記用具やら紙類などは出しておく。まあ昨日はお酒を飲みに行くってんで持って帰る必要が特にないものはほとんど会社に置いてきたのでそんなに多くはないが。


「んじゃ入ってくれ」


 鞄に入り顔だけを出す狸二匹。

 片手で持つタイプのビジネスバッグだからいくら小さいといっても片手で持つには辛いかなー。と思っていたが何も問題ない。これもレベルアップのおかげかね。


「人と会う時はちゃんと隠れてろよ?」


『もちろんー』


『わかってるわ』


「じゃあクレナイ、ハク、アキ少し待っててくれな」


『お気をつけて』


『いってらっしゃいませ』


『いってらっしゃいなのです』


 クレナイ達に見送られてクー太の案内に従って進む。


「そういえば一人だけか?何人かいるのか?」


『多分一人ー?』


「そうか。まあ俺が見える距離まで近づいたら少し様子をみようか」


 柄の悪そうな人とかだとあまりお近づきになりたくないしね。

 それにしても一人か。ここが山だったなら登山客とか、ちょっとした森林だったならウォーキングとかしにきたらこんなことになった、とかかな?

 ここがどこだか全然わからないんだけどね。


 クー太たち曰く住んでいたところから街が見えなくなるくらい草木が突然伸びてきたらしいし、そんな急成長したってことはここら辺もそうだろうし仮に来たことがある場所だったとしてもわからないだろう。


『ご主人さまー黒い蛇さんいるっぽいー』


『あ、本当だ。私にもわかるわ』


「襲ってきそうか?」


『んー。多分さっきの蛇さんかなー?だから平気だと思うー』


「まだ近くにいたのか。まあさっきの蛇ならさすがに襲ってこないだろう」


 それから五分ほど歩いたか?クー太に止められた。


「近いのか?」


『もうすぐ見えると思うー』


『そうね』


 そこからは音を立てないようにクー太達の言う方向へそっと移動する。

 ガサ、ガサっと音と立てながら移動している人を見つけた。

 若い女性だ。若いといっても俺の少し下くらいか?男の方がよかったのに…。話しかけて不審者扱いされないかが心配だ。

 にしてもなんだ?脚を少し引きずってるのか?


「クー太、ラン。血の匂いはするか?」


『少しー?』


『そうね。擦り傷くらいじゃないかしら?』


 ならまあ大きな怪我をしてるわけではないだろう。足を捻ったとかか。

 こりゃ安全なとこまで送り届けた方がいいか。


「クー太、ラン。確定ではないが恐らく送り届けることになると思う。だからここで待っててくれ。俺があの人と移動し始めたら送り届けると思ってクレナイ達のところに戻って大丈夫だ」


『わかったー』


『大丈夫なの?』


『まあ危なそうな人じゃないし。どちらかというと俺が危ない人扱いされそうだが』


 突然人気のない森の中で男が話しかけてきたら1人でいる女性としては不安になるだろう。

 クー太達を見せれば警戒は解けるかもしれないが…。まあいいや。初めの方針でいこう。


「んじゃいってくる」


『いってらっしゃいー』


『気をつけてね』


 クー太達にこの場で待っていてもらい、ゆっくり進んでいく。あちらからも認識されるくらいの距離に来たので声をかけようと思った。が、なんて声をかけようか。

 すんごい今更だが別に無理に声をかける必要ってないよな?Uターンして何もなかったことにしようか…。


「す、すみません!」


 あ…色々も考えていたら逆に声をかけられてしまった…。

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