弁護人質問(1)

「被告の治療記録ですか?」

「ええ、何故、貴方は被告人が逮捕された直後に被告人の治療を行なったのですか?」

 私は、当時、警察病院に勤務していた医師に、そう質問した。

「そりゃ、被告人が怪我をしていたからです」

「その怪我は、いつ負ったものですか?」

「えっ?」

「被告人が怪我をしたのは逮捕の際か、それ以前かは判りますか?」

 その時、怒りに満ちた大声が轟いた。

「異議あり、裁判長。明らかな誘導尋問です」

 法廷内は驚愕に支配された。その指摘をしたのが、余りに予想外の人物だったからだ。

「あの……何と言うか……私も初めての経験ですな……」

 裁判長がようやく口を開いた。

「被告人は休憩を求めているのですか?」

「はぁ?」

 私の依頼者は、裁判長の質問の意図が良く判っていないようだった。

「弁護の内容や方針に不満が有るのなら……被告人と弁護人で話し合って下さい」

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